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SUGIZO インタビュー 〜最新アルバム『愛と調和』のサウンド・メイクを語る

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ギターと現代のモジュラー・シンセを掛け合わせれば
フリップとイーノに無かった新しいアプローチが見えてきそう

LUNA SEAやX JAPANといった日本を代表するスタジアム級ロック・バンドのギタリストでありながら、ソロ活動ではエレクトロニクスを導入したストイックな音像を追求するアーティスト=SUGIZO(写真左)。彼が『ONENESS M』以来、約3年ぶりとなるオリジナル・アルバム『愛と調和』をリリースした。ギターとシンセサイザーが交差し、ドローン~アンビエントにも通ずる深遠なサウンドスケープを見せる本作。音響面のクオリティも手伝い、聴き入れば心が浄化されていくような感覚となる。SUGIZO本人に加え、アルバムの制作でモジュラー・シンセを担当したHATAKEN(同右)もキャッチできたので、彼のKaminomizoshiru Studioにてインタビューを敢行した。

Text:辻太一 Photo:鈴木千佳 Hair & Make(SUGIZO):酒井夢美 Hair & Make(HATAKEN):原田佳奈

 

アンビエントでは音場が重要なので
ほぼ全曲でバイノーラルを駆使した

『愛と調和』は低音や音圧で勝負する音楽とは全く違うスタイル……むしろ楽器の音の質感やミックスの奥行きを重視しているように感じられます。

SUGIZO 音楽にはメロディやリズム、グルーブ、ボイシング、ハーモニーなどのさまざまな要素がある中で、僕にとって最も大切なのが“音そのもの”なんです。たった一音に、奏でる人のバックグラウンドやエネルギー、思いが集約されると近年は実感しています。もともとは昨年お亡くなりになった近藤等則さんから教わったことですが、特にここ5~6年は身にしみて感じており、『愛と調和』でもそれを最重要視しています。また、近作では4つ打ちなどの強烈なリズム、もしくはアバンギャルドでノイジーなビートに快感を覚えてきたのですが、今回はそれらを排し、ヒーリング・ミュージックやアンビエントの方向へ舵を切りたかった。音楽というよりは環境音の延長に近いサウンドを求めていたので、やはり重要なのは音そのもの、と同時に音場ですね。なので、ほぼすべての曲でバイノーラルを駆使しています。

 

ヘッドフォンかイアフォンがあれば、実際の空間で音を聴くような立体感のある音場が得られるわけですね。

SUGIZO はい。Ambisonicsなどは素晴らしい立体音響のフォーマットだと思うのですが、専用システムをお持ちの方でないと再生できません。だから一般的なステレオの環境で音に包まれる体験を実現したく、バイノーラルを使いました。例えば森の中など、大自然に身を投じると周囲360°から音が聴こえるのは当たり前ですが、音楽に関しては普通、いきなり後ろから聴こえてきたらびっくりしますよね? 奇抜な表現としても効果的な場合があるかもしれないけど、今回は“すごい”と感じてほしくなかったというか、ごく自然に聴こえるようにしたくて。素材によっては、バイノーラル・マイクで収めるとマイクのキャラクターで原音のイメージが変質してしまったので、ステレオで録ったものをプラグインでバイノーラル処理することも多かったです。

 

どのような素材をバイノーラルで聴かせている?

SUGIZO 基本的には環境音……水の音や森のざわめき、子供たちの声など、そういう音はバイノーラルに向いているんです。あとは、ギターやシンセのリバーブもしくはディレイ成分。僕は残響をバイノーラル処理で広げるのが好きで、時には原音が後ろ側、リバーブ成分が前方で聴こえるように音作りすることもありました。

HATAKEN 「Nova Terra」冒頭のギターしかり、余韻を聴き手に残すような感覚がどの曲にもありますよね。そしてギターの音色は、ギター自体を主張するようなものではなく、ごくシンプルです。言うなれば、どんなプレイをしているのか、ということに注意が払われないくらいだなと。なので初めてデモを聴かせてもらったときから、アルバムのキーワードである“アンビエント”に合点が行きました。

 

元来は“家具の音楽”……つまり聴き手の周囲に溶け込むようなサウンドがアンビエントの思想ですものね。

SUGIZO 実は当初、『ONENESS M』の続編として、女性ボーカルをフィーチャーしたアルバムを作ろうと準備を進めていたんです。僕の根幹にはジャズやソウル、ボサといった音楽があり、その方向を作品にしたく世界中のプレイヤーたちとセッションして構築するつもりだったのですが、去年の春から夏にかけて面と向かって音を出すことがコロナ禍で不可能となってしまい、そもそも海外への行き来も難しくなってしまった。そこで、そのプロジェクトは一度保留にし、今は自分一人で生み出せるものをと考え、“ギターとシンセを中心としたアンビエント作品”というインスピレーションが湧いたんです。同時に、昨年の春先は世界中がコロナに打撃を受け、あっと言う間に分断が進み差別が横行し、人類の負の面が露呈してしまったと感じていて。残念でなりませんでした。そんな大変なときだからこそ、個々人が自らの幸せと同様に他者の幸福を願うべきなのではないかと。だからみんなを包み込めるような音楽……疲弊し切った人々の心に寄り添えたり、その心を抱きしめられるようなものを作りたいと思ったんです。

