“セルフ・レコーディングを始めたい”“どんな機材を使えばいいのか分からない”“機材の使い方を知りたい”といった音楽制作をスタートする人に向けた知識&テクニックを紹介する本連載。第2回は、MIDIキーボードを使った楽曲制作についてを解説する。ラップトップ1台で制作を始める人も多いが、MIDIノートを打ち込む際にマウスで1音ずつクリックしていくのはなかなか骨の折れる作業だ。また、“生楽器のグルーブが出ない”と頭を悩ませている人もいるだろう。今回は打ち込みのワークフローを加速させてくれるMIDIキーボードについて、作編曲家/キーボーディストの守尾崇氏にレクチャーいただいた。
Photo:Takashi Yashima
講師:守尾崇
【Release】
『NEXT ZONE(TYPE-A)』
BATTLE BOYS
(SDR)
MIDIで鳴らすプラグイン音源とは?
まずはMIDIキーボードで鳴らすことになるプラグイン音源についてお話しましょう。打ち込みで楽曲を構築していく際、プラグイン音源は欠かせません。ピアノなどの生楽器やシンセサイザーなどの電子楽器の音を再現するものから、実際に存在する楽器とも違うオリジナルの音源など多種多様に存在します。
ソフトウェアであるため楽器を買うよりも安く済むことが、プラグイン音源の魅力の一つ。実機を買うと何十万円もするところ、1万円程度で購入することもできたりするのです。生楽器やアナログ・シンセサイザーなどには、“アナログだからこその音の密度”というものがあり、楽曲制作の中でもそれが必要になってくる場面はあります。しかし、デジタルであるプラグイン音源には、アナログとはまた違った音作りの自由度の高さがあり、複雑なサウンドを生み出すことが可能です。近年ではプラグイン音源の技術も高くなり、実機との違いはどんどん無くなってきています。
プラグイン音源はMIDI信号によって音を発することができます。DAWに備わっているピアノロール上で音高を示すMIDIノートを配置すれば、再生した際に時間軸にそってプラグイン音源の音が鳴るわけです。また、プラグイン音源にはさまざまなパラメーターが備わっていることが多いですが、それらもMIDI信号によってコントロールできます。
MIDIキーボードの重要性
マウスでMIDIノートを打ち込むと、大抵の場合はグリッドにスナップされたタイミングがずれない音になります。もちろん、あとで調整してずらすことは可能ですが、MIDIキーボードで弾いて打ち込む場合は、自然とMIDIノートのタイミングと長さにズレが生じ、グルーブを生み出すのです。
また、MIDIキーボードの多くは鍵盤を押す速さ=ベロシティの感知に対応しています。プラグイン音源はベロシティの数値によって音に変化を与えることが可能。多くの場合は音色や音量の強弱をコントロールするため、プラグイン音源の音をより自然な演奏に近付けることができます。
MIDIノートのタイミングと長さ、ベロシティのズレは、曲の印象に大きくかかわってきます。トラックを聴きながらMIDIキーボードを弾いて打ち込むことで、自然と曲の流れに合わせた弾き方になるものです。曲の1番と2番で盛り上がり方が違えば、弾き方も2番の方が激しくなってベロシティも大きく、タイミングも突っ込み気味になるかもしれません。そうなることで、曲の流れを感じさせる打ち込みフレーズを作ることができるのです。
ピッチ・ベンドとモジュレーション・ホイール
多くのMIDIキーボードには、ピッチ・ベンドとモジュレーション・ホイールというものが付いています。MIDIキーボードによってその形状はさまざまで、ホイール・タイプやスティック・タイプ、タッチ・ストリップ・タイプなどがあります。
ピッチ・ベンドは弾いている音高を変えるものです。いわゆるギターのチョーキングのように、なめらかに音高が変化する表現に使えます。モジュレーション・ホイールは、プラグイン音源の任意のパラメーターを操作するのに使います。例えば、フィルターのカットオフやビブラート、音量などです。モジュレーション・ホイールを使えば、連続的な変化を加えることができるので、ストリングス音源のダイナミクスを再現するときなどに活躍します。
