「SLATE DIGITAL VerbSuite Classics」製品レビュー:各種ハードウェア・リバーブを忠実にモデリングしたプラグイン

SLATE DIGITALVerbSuite Classics
ビンテージ機器を忠実にかつ、より使いやすくプラグイン化しているSLATE DIGITAL。これまでヘッドアンプ、コンプ、EQなど“原音を直接変化させる”用途の名器たちを主に取り扱ってきた同社が満を持して発表したのが、“原音に付加する”ことで音像を作り上げるリバーブをプラグイン化したVerbSuite Classics(Mac/Windows対応、AAX/AU/VSTに準拠)である。

オリジナル・ハードウェアが持つ
揺らぎや深みを完全再現

レコーディング史における残響処理には幾つかの転機が存在する。ナチュラルなルーム・アコースティックに始まり、それをコントロールできるようにしたエコー・チェンバー。実空間を使うことなく人工的に残響を生成可能にした、プレート・エコーやスプリング・リバーブという進化を経て、1976年に世界初のデジタル・リバーブEMT 250が登場した。以降数多くのデジタル・リバーブが開発され、これまでにない多様な残響を手軽に付加できるようになる。同時期にデジタル化されたディレイと共に、1980年代の音楽シーンにおいて積極的に使われるようになり、人工的残響処理は80‘sサウンドを華やかに彩った。1990年代末期にはコンボリューション・リバーブ(サンプリング•リバーブ)が登場し、さまざまな空間やハードウェアから得たImpulse Response(=IR)データによって、それぞれの残響をよりリアルに再現できるようになった。

今回レビューするVerbSuite Classicsもこのコンボリューション•リバーブ。“Classics”の名のもとモデリングされているのは、デジタル•リバーブ黎明(れいめい)期から現代のものまで8種類のハードウェアで、それぞれコンディションの良い個体が選ばれた。LIQUID SONICSが特許を所有する“FUSION Captureテクノロジー”に基づき、オリジナル•ハードウェアが持つ揺らぎや深みを完全再現したとのことだ。

多くのプリセットを内蔵し
必要最小限のパラメーターで調整

デジタル・リバーブというとパラメーターが膨大でしかも機種ごとにその呼び名が統一されていないので使いづらいと感じている方も多いと思うが、VerbSuite Classicsはいたってシンプル。中央にあるLoad Deviceボタンを押すと、8種類のハードウェアからエミュレーションされたモデルが表示されるので、使いたい機種とそのプリセットを選び、必要に応じて画面上の10個のツマミを調整するだけだ(画面①)。

▲画面① VerbSuite Classicsに搭載された、ハードウェア・モデルは8種類。それぞれの特長を生かしたプリセットを豊富に内蔵している ▲画面① VerbSuite Classicsに搭載された、ハードウェア・モデルは8種類。それぞれの特長を生かしたプリセットを豊富に内蔵している

真ん中の大きなツマミはDecayで、リバーブが−60dBにまで減衰するのにかかる時間を25〜130%の間で調整できる。その上の4つのつまみは、左からAttack/PreDelay/Chorus/Width。Attackで部屋の大きさによって残響音がピークに達する時間を調整し、PreDelayで原音に対して残響が始まる時間を調整、Chorusはリバーブ音にモジュレーション効果を付加し、Widthでは残響の左右の広がり具合を設定できる。

左側は3バンドのEQセクション。Lowは460Hzからのシェルフで、Midは3kHz、Highは12kHzのベル・カーブとなっている(画面②)。さらに右側はモニタリング・セクションで、アウトプットのゲインとDry/Wetのバランスを決めることができる。

▲画面② 画面左側には3バンドのEQセクションを装備。Lowはシェルビング、MidとHighはベル・カーブとなっている ▲画面② 画面左側には3バンドのEQセクションを装備。Lowはシェルビング、MidとHighはベル・カーブとなっている

実はリバーブはプリセットがとても重要だ。我々プロでも膨大なパラメーターをそれぞれ調整して望む残響を得ようとすることはまれで、数あるリバーブ機種の中の、数あるプリセットからイメージに合うものを選んでリバーブ・タイムとプリディレイなどをいじるくらいがほとんど。それゆえ業界定番や、個人的お気に入りなどのプリセットが多数存在するのだ。従って定番リバーブのプリセットを収録し、それらを必要最小限なパラメーターで調整できるのは大変使いやすい。

実際の音色を確認してみると、それぞれの機種の差異が明確で、各個体のキャラクターがとても良く表現されている印象を受けた。FG-480は元となったLEXICON 480Lの持つ明りょう度の高さ、ルーム感作りのうまさなどがそのまま再現されている。AMS RMX-16をモデリングしたFG-16Xは、その太く原音にまとわりつくような暑苦しい残響をしっかりと踏襲している。またEMT 250を模したFG-250は、デジタル初期の粒の荒さを残しつつも、実機が持っていた上品で膨らみのあるリバーブが再現されている。発売から10年たっていない現代ハードウェア・リバーブの雄、BRICASTI M7はFG−BM7として収録され、実機でも評判の深みのある奥行き感と高品位な残響を生み出すことができる(FG-BM7はフリー・エキスパンションのため、公開されているBricasti M7 Fusion-IRを本国Webサイトから入手して使用)。

これまでも同様なコンセプトのコンボリューション・リバーブは幾つも存在していたのだが、各機種の音色傾向をこれほど分かりやすく表現したという意味ではピカイチであろう。操作性も良く各プリセットに素早くアクセスできるため、ミックス時に積極的に使っていきたい。さらに各プリセットを下にさまざまなファクトリー•プリセットも用意されているので、より気軽に使えるのもポイントが高いと感じた。

サウンド&レコーディング・マガジン 2017年2月号より)

製品ページ
https://miyaji.co.jp/MID/product.php?item=VerbSuite%20Classics

SLATE DIGITAL
VerbSuite Classics
オープン・プライス(市場予想価格:22,000円前後)
REQUIREMENTS ▪Mac:OS X 10.7以降 ▪Windows:Windows7以降 ▪共通項目:INTEL Quad Core I5以上のプロセッサー(Quad Core I7以上を推奨)、4GB以上のRAM(8GB以上を推奨)、iLok2