「AUDIONAMIX SVC」製品レビュー:2ミックス内の話し声を抜き出して音量調整が可能なプラグイン

AUDIONAMIXSVC
2ミックスの音源からボーカルを分離させ抜き出すソフトウェアTrax Proが話題のフランスのプラグイン・メーカーAUDIONAMIXから、今度は2ミックスからのスピーチ分離に特化した新製品、SVCが発売されました。Mac/Windows両対応で、VST/AU/AAXプラグインとして動作します。ポストプロダクション向けに開発されたと思われるこの製品。さまざまなサンプルを用意しそのポテンシャルを探っていこうと思います。

モノラル/ステレオ・ファイルに対応
音量を±12dBで調整可能

このプラグインは、モノラル/ステレオの2ミックス音源からスピーチ(声)とバックグラウンド(録音時の環境音)を分離させ、それぞれの音量を±12dBで調整を可能にするというもの。早速、基本的な使い方を見ていきましょう。

今回筆者はAVID Pro Tools|HD 12 Nativeで使用しました。まず任意のトラックに比較的室内の環境音が大きい状態で収録されたナレーション素材を用意しました。次にSVCをAAXプラグインとしてインサート。しかしこれだけでは何も操作できません。SVCに音声データを読み込ませる必要があります。

パネル中央下部にあるACQUIREというボタンを押すとボタンがRECマークのように赤く点灯します。この状態でナレーション素材を再生します。再生を止めると赤い表示が消え、音声データが認識されました。続いてSEPARATEボタンを押すと、先ほど読み込んだ音声の分析データがサーバーにアップロードされ、それをデコードしたデータがダウンロードされます。データはスピーチとバックグラウンドに分離されており、音量調整が可能となるのです。サーバー側に送り処理しますのでインターネット環境が必須です。回線速度にもよりますが10秒ほどのステレオ素材をWi-Fi環境で使用した場合、数十秒程度の処理時間がかかりました。この素材では、確かにスピーチとバックグラウンドが分離され±12dBの中で音量調節が可能となりました。インサート・エフェクトとしてパラメーターを調整できるのもメリットとなります。

また、素材に合わせた細かいセッティングも可能です。左上部のSPEECH SETTINGにはMale(男性)、Female(女性)、Child(子供)というプリセットが用意されています。これらは中央部のPITCH RANGEの設定で、ターゲットとなるスピーチの周波数帯域を限定でき、分離精度の向上が望めるのです(画面①)。

▲画面① 素材に合わせたセッティングは、左側の声のプリセット選択と、中央のPITCH RANGEで行うことができる。さらに右側にあるSEPARATION OPTIONで細かく設定が可能 ▲画面① 素材に合わせたセッティングは、左側の声のプリセット選択と、中央のPITCH RANGEで行うことができる。さらに右側にあるSEPARATION OPTIONで細かく設定が可能

右部SEPARATION OPTIONにも触れていきましょう。HIGH QUALITYは通常とは異なるアルゴリズムを用いることで自動分離処理の精度を高めます。しかし、処理速度は長くなります。REVERBはスピーチに含まれるリバーブ成分もスピーチに含めて処理することができます。HF BOOSTはスピーチに高い周波数が多い場合に有効です。AVADは、環境音の中のスピーチ個所を解析し余計な分離をしないようにするためのもの。スピーチがうまく認識されない場合はオフにするとよいでしょう。

SPEECH SETTINGで
周波数帯域の調整ができる

さて、ここからはさらに素材の難易度を上げて試してみようと思います。車が行き交う道路沿いでの収録素材を使ってみます。交通音と音声(スピーチ)は分離されましたが、やはりバックグラウンド・ノイズが大きいほどスピーチとの分離は難しくなるようで、±6dBほどで音質的に崩れてきました。また、人々の話し声が飛び交う街中での収録素材では、バックグラウンドでの粒だった話し声もスピーチと認識されるようで、このような場合はSPEECH SETTINGでメインのスピーチの周波数帯域を調整した方が良い結果が得られました。

最後にセリフ、音楽、効果音がミックスされた素材で試してみます。この素材はMA時に適切な整音処理がされているものなので、スピーチとそれ以外の分離は比較的うまくいきました。万が一2ミックスしか残っていない場合に、後処理でここのダイアログの音量を微調整したい、というときは有効な手段になりそうです。

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SVCはこれまで無かった新しい選択肢の一つとなりそうですが、録音時に全く聴こえないものを聴こえさせるプラグインではありません。しかし、このような手段があることを知っていれば無茶な環境での録音時にも余裕をもって臨めるのではないでしょうか。屋外など、録音環境の悪い中での映画やドラマで音声を収録する場合や、ENGによるロケ取材など、必要とされるシーンはいろいろ考えられます。これまで膨大な時間を費やしていた作業が効率化されることは間違いなく、この製品への注目度の高さはそこにあると思います。

サウンド&レコーディング・マガジン 2017年2月号より)

AUDIONAMIX製品ページ
http://sonicwire.com/product/vi/maker/147701

AUDIONAMIX
SVC
26,580円(価格は為替レートによって変動)
REQUIREMENTS ▪Mac:OS X 10.8以降 ▪Windows:Windows7以降 ▪共通項目:AU、VST、AAX対応、INTEL Core 2 Duo 2.3GHz以上のプロセッサー、4GB以上のRAM、インターネット回線