MIDIキーボードによっては、さらに表現の幅を広げてくれる機能を持つものもあります。例えば、NEKTAR TECHNOLOGY GXP88であれば、アフタータッチという機能に対応しています。これは鍵盤を押し込む強さでパラメーターをコントロールするもの。筆者の場合は、シンセのフィルター・カットオフをアフタータッチで操作することが多いです。モジュレーション・ホイールと組み合わせれば、複雑な音色変化を生み出すことができるでしょう。
制作を効率化させるMIDIキーボードの操作子
MIDIキーボードの種類によっては、さらに多くの機能を持つものがあります。例えば、写真のNEKTAR TECHNOLOGY Impact LXシリーズでは、パッドとノブ、トランスポート・ボタン、フェーダーが搭載されています。パッドはリズムの打ち込みに便利。鍵盤よりも押した後の戻りが速いため、ドラムをたたく感覚に近い打ち込みができます。ノブはプラグイン音源のパラメーター調整などが直感的に行えますし、フェーダーはDAWのミキサー画面を操作するのに有用です。トランスポート・ボタンはDAWの再生や停止などが可能。MIDIキーボード上でこれらを素早くコントロールできるのは制作の効率化につながります。
MIDIキーボードによっては、それら操作子とDAWを連動させるために複雑な手順を踏む必要がある場合もあります。しかし、例に挙げたNEKTAR TECHNOLOGYのMIDIキーボードたちには、多くのDAWのプロファイルが用意されており、コンピューターにプロファイルを入れるだけで、DAWとの連携が簡単に行えてしまいます。初心者にとってうれしい機能ですね。
終わりに~手弾きの打ち込みで“曲の流れ”を作ろう
MIDIキーボードを使う一番大きなメリットは、最初に述べたように“曲の流れ”を作れるところです。音楽ジャンルによっては、ベロシティやタイミングがそろったサウンドの良さもあります。しかし、曲の展開の中で聴いている人の気持ちをどうやって動かすのかを考えたとき、打ち込む音のちょっとした部分に凝ることが重要だと思うのです。手で弾くと毎回必ず違うことが起きます。鍵盤を弾く、ノブを動かすということで、フレーズに流れが生まれ、より楽曲のクオリティが上がってくるはずです。
今回の解説にあたり、多機能MIDIキーボードのImpact GXP88とImpact LX49+を試しました。Impact GXP88は88鍵なので、ピアノなどの演奏に慣れた人は扱いやすいでしょう。独自の機能として、付属プラグインのNektarineとの連携が挙げられます。Nektarine内には複数のプラグイン音源を読み込むことができ、音を重ねるレイヤーや、MIDIキーボードの鍵盤位置で違う音色が出るようにするスプリットが可能。それらの操作やプリセットのブラウジングはImpact GXP88から行えます。複雑な音色エディットが可能になるMIDIキーボードです。
Impact LX49+は、パッドやノブ、フェーダーが備わった全部入りと言えるMIDIキーボード。同シリーズには鍵盤数が少ないモデルもあるので、演奏に不慣れな方やたくさんの操作子を駆使したいという方はImpact LXシリーズがお薦めです。
Pick Up Product:
NEKTAR TECHNOLOGY Impact GXP88
ベロシティ&アフタータッチ対応の88鍵MIDIキーボード。DAWインテグレーションによって主要なDAWと簡単に連携が可能となっており、トランスポートの操作やトラックの選択などの操作ができる。付属プラグインNektarineでは、最大10種類のプラグイン音源を立ち上げて、レイヤー/スプリットでの音作りが可能。Impact GXP88からプリセットのブラウジングも行える。ライブでの使用も考えられたモデルだ。
NEKTAR TECHNOLOGY Impact GXP88
42,000円
NEKTAR TECHNOLOGY Impact LX49+
9本のフェーダーと8つのノブ、8つのパッド、トランスポート・ボタンを持つ49 鍵MIDIキーボード。ベロシティ感知も対応している。DAWインテグレーションにより、主要DAWとの高い連携を実現。フェーダーを使ったミキサー・コントロールやノブでのパラメーター調整、パッドを使ったリズム・プログラミングなど、DAWの操作をフィジカルに行える機能が満載だ。初めてのMIDIキーボードにも適している。
NEKTAR TECHNOLOGY Impact LX49+
26,000円