【動画公開】今月のモジュラー・シンセ:HATAKEN's LIVE Set(後編) 〜第19回 Patch The World For Peace

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 こんにちは、HATAKENです。モジュラー・シンセの魅力を掘り下げてきたPatch The World For Peaceは、今月で終了となります。2年間ご愛読、応援してくださりありがとうございました! アーカイブはWebサイト『サンレコ』に残りますので、今後もお役立てください! 最後は僕の演奏方法についてお話ししていきます。

●HATAKEN's LIVE Setの前編はこちら:

今月のモジュラー・シンセ:HATAKEN's LIVE Set

3つのセクションを出し引きして場面を展開

 先月のおさらいから! 今回のライブ・システムは3つのパートで構成しています。キック、ベース、トップ・メロディ、MUTABLE INSTRUMENTSの物理モデリング音源RingsはXAOC DEVICES Pragaというミキサーに。キックとベースを除くリズム・セクションの最終アウトはMUTABLE INSTRUMENTS Beadsに。バッキング、サンプラーはMAKE NOISE QPASとMimeophonに送り、効果音を鳴らします。

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 それらを出し引きしながら、音の場面、景色を演出していくわけです。3つのセクションのどれかが主役で、徐々に入れ替わるのですが、それぞれのパートがシンクしていたりするので、音楽的な要素とそうでないものが絡む、不思議な演出や場面転換ができます。

 

 MALEKKO HEAVY INDUSTRY Varigate 8+で打ち込んだリズムは、テンポをグニグニと変化させて雰囲気を変えたり、あるいはランダム・インにトリガーを送りパターンをどんどん崩していき、リロードで元のパターンに戻してみたりして演奏します。ベースに使ったCWEJMAN BLDとシーケンサーMAKE NOISE Reneでは、ワンノートのキックのようなベース・パターンはもちろん、任意のステップ数でホールドしたミニマルなループも作れます。各ステップのピッチ・ノブによって、クオンタイズされたアナログ・シーケンサーのようなベース・ラインへも随時変更できます。

 

 CVサンプラーのMUTABLE INSTRUMENTS Marblesで鳴らす物理モデリング・オシレーターのデュオINTELLIJEL PlonkとRingsもパワフル。それぞれ別のオーディオ・セクションに分けているので、別々のエフェクトがかかります。Plonkをピッチ低めの弦的な音にして、高めのピッチのRingsとアンサンブルさせたり、ジャズ的なグリッドからシフトした演奏にすることで、場面演出に一役買ってくれました。次々出現するモジュラーの電子的な音の動き、美しい変化は、時間を忘れて演奏させてくれます。

コントローラーを4つのCVバンクとして使用

 今回のシステムにおいて特筆すべきパッチングについてお話ししましょう。まずはランダム・ソースMAKE NOISE Richter Wogglebug関連のパッチングで、Stepped OUTのCVをINTELLIJEL Scalesでピッチ・クオンタイズしてメロディを演奏させています。さらに、同じルートにしたQU-BIT ELECTRONIX Chordに使っているQPASのレゾナンスをSmooth OUTのCVで操作し、Woggle OUTのCVはQPASのメインFreqに入れてフィルターの開き具合をビリ付かせます。QPASのメインFreqにはもう1つ入力端子があるので、そこにはMALEKKO HEAVY INDUSTRY Voltage Blockのch8のCVを送り、Woggle OUTのビビり具合と組み合わさるようにします。

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 これにより、HIKARI INSTRUMENTSのオシレーターSineのメロディの昇降にシンクし、和音とメイン・メロディが共通した動きをして、不思議な一体感が生まれます。その一体感の度合いをライブで調整して“演奏”するわけです。そのときにChordの演奏するコード・タイプ(quality)をMAKE NOISE Pressure PointsのchBで制御し、ボイシングをchCで、Scalesのスケールの切り替え(SHIFT)をchAで制御して、Pressure Pointの3chを生かした4つのCVバンクとして使います。タッチ・パネルで選んで任意のコードを演奏させ、メイン・メロディのスケールもそれに合わせて切り替わるようにしてみました。

 

 ほかにもVoltage Blockは階段上CV出力のみとなりますが、音程によるメロディではないコントロール制御により音の変化にリフのようなフレーズが生まれてきます。それこそモジュラーの醍醐味で、面白さかもしれません。

 

 モジュラー・システムは複雑なようですが、シンプル。手を出してみると、あなたの気持ちやセンス次第で音楽が変わるのを実感することでしょう。CVをどこに突っ込むのが良いか、あちこちに送り変化を見て、またひらめいて……パッチ・ケーブルが増えていくのです。そうするうちに、欲しいモジュレーションCVやTrig/Gateをほかの目的で入力モジュールから拝借したりすると、いよいよユニークで面白い音楽が生まれてきます。さらにそこで、パッチングの理屈を完全に把握していくと、モジュラー・ライフの充実度はグッと高まると思います。結果、進歩も早いです。ぜひ、皆さまにもモジュラー・シンセを通した音の世界を探求して、ノブを操作する喜びを知っていただきたいです。

 

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HATAKEN

【Profile】1990年代よりシンセ奏者として活動。2013年から東京モジュラーフェスティバル(TFoM)をデイブ・スキッパーとともに毎年開催。世界中のモジュラー・シンセ・メーカーや、モジュラー・シンセを演奏するアーティストを招き、国内でのモジュラー・シンセの普及に努めている

 

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