今月のモジュラー・シンセ:MUTABLE INSTRUMENTS Marbles(前編) 〜第16回 Patch The World For Peace

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 皆さんこんにちは、HATAKENです。今月からMUTABLE INSTRUMENTSのランダム・サンプラーMarblesを紹介します。前編では機能の概要を、後編では具体的な使用例を通して、ユニークな機能を備えているMarblesのポテンシャルを見ていきましょう。

tでランダムGateをXでランダムCVを生成

 Marblesは、内蔵のクロックまたは外部クロックに基づいて、ランダムなGateとCVを生み出します。パネル左でランダムにGateをコントロールする“t”セクション(RATE/BIAS/JITTERノブを装備)と、パネル右でランダムにCVを生み出すため“X”セクション(SPREAD/STEP/BIASノブを装備)、パネル中央の“DEJA VU”コントロール(DEJA VU/LENGTH/クロック・レンジ・ボタン/電圧レンジ・ボタンを装備)で構成されています。

 

 出力はパネル一番下のt1〜3、X1〜3に加えて、ゆっくりでスムーズなランダムCVを出力する“Y”も備えています。その上にはノブを外部から制御可能なCV入力が並んでいます。クロック入力がtとX両方に装備されているため、クロックを共有することも、セクションごとにクロックを受けて動作させることも可能です。

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 まず、Gateを操作するtセクションでは、RATEノブで内蔵クロックのスピード、外部クロックの場合はそのディバイド/マルチプライの調節が行えます。JITTERノブでは、クロックに対してエラーを生じさせる割合を調節できます。クロックのテンポに対して、もたついたり、追いついたりするような効果を与え、t2から常に出力されます。

 

 そしてクロックをもとにランダムに生成されるGate=t1とt3からの出力は、tセクションのBIASノブで振る舞いをコントロールします。このBIASノブで操作できる内容は、RATEの右にあるボタンで切り替える3つのモードによって変化します。この3つのモードは来月の記事で詳しく紹介するので、お楽しみに!

 

 CVを生成するXセクションでは、内部の同期によりt1〜3のタイミング、あるいは外部クロックに同期したサンプル&ホールドによって階段状のCVを生成します。スケール(メジャー、マイナー、ペンタトニック、ガムラン、ラーガ・バイラビ、ラーガ・シュリー)を選択することが可能で、クオンタイズされたCVをランダムに出力。SPREADノブでは、ランダム電圧の分布を調節します。ちなみに、LENGTHノブの下にあるExternal Processing Buttonを押すと、SPREADの外部CV入力信号をサンプル&ホールドして出力するようになります。STEPSノブでスケールの影響、グライド効果など出力するCVの形状をコントロールすることが可能です。12時の位置でスケール内の音をすべて使用し、右に回していくと構成音を少なくして、右いっぱいではルート音のみに。また、XセクションのBIASノブではランダムCVの偏りを、右に回すと電圧の大きなCVが、左に回すと小さなCVをより多く出力するようになります。

DEJA VUで有機的なランダム感を生み出す

 Marblesの肝となるDEJA VUコントロールでは、ランダムな信号をボタン一つでサンプルしてループ可能。LENGTHノブで1〜16の自由なステップに変更できます。そのフレーズにアレンジを加えるDEJA VUノブを、右に回せばサンプルされたフレーズの中からランダムに音を選び配列が変わっていき、左へ回すとランダムに選出されてピッチ・クオンタイズされた音階が加えられていく。これを左いっぱいに回すと、完全にランダムなフレーズへとスムーズに変化させることができます。Marblesは、ほかのシーケンサー・モジュールで見られるような、打ち込んだフレーズに対して信号の生成率を調整する“プロバビリティ”などのタイプとも違うアプローチをしているのが特徴です。フレーズ・ジェネレーターのように、“有機的なランダム”感を持ったアンサンブルを演奏させることができます。言うなれば“ノブの操作でフレーズを演奏できるシーケンサー”で、ポストシーケンサーとして活躍できるポテンシャルの高いモジュールでしょう。

 

 来月は、tとXセクションに装備されている各3つのモードの紹介を通して、Marblesを使用してみたニュアンスを具体的にお伝えしたいと思っています!。

 

MUTABLE INSTRUMENTS Marbles 製品情報

 

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HATAKEN

【Profile】1990年代よりシンセ奏者として活動。2013年から東京モジュラーフェスティバル(TFoM)をデイブ・スキッパーとともに毎年開催。世界中のモジュラー・シンセ・メーカーや、モジュラー・シンセを演奏するアーティストを招き、国内でのモジュラー・シンセの普及に努めている

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