【音源連動】“これから”の人のための制作ツール講座〜第1回:マイクを使ったホーム・レコーディング

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“セルフ・レコーディングを始めたい”“どんな機材を使えばいいのか分からない”“機材の使い方を知りたい”といった音楽制作をスタートする人に向けた知識&テクニックを紹介する本連載。第1回は、マイクを使った自宅での録音についてを解説する。音響が整えられた商業スタジオと違い、何かと問題が発生しやすい自宅でのレコーディングのコツについて、スタジオ・サウンド・ダリの大野順平氏にレクチャーいただいた。今回はボーカルとアコギの録音を想定。シンガー・ソングライターの浜端ヨウヘイに協力してもらい、ブース内ではなくホーム・レコーディングに近い環境で録音を行った。

Photo:Takashi Yashima

 

講師:大野順平

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スタジオ・サウンド・ダリ所属のエンジニア。中田裕二、福原美穂、SUGIZOらの作品を数多く手掛けるほか、浜端ヨウヘイやbaroque、榊いずみ、叶和貴子といったアーティストにも携わる。

歌&演奏:浜端ヨウヘイ

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山崎まさよしのツアー・オープニング・アクト抜擢を機にオフィスオーガスタに所属。2019年1月、プロデューサーに寺岡呼人を迎えた『カーテンコール』でメジャー・デビューを果たす。

【Release】

世界にひとつの僕のカレー - Single

世界にひとつの僕のカレー - Single

  • 浜端ヨウヘイ
  • J-Pop
  • ¥255

『世界にひとつの僕のカレー』
浜端ヨウヘイ
(ドリーミュージック)

ダイナミックとコンデンサーの違いとは?

大野 マイクとは音声信号を電気信号に変換する装置です。幾つか種類がありますが、自宅録音でよく使われるのはダイナミック・マイクとコンデンサー・マイクでしょう。ダイナミック・マイクは頑丈で湿気にも強いため、扱いやすいです。コンデンサー・マイクは衝撃や湿気に弱いので、保管用ケースに入れておくなど取り扱いには注意が必要になります。また、駆動させるためにファンタム電源を供給しなければいけません。多くのオーディオI/Oがファンタム電源に対応しているので、ご自身の使用モデルをチェックしてみてください。サウンドとしては、ダイナミック・マイクの方はやや中域に寄っている印象。レンジはコンデンサー・マイクと比べると狭いです。コンデンサー・マイクはレンジも広く、繊細に音が録れますが、“吹かれ”というものが起きやすくなっています。パ行などの破裂音を歌ったとき、口から強い圧で空気が出ていき、マイクの振動板に当たって低音のノイズになってしまいます。それを防ぐためにポップ・ガードというものが必要です。

 

浜端 “ダイナミック・マイクよりコンデンサー・マイクの方が音が良い”というイメージを持っている人もいますが、単純に種類が違うだけです。

 

大野 プロの現場でも、ダイナミック・マイクを使って歌を録ることは多いです。自分がどんな音で録りたいのかをイメージした上で、両タイプのマイクを使って比較してみるといいと思います。音例ではSE ELECTRONICSのコンデンサー・マイク、X1 Sとダイナミック・マイクのV7を使って録っていますので、聴き比べてみてください。

ダイナミック・マイク

コンデンサー・マイク

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録音に使用したコンデンサー・マイクのSE ELECTRONICS X1 S(18,500円/写真左)とダイナミック・マイクのV7(11,000円/写真右)

レコーディングのための環境作り

大野 良い音で録れるように設計されたスタジオとは違い、自宅では不要な音の反射やノイズが発生しやすいです。

 

浜端 そういった不純物がテイクに乗っていると、ミックスが進むにつれて不純物の存在感が大きくなり、目立ってきてしまいます。気にし過ぎるとクリエイティビティに影響が出ますが、ある程度意識して録音時から不純物を入れない工夫をするといいですね。

 

