Reviewed by
Atsushi Asada
【Profile】AmPm「Best Part Of us」などヒット曲のプロデュースで注目を集める。現在は、音楽キャリアを軌道修正して“自分を感動させる音楽”の創造に専念。9月にアルバムをリリース予定。
宅録環境でのSN比を向上。瞬間的なノイズにもグラフィカルに対応
RX 8 Advancedは世界中のトップ・プロから信頼されているノイズ除去/オーディオ・リペア・ツールですが、その本質は遮音などがされていない過酷な環境下での録音物のクオリティを担保するためのもの。私のような宅録環境で制作する者にとってはまさに天の助けのようなツールです。
RX8では、波形とスペクトログラムを視覚情報として表示し、クリッピングなどは波形を、ノイズなどはスペクトログラムで目視できます。画面右側から機能を選ぶと機能ごとにポップアップ・ウィンドウが現れ、細かく処理をしていくこととなります。
では、私が日常的に重宝している機能を重点的にレビューしていきたいと思います。
●Spectral De-noise
少し前にエンジニア仲間から教えてもらい、それ以降ヘビーに使いこなしているのがこのノイズ・リダクション機能です。私はリボン・マイクをよく使うのですが、コンデンサーマイクと比べると格段にSN比が悪く、そのためEQ処理をするとすぐに部屋のアンビエント・ノイズ(サーっという音)が目立ってきてしまいます。本来であれば部屋の防音/吸音や空調の消音化などで避けられる事象ですが、Spectral De-noiseでノイズ・リダクションの処理をすると驚くほど違和感なくSN比を高めることができます。
●Spectral Repair
遮音/防音がしっかりしていない宅録環境では、時に外の車のクラクションなどの騒音が入ってしまう場合があります。そんなときはSpectral Repairを使えばそのクラクションのみ除去することができます。
もちろん楽器のノイズ除去にも大活躍で、私は古いアップライト・ピアノによく使っています。古い故にどうしても鍵盤やハンマーがきしみ、時に“カチッ”という音が出てしまいます。生音を耳で聴く分にはいいのですが、マイクを通すと“パキッ”というノイズとなり、どうしても気になってしまうのでこの機能が重宝しています。
マイク録音におけるクリックやトラック漏れに対応。録音し直すのが難しいソースに心強い
●De-bleed
例えばボーカルやアコースティック・ギターを録るとき、ノリを重視してついモニターの音量を上げ過ぎてしまい、ヘッドフォンから漏れた音をマイクが過剰に収音してしまうことがあります。多くの場合はミックス時にほかの楽器と混ぜてしまえば何とかなるものですが、バージョン違いで小編成にしたときなど無視できなくなってしまいます。従来、こうした場合は録り直すしかありませんでしたが、De-Bleedを使うことでかなりのところまで自然に除去できます。なかなか録り直しができない昨今の状況では非常に心強い機能です。
以上ほんの一握りですが、私が重宝している機能に絞ってご紹介しました。一昔前はデジタル処理といえばFFT独特の“ショワショワ”とした音がつきものでしたが、それが微塵も感じられない完成度の高さは驚異的としか言いようがありません。ぜひ皆さんも制作のクオリティ向上に役立ててみてください。
iZotope RX 8【特殊処理】
Advanced:138,490円、Standard:46,090円、Elements:14,960円
Requirements
■Mac:OS X 10.13.6(High Sierra)〜macOS 11(Big Sur)、INTEL Macのみ対応済(ARM非対応)
■Windows:Windows 8、Windows 10
■AAX, AU, VST2&3、スタンドアローン(64ビット)