「IZOTOPE RX 8 Advanced」製品レビュー:新たなノイズ除去機能が加わったオーディオ・リペア・ソフトの最新版

IZOTOPEから発売された「RX」の最新バージョンが登場

 今や世界中のエンジニアやプロデューサーの必携ツールとなった感のあるオーディオ・リペア・ソフト、IZOTOPE RX。このたび、最新バージョンであるRX 8が発売されました。筆者も日ごろから何かとお世話になっており、幾度となくその魔法のようなリペア技術に助けられています。今回のアップデートでも、何やら新機能がたくさん盛り込まれているようで、いやが応にも期待が高まります。

弦のこすれやピッキング・ノイズも低減できる
Guitar De-noise

 IZOTOPEはOzoneやNeutron、Nectorといった革新的かつクリエイティビティあふれる個性的なプラグインで、レコーディングやポストプロダクションの世界で今や唯一無二の存在となっています。今回レビューするRXは、オーディオ・リペア・ツールとして既に業界標準と言っても過言ではない、IZOTOPE看板ソフトウェアの一つ。筆者もリップ・ノイズの除去をはじめ、ライブ録音や自宅録音におけるさまざまなノイズの除去で日常的に使っているソフト/プラグインであり、もはや持っていなかったころには戻れないほどワークフローが変わりました。

 

 RX 8にはElements、Standard、Advancedという3つのエディションがありますが、今回は最上位のRX 8 Advancedを試します。新機能から見ていきましょう。最初に紹介するのは、ギターにまつわるさまざまなノイズ除去に特化したGuitar De-noise。エレクトリック/アコースティックにかかわらず、ギターの録音にはさまざまなノイズの問題が付いてまわります。その筆頭格は、ギター・アンプのハム・ノイズです。Guitar De-noiseの左端のAmpセクションで対応するのですが、なんと操作子はたったの3つ。Learnスイッチを押した状態で除去したいノイズだけの場所を再生し、RXに学習させ、SensitivityとResolutionのスライダーでノイズを軽減させる度合いを決めていきます。Sensitivityスライダーは、“ノイズをどれくらい除去するか”を決め、Resolutionスライダーは、“最大でどれくらいの数の倍音を除去するか”を決めるとのこと。Sensitivityをあまり上げ過ぎると、ギター自体の音色が劣化してくるので注意したいところです。

Guitar De-noiseでは、ギターにかかわる各種ノイズの除去が可能。Ampセクションではアンプのハム・ノイズ、Squeakセクションでは指が弦をこするノイズ、Pickセクションではピッキングのノイズを低減できる。StandardとAdvancedのエディションで使用可能だ

Guitar De-noiseでは、ギターにかかわる各種ノイズの除去が可能。Ampセクションではアンプのハム・ノイズ、Squeakセクションでは指が弦をこするノイズ、Pickセクションではピッキングのノイズを低減できる。StandardとAdvancedのエディションで使用可能だ

 実際に使ってみると、非常に手軽かつ確実にノイズの除去ができて驚きます。なお、Ampセクションで除去できるのは基本的にハム・ノイズのみのようで、ヒス・ノイズなども含まれる場合は別機能であるSpectral De-noiseを併用した方がよいようです。

 

 次に中央のセクション、Squeak。ここでは、スライド・ノイズの除去ができます。これは筆者が今回とても期待していた機能で、今進行中のプロジェクトで早速試してみました。これも操作は非常にシンプル。Sensitivityでどれだけの擦れ音を除去するか決め、検出された信号の減衰量をReductionで決めていきます。やはり驚くほど奇麗に除去できました。演奏として不自然にならないレベルに減衰量を調整していく必要はありますが、今後間違いなく重宝する機能でしょう。

 

 最後にPickセクションですが、ここではピッキングのアタック音を調整できます。Squeakと同様の操作子に加えAttackというスライダーがあります。これはアタック・タイムで、Reductionがかかり始めるまでの時間を設定するもの。コンプのアタック・タイムと同様です。厚いオケ中でのアコースティック・ギターのソロなどで、ピッキングのアタックが目立ち過ぎる際に役立つと感じました。