大野 反射が気になる場合は、マイク・スタンドなどに毛布を広げてかけてみて、部屋に置くのも一つの手です。最適な配置場所は部屋によって変わりますので、実際に音を出しながらチェックしてみてください。また、音の反射音がマイクに入らないようにするリフレクション・フィルターという製品もあります。リフレクション・フィルターあり/無しの音例を用意したので、その効果をチェックしてみてください。

 

浜端 意外と重要なのが、近所付き合い。100%の力で歌うためにも、普段から左右上下の住人と良い関係を築いておくのは大切ですね。まずは今自分ができる対策をやってみて問題を認識した後に、リフレクション・フィルターなどの機材を購入するのがいいと思います。

リフレクション・フィルター無し

リフレクション・フィルターあり

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リフレクション・フィルターのSE ELECTRONICS RF-X(10,500円)。反響による影響を防ぐとともに、4つの層からなるフィルターで不要な周波数を抑えることも可能だ

ボーカル録音時のセッティング

大野 ハンドヘルド型マイクを使う場合は手持ちで歌ってもよいですが、大体はマイク・スタンドに立てて録ることが多いです。今回はコンデンサー・マイクのX1 Sを使っているので、ショック・マウントにマイクをセットし、ポップ・ガードも装着しました。マイクには収音できる範囲の特性(=指向性)があり、モデルによってその特性が違ったり、複数を切り替え可能なマイクもあります。歌録りの際は、マイク正面と側面を収音しやすいカーディオイドという指向性のマイクを使うことがほとんどです。また、どれくらいの距離から歌うのかによっても録り音は変わってきます。マイクからポップ・ガード、ポップ・ガードからボーカリストの口までの距離は、まず10cm程度を目安にしてみてください。もちろん、環境やマイクの種類、ボーカリストの歌い方によっても変わってくるので、モニターしながら調整しましょう。

 

浜端 僕は声が大きい方なので、マイクから離れても音が太く収音されるし、モニターしていてもしっかり返ってきますが、例えばウィスパー・ボイスで歌うタイプの方であればもっとマイクに近付くなど、その人に合うポイントがあるのでそれを覚えておくといいですよね。さらに歌うフレーズに合わせて距離をコントロールするなど、歌のテクニックで調整することも意識するとイメージに近い歌が録れると思います。

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ポップ・ガードから10cm程度離れた場所を基本にして歌うとよいだろう。歌うフレーズに合わせて距離感を調節するなど、歌の技術も良い音で録るためには必要となる

アコースティック・ギターのレコーディング

大野 自宅での楽器録音というとアコギが多いでしょう。僕の場合、アコギに対してマイクは6弦側の斜め上から狙うことが多いです。各弦がバランス良く収音できます。今回はホール/ブリッジ/ネック・ジョイントから15cmほど離したところへX1 Sを立てて録音してみました。ホール前の音はリッチに、ブリッジ前では音が詰まるような印象で、ネック・ジョイント前は低域が抑えられたサウンドになっているのがお分かりになるかと思います。アコギ録音では、マイクでどこを狙うのかによって音がかなり変化するのです。繰り返しになりますが、ここでも音をヘッドフォンでモニタリングしながらマイクの角度、距離、狙う場所を調整するようにしてください。そのためには、事前に自分が目指すサウンドを想定しておくことが大事です

 

浜端 “とりあえず録ってしまって、後からEQで調整すればいい”と思う方もいるかもしれませんが、録る段階で理想の音に近付けておくことが重要ですね。

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6弦側の斜め上からマイクを立てている。今回はホール前/ブリッジ前/ネック・ジョイント前の3パターンを録音した

ホール前

ブリッジ前

ネック・ジョイント前

 

ボーカル+ギター

ボーカル(ダイナミック・マイク)+ギター

ボーカル(リフレクション・フィルター無し)+ギター

ボーカル(リフレクション・フィルターあり)+ギター

 

終わりに~情報に惑わされず自分の耳で判断しよう!

