皆さんこんにちは、HATAKENです。今月から1つのモジュールを2カ月にわたりじっくりと紹介します! 今回はMUTABLE INSTRUMENTS Beadsです。
リアルタイムのグラニュラー処理が可能
グラニュラー・シンセはオーディオ・サンプルの一部分を、単数あるいは複数で細かくランダムに再生/リピートし、合成することで音を生み出します。Beadsではグレイン・サンプルを、粒のような短さからバッファー・タイムいっぱいの長さまで調整可能。再生速度/ADSRのような音のシェイプ、録音時間軸上のポジション、グレインを生成する密度やリピートの回数、発生のさせ方をコントロール可能。ランダムにするか、周期的にするか、変化のさせ方も選べます。
Beadsが普通のグラニュラー・シンセと決定的に違うところは、ライブ・グラニュラー処理をする点です。Beadsは流れ続けるオーディオ入力をバッファーに取り込み、リアルタイムにグラニュラー処理を施すことが可能です。
また、FREEZEボタンを押して録音を停止し、バッファーの中身をホールドすれば、一般的なグラニュラー・シンセのようにも使うことができます。独立したDry/Wetノブで原音とのミックス・バランスが調整できるので、入力ソースとのなじみの良い音を生成することが可能。最終段に秀逸なリバーブも付いていて、スケールの大きいウェットな背景音やドライなグリッチ・サウンド、マットで優しい音まで表現力の幅を広げます。ライブ演奏中の場面転換などで、大いに活躍してくれるはずです。
例えば、金属的な音でリフが刻まれていたかと思ったら、実はリズム・ループをグラニュライズしたシンセ音で、それをさらに外部クロックにシンクさせてみると、リズミカルだけれどもランダムなタイミングでランダムな長さにスライスされます。シェイプされたエンベロープにランダムなモジュレーションをかけることも、Beads一台でできてしまうのです。
外部CV無しで多様なモジュレーションを付加
Beadsに搭載されたアッテニュランダマイザー(Attenurandomizer)は、今後どのモジュールでも標準になるかもしれない(!?)画期的なもの。外部CVのアッテネーターに相当するノブを回せば、ランダマイザーのCVアサイン量を調節できます。つまり、主要なグレイン要素(TIME、SIZE、SHAPE、 PITCH)に外部CVをパッチせず、モジュレーションをかけられるのです。本当にうれしい、ズルい(笑)機能ですね。しかも、外部入力を接続した際にはアッテネーターとしてはもちろん、外部CVをランダマイズすることもできます。
ほかのモジュールでも外部入力をせずアッテネーター・ノブで一定の直流電圧をアサインできるものなどはありますが、モジュール1台でモジュレーションやランダマイズのアサイン量まで調整できるものを私は知りません。モジュラーは各パラメーターにモジュレーションをかけてこそ本領発揮し、そこに醍醐味があると思います。予想外の音や新発見、仕組みの理解を深めたりできます。しかし、すべてのCVインを同時に試そうとすると、CVソースの数が同時に幾つも必要です。そのためのパッチングもモジュールも必要になりますが、Beadsはノブをひねるだけでランダマイズかけられ、そのまま作業を続けられます。本体だけでBeadsのポテンシャルをめいっぱい引き出せるデザインになっていて、感動しました。オーディオ・インに何もつながなければ、約10秒後には8つの波形を持つ、ウェーブテーブル・グラニュラー・シンセとして、いよいよスタンドアローンで発音します。
もう一つお伝えすべきは、Beadsの音には独特の質感があるということです。MUTABLE INSTRUMENTSのモジュール全般にも言えることですが“柔らかなデジタル・サウンド”になっています。Beadsは4つの録音品質モード=高音質なブライト・デジタル(16ビット/48kHz)や同社が手掛ける前バージョンのCloudsを忠実に再現したコールド・デジタル(12ビット/32kHz)のほか、サニー・テープ(12ビット/24kHz)やスコーチド・カセット・テープ(8ビット/12kHz)が用意されています。単にサンプル・レートやビット・デプスが変わるだけでなく、それぞれコンセプトになっている質感と味わいをエミュレートするためにモードごとにフィードバックの振幅制限のパラメーター、サチュレーションやリバーブの設定を切り変えています。MUTABLE INSTRUMENTSこだわりの質感と階層構造が無いUIの使い心地の良さ、素晴らしいバリエーションを提供してくれるパワフルな機能はライブや制作に欠かせません。
MUTABLE INSTRUMENTS Beads 製品情報
【Profile】1990年代よりシンセ奏者として活動。2013年から東京モジュラーフェスティバル(TFoM)をデイブ・スキッパーとともに毎年開催。世界中のモジュラー・シンセ・メーカーや、モジュラー・シンセを演奏するアーティストを招き、国内でのモジュラー・シンセの普及に努めている
Patch The World For Peace 〜モジュラー・シンセを選ぶ理由