圧縮音声を補正するSpectral Recovery
ビデオ通話やICレコーダーの音声に有用

 次は、同じく新機能であるSpectral Recoveryを見ていきましょう。こちらは、今や世界的に必要不可欠なツールとなったビデオ通話アプリなどによる音声圧縮で失われた高域のエネルギーを再構築し、元の音声情報を復元できるというもの。こちらは単体のプラグインではなく、スタンドアローンのRX 8上でのみ使えます。

 ビデオ通話など、インターネットを介した圧縮音声の高域部をリカバリーするSpectral Recovery。Advancedエディションでのみ使用できる。4kHz 以上の成分を自動で補完し、クリアな音声へと修復する

ビデオ通話など、インターネットを介した圧縮音声の高域部をリカバリーするSpectral Recovery。Advancedエディションでのみ使用できる。4kHz以上の成分を自動で補完し、クリアな音声へと修復する

 では使ってみましょう。まずLearnを押すと、選択されたオーディオのプロファイルが作成され、CutoffとSmoothingがセットされます。Cutoffは、元素材の高域周波数の上限で、ここから上の帯域のエネルギーが再構築されていきます。Smoothingは、再構成された高域の情報と、元の音声との境目をスムーズにする機能のようです。Vowel/sibilant balanceは、再生成される高域情報の母音とシビランス(歯擦音)のバランスを調整できます。Amountで付け加えるエネルギーの分量を決めたら、Renderで適用する流れです。適切な処理にする調整が少し難しいですが、上手に調整できればとても聴き取りやすい音声信号復元ができます。Amountを上げ過ぎると、高域にジリジリとしたひずみのような成分が目立ってくるので注意したいところです。リモート時代の今、いろいろな場面で重宝する機能でしょう。ICレコーダーやスマートフォンのボイス・メモなどの音声を聴き取りやすくするのにも有効とのことです。

 

 もう一つ、新機能をチェックしていきましょう。ラウドネス・レベルを基準値に即座にアジャストできるLoudness Controlが搭載されたとのことで、こちらにも注目が集まっています。こちらもスタンドアローンのみで、DAW上のプラグインとしては使用できません。使用方法はとてもシンプルで、ファイル中の目的の部分、もしくはファイル全体を選択し、適用させたいラウドネスの基準値をプリセットから選んでRenderするのみです。もちろん、各パラメーターを手動で細かく調整することもできます。ターゲットのTrue Peak、Integrated Loudnessなどの基準値を設定し、自由に目的のラウドネス値にアジャストできます。ラウドネス・ゲート(計測上、特定の音量値を下回った部分の足切り)のオン/オフも切り替え可能。各ストリーミング・サービスや、放送局への納品など、ラウドネス管理は今や無視できない大切なスキルとなっていますので、この新機能は大変貴重かつ有力な武器だと思います。こうして新機能を見ていくと、実に時代の流れに乗ったアップデートを加えている感じがしますね。

RX 8 StandardとAdvancedで使えるLoudness Control。ストリーミング・サービスや放送でのラウドネス基準に準拠しているかを確認でき、基準に合わせてラウドネス値の修正を行える

RX 8 StandardとAdvancedで使えるLoudness Control。ストリーミング・サービスや放送でのラウドネス基準に準拠しているかを確認でき、基準に合わせてラウドネス値の修正を行える

音質が向上したMusic Rebalance
ステムへの書き出し機能も追加

 では、既存の機能の進化も見ていきましょう。まずは、大幅な進化を遂げたというMusic Rebalance。完成済みのミックスからボーカルとベース、打楽器、そのほかの4項目のバランスを変更できる機能です。RX 8ではこの4項目のステム書き出しが行えるSeparate機能も追加されました。RX 7のMusic Rebalanceは今までも使用したことがあります。ちょっと変則的な使用方法ですが、ライブ・レコーディングにおけるボーカル・トラックへのオケかぶりの軽減で助けとなりました。しかし、その際はイレギュラーな使用のためか、リバランスによる音質変化との兼ね合いに試行錯誤した記憶があります。

 Music Rebalanceでは、2ミックスをボーカル/ベース/パーカッション/そのほかという4つに分け、それぞれのレベルを調整できる。その音質はRX 7からさらに向上した。StandardとAdvancedに内蔵されている。新たにステムとして書き出すSeparate機能も追加された

Music Rebalanceでは、2ミックスをボーカル/ベース/パーカッション/そのほかという4つに分け、それぞれのレベルを調整できる。その音質はRX 7からさらに向上した。StandardとAdvancedに内蔵されている。新たにステムとして書き出すSeparate機能も追加された