大野順平

 自宅での録音は、ノイズや反射などのいろいろな問題があって難しいと思います。その対策や録音テクニックは必要ですが、何より大事なのは“良い音楽を作る”ということです。目指すべき音、その曲に合った音を考えたときに、不純物を取り除かないという選択肢も入ってくると思います。その判断のためにも、“歌はこう録るのが正解”“マイクはこれを使うとよい”などの情報を鵜呑みにするのではなく、自分の耳で判断することを常に意識してください

 

 近年は低価格ながら優れたクオリティのマイクも出てきているので、自宅録音のハードルも低くなってきたと感じています。例えば今回使用したマイクのSE ELECTRONICS X1 Sは、リフレクション・フィルターのRF-X、ショック・マウント、ポップ・ガードがセットになったX1 S Studio Bundleとしてなんと26,000円で購入できます。エントリー・グレードですが、音例で分かるようにプロ・クオリティのサウンドで録音できました。もちろん、高価格帯の機材にしかない魅力というのはありますが、環境の整備、そしてボーカルや演奏者の技量があれば、理想のテイクを録ることができるのです。これから自宅での録音に挑戦する方には、ぜひX1 S Studio Bundleを使ってみていただきたいですね。

浜端ヨウヘイ

 理想のサウンドにしようとすると、“より良いマイクを使う”“より高価なプリアンプを通す”“ハードウェア・コンプレッサーを導入する”などに考えが行きがちですが、最初から機材に頼り過ぎると歌や演奏技術の向上の妨げになることもありますし、何よりミックス/マスタリングでの感動が薄くなってしまうと思います。手持ちの武器で限界まで挑戦をして録音をするからこそ、ミックスされたときの興奮が生まれるのだと思うので、まずは手の届く機材でできることをとことん突き詰め、録音技術と演奏技術を高めるところからスタートするのがよいのではないでしょうか。そんなときにX1 S Studio Bundleはすごく力になってくれそうですね。

 

 今回紹介したような環境作り、マイキングを意識すると良いサウンドで録れると思いますが、意識し過ぎるあまり制作が進まなくなってしまうのも問題です。パソコンの排気音が気になるから離れた場所で録音し、またパソコンの前に移動して編集をする……そういうふうにしていては作業効率は落ちてしまいます。自分の環境でどこまでのクオリティを求めるのか最低ラインを決めておき、ある程度の部分は割り切って、制作に向かう勢いを止めないようにするというのが、自宅での制作では大切ではないかと僕は思います。

 

Pick Up Product:
SE ELECTRONICS X1S Studio Bundle

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SE ELECTRONICS X1S Studio Bundle / 26,000円

 同社のコンデンサー・マイクX1を改良したX1 Sと、リフレクション・フィルターのRF-X、ショック・マウントとポップ・ガードが一体となったIsolation Pack、3mのマイク・ケーブルがセットになったパッケージ。X1 Sは同社の熟練工による手製のコンデンサー・カプセルを採用して組み立てられており、X1から再設計された回路によって広いダイナミック・レンジ、感度や最大音圧の向上、セルフ・ノイズの抑制を実現している。

SE ELECTRONICS X1S Studio Bundle

26,000円

(2020年4月30日より37,000円から価格改定)

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●SPECIFICATIONS▪カプセル:1インチ・トゥルー・コンデンサー ▪指向性:カーディオイド ▪周波数特性:20Hz〜20kHz ▪感度:30mV/Pa(-30.5dBV) ▪最大音圧レベル:140dB(PADが0dB時、0.5% THD@1kHz) ▪等価ノイズレベル:9dB(A) ▪ダイナミック・レンジ:131dB(PADが0dB時) ▪SN比:85dB(A) ▪インピーダンス:125Ω ▪ロー・カット・フィルター:80/160 Hz(6dB/oct) ▪PAD:0/-10/-20dB

製品情報

hookup.co.jp

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