HATAKEN ネットには不安をあおるようなニュースや誹謗中傷があふれていて、つい“自分はどうなんだろう”と考えてしまったり、自分は発言しないようにしているけれど他者の投稿を見ることで何かをため込んでしまったりすることがあると思うんです。そういうものから離れてアルバムの音に身を任せてもらえたら、自分と向き合う時間になるかもしれないし、随分と心持ちが違ってくるのかなと。

SUGIZO そしてもう一つ重要なのは、アルバムを通してのテーマが“縄文文化”であること。今回のパンデミックでますます露呈したと思うのですが、従来の資本主義はもう限界に来ているんじゃないかと感じていて。お金や物質をたくさん持った人が上に立ち、そうでない人々を支配するという構造には、これ以上の進化が望めないと思うんです。今のヒエラルキー社会は利己的な世の中とも言えるでしょうが、もしすべての人々が平等で、互いを敬い合って成立している世の中があるとすれば、それは利他的な社会と呼べますよね。そして調べ続けてみると、縄文時代がまさにそうだったと言われています。リーダーにあたる存在……僕は宇宙存在だと思っているのですが、それを中心とするスマート・グリッドのような社会だったそうで。支配する・されるという概念とは全く別の視点で社会が回っていたから戦争が起きにくく、結果的に約15,000年も続きました。僕はその持続性や英知をかなり勉強し、自分の中へ吸収した末に、今回のアルバムの曲が生まれたというイメージです。なので曲そのものができたのは瞬時というか、あらかた2週間くらいで終わりました。

 

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「〝縄文文化〟がアルバムを通してのテーマ
人々が互いを敬い合う利他的な社会のあり方です」

 

HATAKENさんに作ってもらったのは
“空気をつかさどる音”

曲作りはプライベート・スタジオで?

SUGIZO はい。いつもはAVID Pro Toolsでビートやシンセを打ち込むところから始めるんですが、今回はギターのボイシングやアナログ・シンセのメロディを鳴らすのが起点となりました。両方共、僕にとってはオーガニックなもので、自然界にとても近い楽器なんです。また、収録曲の半数ではクリックを使っておらず、もう弾いたまま……今回はクリックやグリッドに合わせるのをなるべく避けたくて、例えばディレイのフィードバックをクリック代わりにして演奏するような形の方が気持ち良かったんです。そうして作ったデモをほぼマルチのオーディオ・ファイルにしてHATAKENさんに送り、モジュラー・シンセの音を加えてもらいました。

HATAKEN 全くゼロの状態から音作りする場合もありましたし、SUGIZOさんの音をモジュラーへ通し、 エフェクト成分を作るような感覚で加工するのもよくやったことです。基本的には原音に重ねましたが、エネルギーが強過ぎると感じた部分は加工後の音のみを使うこともあって。SUGIZOさんの言葉を借りるなら、僕の音で“まぶし”の効果を出したかったそうなんです。“ちょっとした音だけど、無いとダメだよね”といったものでしょうか。

SUGIZO “空気をつかさどる音”だと、僕は思っています。それこそアンビエントの最も重要な部分で、曲の空気感や雰囲気を決定付けるものなのではないかと。

HATAKEN 本チャンのテイクやフィールド・レコーディングの素材をここへ持ち込み、SUGIZOさん自身がモジュラーを使って音作りすることもありましたよね。

SUGIZO 近年はフィールド・レコーディングが自分にとってすごく大事で、それにインスパイアされて曲ができたりするんです。ヨルダンやイラク、国内なら屋久島とか沖縄、箱根など、さまざまな場所で録音していて。今回は、その録り音をモジュラーへ入力し、変調をかけることが多かった。モジュラーをエフェクトとして使うような感覚ですね。

 

Kaminomizoshiru Studio

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HATAKENのKaminomizoshiru Studioにあるモジュラー・シンセサイザー・システム。あらましを見ていくと、写真左のラックにはROLAND AIRAモジュラー・エフェクト・シリーズ、BEFACOのモジュール群やROLAND AIRA System-500シリーズ、MAKE NOISEの製品やTIPTOP AUDIO Trigger Riotなどが確認できる。写真右のラックにはSPUTNIK MODULARや4MS、CWEJMAN、INSTRUO、MUTABLE INSTRUMENTSのモジュール群などを設置。『愛と調和』では、モジュラー・シンセやギターの音に、ダミー・ヘッドHEAD ACOUSTICS Aachener Kopfで録音された音やPLUGIN ALLIANCE DearVR Pro、WAVE ARTS Panorama6といったプラグインによるバイノーラル・サウンドが合わさっている

 

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写真左のラックにはSTRYMON Magneto、1010MUSIC Bit Box、インタビューでも語られたROSSUM ELECTRO-MUSIC Panharmonium(上から3段目の左から2番目)やWMDのモジュール群、PERCUSSA SSPやORTHOGONAL DEVICES ER-301、WMD Metronなどが見える。右のラックにあるのは、MALEKKO HEAVY INDUSTRYの大量のモジュール群や4MS、TIPTOP AUDIOといったメーカーの製品

