「SE ELECTRONICS V7」製品レビュー:アルミニウム・ボイス・コイルを採用した超指向性ダイナミック・マイク

SE ELECTRONICSV7
このところホール・ライブの現場が多く、筆者はFOHエンジニアとしてホールを走り回っていることが多いのですが、そんな筆者をどこかで監視しているかのごとく、絶妙なタイミングでハンドヘルド型ダイナミック・マイクSE ELECTRONICS V7のレビューの話をいただいたのです。レコーディングだけでなく、ライブ現場でも試せるので、これはとてもやりがいのあるレビューです。

近接効果の影響を折り込んだ設計
吹かれやハンド・ノイズも対策済み

まずは概要から。ダイナミック型のDMC7というカプセルを搭載し、ボイス・コイル素材は新技術によるアルミニウム、マグネット素材は定評のあるネオジムを採用。特許取得済みの内蔵ショック・マウントにより、カプセルに与える機械的な振動から切り離しています。また、耐久性を考え、プラスティックの部品を一切使わず、ボディはすべて金属製。指向性はスーパー・カーディオイド、周波数特性は40Hz〜19kHzとスペックを見る限りはいたって普通です。また、銅ボイス・コイルを採用した単一指向性のV3(10,000円)も発売となりました。

実際に手に取ってみると、まず目につくのがレッドの内部ウィンド・スクリーン。高級感があります。用途に合わせ、付属のブラックのウィンド・スクリーンに交換が可能。ボディの作りや素材の質感、フィット感には高級さや重厚さがあり、信頼ができそうです。また、メタル・メッシュ・グリルの周りをガイドが覆っているのですが、マイクを置いたときに転がらないようにエッジが施されています。

さて、まずはライブで実際に使用した感想です。ステージに持ち込む前にFOHのトークバックに使用してみました。普段からSHURE SM58での自分の声はよく分かっているので、V7のサウンドの素晴らしさにはすぐに気がつきました。例えるなら、軽くエンハンサーをかけて、近接効果でぼやけやすい200Hzから300Hzの間を少し削ったようなサウンドです。近接での吹かれや、ハンド・ノイズへの対策は完ぺきです。

ブース内のようなカブリの少なさ
楽器への使用ではパリッと乾いたサウンド

続いてステージ上で、アコースティック・ピアノ奏者のコーラス用マイクに使用してみました。演奏者の声質は熟知していますが、自分の声で試したときと同様、V7は単純に周波数特性カーブでのキャラクターの色付けをしているだけでなく、倍音のスピードが実音よりも速く感じられるイメージ。また、ローエンドも柔らかくて豊かです。ボーカル・マイクとしてはかなりの好印象を受けました。恐らく近接での使用を緻密に研究したのでしょう。そして、何よりも驚いたのが、音のカブリが極端に少ないこと。このケースでは演奏者の左下にフット・モニターがあり、もちろんピアノも弾いているのですが、まるでブースに入っているかのようにカブリが少ないのです。

さらに、レコーディングでの現場でも使ってみました。通常はスタジオでこのタイプをボーカルに使用することはあまりないのでスネア・ドラムで試したところ、予想以上に筆者の好みでした。パリっと乾いたサウンドで、スネア独特のスナッピー以外のポンポンした部分がうまくコントロールされている印象があります。パーカッションにも使いましたが、やはり近接による過多なサステインは感じられず、パリッとしたイメージでした。今回は試す機会がなかったのですが、ギター・アンプにもぜひ使ってみたいです。いい予感がします。

ライブで使用する機材の条件として、トラブルが無く安定していて、故障が無く頑丈なこと、カブリが少ないこと、もちろんサウンドが素晴らしいことが挙げられますが、V7は非常に期待できると思います。ボーカルでぜひ使いたいと思わせるマイクです。ワイアレス・ヘッドが発売されたら、間違いなく筆者は使うと思います。

ハンドヘルド型ダイナミック・マイクはかなりの種類があり、多種多様です。1960年代から各メーカーがさまざまなモデルを発売していますが、それでも年々新しいモデルが生まれています。しかし、このタイプ、どうしても長い歴史と功績があるのでSM58を思い描いてしまいます。また、良くも悪くもそのサウンドがライブPAにおけるスタンダードになっている事実も否めません。

しかし、そんな時代も移り変わっていくような予感をさせる新しいハンドヘルドも近年増えてきています。ダイナミック・マイクとは思えないほどクリーンでナチュラルなサウンドのもの、そして高価な製品が増加。ダイナミックに限らず、コンデンサー・タイプも数多くあります。そんな中ですから、今回のSE ELECTRONICS V7のような価格帯で画期的な音色、そしてとてもインパクトがあるマイクの登場には驚きを隠せませんでした。

▲グリルとウィンド・スクリーンを外したところ。カプセル部のDMC7が見える ▲グリルとウィンド・スクリーンを外したところ。カプセル部のDMC7が見える
▲姉妹機のV3。ボイス・コイルに銅を使用したDMC3カプセルを採用する単一指向性モデル ▲姉妹機のV3。ボイス・コイルに銅を使用したDMC3カプセルを採用する単一指向性モデル

サウンド&レコーディング・マガジン 2017年2月号より)

SE ELECTRONICS
V7
13,800円
▪形式:ダイナミック ▪指向性:スーパー・カーディオイド(超指向) ▪周波数特性:40Hz〜19kHz ▪感度:2mV/Pa(−54dBV) ▪インピーダンス:300Ω ▪外形寸法:54(φ)×184(H)mm ▪重量:305g ▪付属品:マイク・ホルダー、変換ネジ、交換用ウィンド・スクリーン、マイク・ポーチ