2017年に創設されたAUSTRIAN AUDIO。“ウィーンでの製造”にこだわったコンデンサー・マイクやモニター・ヘッドフォンを手掛け、前者は現在、2機種をそろえている。専用プラグインPolarDesignerで録音後に指向性などを調整できるデュアル・カプセル・モデルOC818と単一指向性のOC18だ。ドイツの名門Tresorからのリリースも記憶に新しい電子音楽家/ボーカリストのmachìnaが、ホーム・スタジオでOC818へのインプレッションを中心に語る。
Photo:Hiroki Obara
PolarDesignerを使うとEQなどとは全く違う感覚で
空間における音の配置を立体的にコントロールできるんです
声の低域の指向性を変えてベースとすみ分け
歌を素の音で収めてくれる……これがOC818への第一印象です。私の音楽は大半が電子音なので、マイクで録る音に関しては身近で親密な感じにしたいというか、自宅スタジオの部屋鳴り込みでキャプチャーしたいんです。OC818は、これまで試してきたマイクに比べて空間の響きを含む声が自然にとらえられるし、どこかの帯域がブーストされている感もありません。歌っていて気持ち良く、いつも内耳で聴いている自分の声と録り音に差を感じないんです。歌のほか、古い蓄音器にOC818を向けてマイク本体を動かしながらサンプリングしてみたところ、マイキングによる音の変化までドラマティックにキャプチャーできました。
そしてPolarDesigner。これに感動しました。最も魅力的だと思ったのは、音を前後に動かすようなコントロールができる点。例えばトラックにボーカルを乗せる際、声の低域をEQでカットしなければベースとぶつかってしまうことが多いんですけど、そうすると倍音構成が変化して、良いと思っていた倍音が消えてしまったりする。でもPolarDesignerを使えば、声の低域をリアのダイアフラムで収めた音に寄せて奥の方に配置できるから、倍音をキープしつつベースとの衝突を避けられるんです。また、ボーカルが耳に痛く感じたら普通はEQで高域を削ると思うんですが、PolarDesignerで高域をリアのダイアフラムの音に寄せると、ソース本来のキャラクターを維持しながらまとまりを付けられます。
立体音響の制作にも便利だと思う
私は、特に歌に関して、なるべくソースそのものの音を聴かせたいんです。でもバランスを取るためにプラグインEQなどをかければかけるほど、ナチュラルさが薄れて“パソコン感”が出てしまいます。それがいつも残念というか、もったいない気がしているんですけど、PolarDesignerを使うとうまく解決できるなと。メイン・ボーカルとコーラスのすみ分けにも便利で、レコーディング時にマイキングで調整している“声の距離感”みたいなものを録音後に、しかもリアルに調整することが可能です。
普段はマイキングだけで追い込み切れず、どうしてもEQに頼ってしまいがちですが、それとは全く違う感覚で空間における音の配置を立体的にコントロールできますね。指向性を録音後に調整できるのは、立体音響を手掛ける人たちにも有用だと思います。OC18の音も良かったけれど、自分が買うならPolarDesignerを使えるOC818の方ですね。