 

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持ち運び用のモジュラー・システム。1010MUSIC BitboxやMAKE NOISE、CWEJMANなどのモジュールが収納されている

 

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デスク周り。パワード・モニターATC SCM25A Proの下には、MOTU UltraLite MK3、RME ADI-2 Pro、SYMBOLIC SOUND Pacaranaなどを設置

 

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SUGIZOが愛用するESPのエレキギター。背後にはTAGUCHIの12インチ径サブウーファーが見える。HATAKENのスタジオにはTAGUCHIのスピーカー・システムも用意されており、ATCよりもクラブなどのPAに近い鳴りがするという

 

自然界の音をモジュラーで加工して
オーラのようなものを引き出した

自然音の変調は音楽に偶然性を与えるためですか?

SUGIZO 音楽の中に自然音がそのままあっても気持ち良いと思うんですが、僕らの演奏した音との間にブリッジが欲しかったというか、モジュラーやエフェクトで加工することによって、楽器の音とより親密になる気がするんです。

HATAKEN ROSSUM ELECTRO-MUSIC Panharmoniumというモジュールが面白くて、入力ソースの周波数スペクトラムを分析し、それを元にさまざまなサウンドを生み出せるんです。例えば水の音をアルペジオのようにすることもできるし、自然音の倍音を伸ばしていくとハーモニーやコード感が出てきて、シンセ・パッドのような響きになる。まるで元の音からオーラを引き出すような処理です。

SUGIZO Panharmoniumはギターにも良いんですよね。ギターに使いたくて、僕も購入しました。

HATAKEN SUGIZOさんのギターが入力されたPanharmoniumは、ぜひいじってみたいですね。もしくは、僕がやっていることにリンクさせてパラメーターをモジュレートできれば、非常に有機的な関係性のある音色変化が得られそうです。いろいろと実験のしがいがあるでしょうね。

SUGIZO 実は、ロバート・フリップとブライアン・イーノがギターとEMS Synthi AKSを使って40年ほど前に同じようなことをやっているんですが、僕らが現代のモジュラーを駆使すれば新しいアプローチにできるのではないかと思っていて。今年はそういうアルバムを出したいですね。

 

『愛と調和』にはPremium Editionがあり、そのDisc 2にはSUGIZOさんとTETRAさんのアンビエント・プロジェクト=S.T.K.、そしてSUGIZOさんとHATAKENさんが共演したライブ音源が収録されています。

SUGIZO 昨年9月に出した『LIVE IN TOKYO』は、2019年に開催した僕の聖誕祭を収録したものなんですが、そのオープニング・アクトだったHATAKENさんとの共演、またその前日に行ったS.T.K.のライブについては音源化できていなくて。この機会に発表すれば、『LIVE~』とつながるような気がしていたんですよ。また、『LIVE~』はDub Master Xさんによるミックスが素晴らしい出来栄えだったので、今回のアルバムのミックスをしてくれた大野順平君には、その音像に近付けてほしいとお願いしました。

 

早く状況が改善し、ライブ会場へ足を運びたいと願っているファンの方々も多いはずです。

SUGIZO 今年は、松武秀樹さんのLogic SystemとともにSUGIZO+HATAKENのデュオでカップリング・ツアーをしようと話しているんです。松武さんもすごく楽しみにしてくれているし、本当に素晴らしいシンセのサウンドを啓蒙する点でも意義深い気がしています。実現できることを祈っていますし、海外にもまた行くことができたらうれしいですね。

 

Release

愛と調和 Regular Edition

愛と調和 Regular Edition

 

『愛と調和』
SUGIZO
SEPHIROT:SPTC-1009(Regular Edition)

  1. Nova Terra
  2. Childhood’s End
  3. A Red Ray feat. miwa
  4. 追憶
  5. ENDLESS ~闇を超えて~ feat. 大黒摩季
  6. The Gates of Dawn
  7. Mindfulness
  8. CHARON ~四智梵語~
  9. 光の涯 feat. アイナ・ジ・エンド(BiSH)
  10. So Sweet So Lonely

Musician:SUGIZO(g、vln、syn、kagurasuzu、prog、gank drum、jomon iwabue、singing bowl、b)、HATAKEN(syn)、d-kiku(syn、prog)、miwa(vo)、大黒摩季(vo)、アイナ・ジ・エンド(vo)、広谷順子(cho)、ORIGA(cho)、川村ゆみ(cho)、真言宗豊山派僧侶(chant)、入江要介(shakuhachi)、小西遼(fl)、執行恒宏ストリングス/カルテット(strings)、野口千代光カルテット(strings)、Maiko Kawabe RIVERA(p)、宮本貴奈(p)、室住素子(org)、レナード衛藤(wadaiko)、komaki(ds)
Producer:SUGIZO
Engineer:大野順平、橋本まさし、SUGIZO
Studio:Sound DALI、音響ハウス、Kaminomizoshiru、Art Terror

 

sugizo.com

 

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