 それでは新しいバージョンで試していきましょう。まずは通常の使用法として、完成した2ミックスのリバランスを試していきます。すごい! 一聴して明らかなクオリティの向上が分かります。さすがに特定のパートを全く無くしていくと音質劣化を感じますが、バランスの微調整は本当に自然にできます。この機能、特に低域ものの処理が得意なようで、Bassのリバランスは特に自然でした。

 

 では先述の、過去にRX 7で処理したものと同じライブ・トラックを同様に処理してみます。こちらでも明らかなクオリティの向上がうかがえました。どうやって識別しているのか不思議なほど、ボーカルのみが抽出されていくのです。歌の長いノートにかぶった、同じく長いノートのシンセサイザーやバイオリンの音も奇麗に減っていきます。大幅に違うのは、抽出されたボーカル・トラックの音質変化です。RX 8の方が圧倒的に劣化が少なく、十分にそのまま使用可能なクオリティ。素晴らしい! 今後も重宝する機能となるでしょう。

リップ・ノイズ除去のMouse De-click など
既存機能のクオリティもアップデート

 筆者が普段最も多用するMouse De-clickも試してみました。ミックスの際、多くの場面でリップ・ノイズの除去が必要になってきます。筆者が最初にRXの恩恵を受けたのはこの機能でした。当初はまだリップ・ノイズに特化したMouse De-clickは無く、De-clickを使用していました。これは本当に革新的で、大幅な時間短縮かつ今まであきらめていたリップ・ノイズも除去できるようになったのです。RX 7のMouse De-clickは本当にクオリティが高く十分満足していましたが、RX 8はどうでしょうか。

 

 まずは大胆に、ボーカル・トラック全体に普段よく使用する設定でRX 7のMouse De-clickを使用してみます。これでほぼ100%気になるリップは除去できたのですが、わずかに取りこぼしたノイズがありました(スルーしても問題ないレベルのものでしたが)。ここで、RX 8のMouse De-clickを同じ設定で試したところ、見事に除去が完了。IZOTOPEのWebサイトでは記載されていませんでしたが、既存のいろいろな機能がアップデートされているようです。

 

 さて、駆け足で試していきましたが、RX 8はあまりに多機能のため、ここでは紹介できなかったこともたくさんあります。レコードやアナログ・テープのピッチの揺らぎを修正する新機能Wow&Flutterや、Harmonics設定が8バンドから16バンドに増加してよりパワーアップしたDe-humなど、前バージョンから大幅に進化したRX 8。コロナ禍でリモートでの録音もやむを得ない状況が多発しているこの2020年ですが、後ろにRX 8がドンと控えていてくれることで、録音に不向きな場所でのレコーディングにおいても、より大胆でよりクリエイティブな音楽制作にどんどんチャレンジしていけることでしょう。

 RC 8 Advancedに新搭載されたWow & Flutter。レコードやテープなど、物理的な録音におけるピッチの揺らぎを修正できる

RC 8 Advancedに新搭載されたWow & Flutter。レコードやテープなど、物理的な録音におけるピッチの揺らぎを修正できる

 RXの全エディションに備わっているDe-hum。ハム・ノイズを自動検知&除去できる。RX 8では周波数のバンドが増えたことで、より高い帯域の処理が可能となり、ヒス・ノイズにも有効となった

RXの全エディションに備わっているDe-hum。ハム・ノイズを自動検知&除去できる。RX 8では周波数のバンドが増えたことで、より高い帯域の処理が可能となり、ヒス・ノイズにも有効となった

大野順平(スタジオ・サウンド・ダリ)
【Profile】スタジオ・サウンド・ダリ所属のエンジニア。中田裕二、福原美穂、SUGIZOらの作品を数多く手掛けるほか、浜端ヨウヘイやbaroque、榊いずみ、叶和貴子といったアーティストにも携わる。

 

IZOTOPE RX 8 Advanced

125,900円

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REQUIREMENTS
▪Mac:macOS 10.14
▪Windows:Windows 10
▪共通:INTEL Core I5または同等のAMD 製プロセッサー、4GB のRAM(6GB 以上を推奨)、30GB の空きディスク容量(フル・インストールには1,150GB 必要)、OpenGL 2.1 以降に対応するグラフィック・ボード

www.izotope.jp

 

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