ボーカルを自宅で録ってみたいあなたのために、神聖かまってちゃんのサウンド・プロデューサー/エンジニアの萩谷まきお氏が一肌脱ぐ! 今回は、しーな(東京初期衝動)の自宅を実際に訪問してより良い音質で録るために実験してみました。ボーカルを自宅で録ってみたものの“これで良いのか?”と不安に思う方は、より良い音質を追求するためのテクニックを音例とともに学びましょう。
Photo:Chika Suzuki
Q2. コンデンサー・マイクとダイナミックの違いを教えてほしいです。
A. 録れる周波数帯域が違います。
コンデンサー・マイクとダイナミック・マイクの大きな違いは、周波数レンジの差。コンデンサー型は低域から高域まで収音されて、感度も高いです。また、中高域を滑らかに録るためにコンデンサー型を選ぶ人も居ます。僕自身は、王道なポップスや座って歌うようなバラードを録る際にコンデンサー型を使います。
しかし、ハイファイなマイクで広過ぎる帯域を収めたボーカルと向き合うと、“なんで後からEQで取り除く帯域まで録るんだろう?”と首を傾げることは正直あります。つまり“過剰に良い音で録ることが必ずしも正義ではない”のです。大事なのは“その楽曲にとって良いボーカル”を考えて、重要な表現として機能するものを生み出すこと。自分が“この音質が好き”と思えれば、一般的に良いとされるタイプのマイクを選ぶ必要はありません。僕はさまざまなコンデンサー・マイクを、ボーカリストの歌い方と楽曲に合わせて使い分けます。左の写真のようなラージ・ダイアフラムのコンデンサー・マイクは、低域まで豊かにとらえられるのが特徴です。上端にダイアフラムがあるペンシル・タイプの機種はクリアに録れるので、ポエトリー系でメロディのあるラップに試したこともあります。失敗を恐れずに、自分の声に合うマイクを探しましょう。
コンデンサー・マイクはダイナミック・マイクと比較すると振動や湿気などに弱く、メインテナンスが必要で繊細に扱う必要があるので、取り扱いには注意が必要です。
ダイナミック・マイクの魅力は音に厚みがあり、声の帯域にフォーカスできること。周波数レンジが広過ぎるコンデンサー・マイクだと、歌にとって不要な帯域まで収音するためレベル・メーターが上がり、ややもするとクリップ(音割れ)の原因になりがちです。しかしダイナミック型ならば、レンジが絞られている分、必要な帯域にピントを合わせたような録音ができます。
また宅録で使う場合は、部屋の反響音などを拾いにくいので、比較的クリアなテイクを手軽に増やすことができると思います。ライブ・ハウスやリハスタで見かける機会が多いSHURE SM58は、大音量にも強くて耐久性に優れています。落下などのリスクを考えると、ダイナミック・マイクの方が安心して使えるのではないでしょうか。
最近では、周波数特性がワイドなダイナミック型も増えました。周波数レンジの広さはマイク選びにおける鍵ですが、それだけを理由にコンデンサー型を選ぶ必要も無くなってきているのです。ダイナミック型は音がこもるという印象を抱いている方は、楽器店などでクリーンかつ存在感のある音が録れるモデルを探してみましょう。可能ならば、実際に試してみてください。
【特集】ボーカル宅録ガイド〜20のQ&Aで悩みを解決!
Q1. ボーカル宅録で必要な機材は?
Q2. コンデンサー・マイクとダイナミック・マイクの違い
Q3. 単一指向性、双指向性、全指向性……マイクの指向性とは?
Q4. スマホでボーカル録音をする方法
Q5. 音楽ジャンルに合うボーカルとマイクの最適な組み合わせ
Q6. マイクの音質と自分の声のマッチングを判断する方法(会員限定)
Q7. ボーカル以外にアコギ録音も視野に入れてマイクを選ぶ方法
Q8. 部屋鳴りを収音しないようにマイクを立てる方法【試聴有り】(会員限定)
Q9. 反射音や共振音を防ぐための対策は?【試聴有り】(会員限定)
Q10. マイクとボーカリストの距離の正解とは?【試聴有り】
Q11. マイクの高さはどこがベスト?
Q12. DTMやDAWの録音時にレベル設定で気を付けることは?
Q13. 録音前にやるべきノイズ対策は?(会員限定)
Q14. ポップ・ノイズを防ぐ方法は?(会員限定)
Q15. 自分の声がモニターしづらいときの改善方法(会員限定)
Q16. クリックの音漏れを録音しないようにする方法
Q17. モニターとのレイテンシー(遅延)の対策方法(会員限定)
Q18. エフェクトをかけるタイミングは録音の前/後?
Q19. モニターの自分の声がしっくり来ないのですが……(会員限定)
Q20. 録音後のテイクにノイズが入っていた際の修正方法(会員限定)