DJ WATARAIがbanvox新曲をリミックス! 〜banvox新曲を題材に3人の巧者が挑む “リミックス制作の極意”

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Photo:Hiroki Obara

ベース・ミュージックという観点から
Aメロはレゲエに展開したら面白いと思ったんです

 異なる音楽ジャンルの3名のビート・メイカーがbanvoxの新曲「Utrecht」のリミックスに挑んだ本特集。ここでは各リミキサーに登場していただき、それぞれが制作したリミックスの解説や、ポイントについて語ってもらおう。最後は日本のヒップホップ/R&Bシーンにおける最重要人物の一人、DJ WATARAIが登場。彼のリミックスは、ジュークを軸にしたサビとレゲエのAメロのコントラストが新鮮だ。終盤ではドラムンベース調に展開し、最後までリスナーを飽きさせない。早速、彼に話を聞いてみよう。

Text:Susumu Nakagawa

 

banvox - Utrecht(DJ WATARAI Remix)

 

細かくカットアップした上モノから
ドラムンベースのリズムが浮かんできました

 最初にDJ WATARAIは、banvox「Utrecht」についてこう語ってくれた。

 「以前、banvoxさんがMICROPHONE PAGERのTシャツを着ている写真をたまたま見たことがあり、ヒップホップが好きなのかな?と思っていたのですが、「Utrecht」を聴いて“やっぱり!”と感じました。この曲は野太いビートにジャジーな上モノが乗るブーン・バップですが、展開はよくあるワン・ループではなく、細かくコード進行が変わっていきます。ビートがとても格好良いです」

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DJ WATARAIのプライベート・スタジオ。メイン・モニターはYAMAHA HS7で、DAWはAVID Pro Tools、APPLE iMacの下に見えるのはオーディオI/OのPRISM SOUND Orpheusだ。ミックスでは、デスク手前に置かれたヘッドフォンのBOWERS & WILKINS P9 Signatureを使用する

 これまでさまざまな楽曲のリミックスに携わってきたDJ WATARAIだが、実はインストゥルメンタルのリミックスをするのは今回が初めてだという。

 「ラップが入っていたらトラップ調に、歌があったらネオ・ソウルっぽくしようと思っていたのですが、インストゥルメンタルだったので、一度ヒップホップやR&Bからちょっと離れて、何かもっと面白くできないかな?と考えてみることにしました。そこでよく上モノを聴いてみるといろいろな音が入っていたので、あまり音を足さずにリズムでアレンジする方向性にしたんです」

 

 ここでDJ WATARAIは、AVID Pro Toolsのタイム・ストレッチ機能でテンポを80BPMにして、レゲエ要素を取り入れたジュークにアレンジしようと思ったとのこと。

 「ループ感を出したかったのでステムの上モノから一部分を切り取り、イントロ/Aメロ/サビのパートを用意しました。ただ、ずっと上モノをループさせるだけではつまらないので、各セクションの後半には別の部分を持ってきて展開を作ったんです。そしてイントロやサビには3連符のキックをいれました。最近のジュークは昔と比べて自由度が高くなっている気がするので、ベース・ミュージックという観点からAメロはレゲエに展開したら面白いんじゃないかと思ったんです」

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セクションごとに異なる上モノのカットアップ
ステムの上モノをカットアップして作ったイントロ(赤枠)/Aメロ(黄枠)/サビ(青枠)。各セクションの後半はループしていな

 リミックスの構成は、イントロ後にAメロとサビを2回繰り返し、間奏を挟んだ後にドラムンベース調に展開してアウトロへと続く。この大胆な展開が、ループ基調のトラックに大きな変化を生み出している。

 「ドラムンベースのパートは大サビっぽい扱いです。上モノを細かくカットアップしたときに、そのコードや雰囲気からドラムンベースのリズムが浮かんできました。構成的にも起承転結の“転”になるためここで一気にガラッと雰囲気を変え、最後は“結”として再びレゲエのリズムに戻そうと考えたのです。今回はインストゥルメンタルなので、ラップ用のトラックというより“ダンス・ショーケースなどで使えるBGM”というものをイメージしていて、リズムや展開にバリエーションを持たせるということも意識しました」

 

キックとスネアはグリッドにとらわれず
フィーリングでMIDIノートを置くようにしています

 DJ WATARAIは、上モノとキック、全体の構成を決めた後の手順についてこう語る。

 「スネアとハイハットを入れ、基本のドラム・パターンができたらベースを追加しました。Aメロがちょっとさみしい感じがしたので声ネタをプラスし、ギター系の音色のシンセとカリンバをレイヤーした音で夏らしい雰囲気を演出したんです。またサビの後半ではリム・ショットを、ドラムンベースのセクションの後にはステレオでワイドに広がったフロア・タムのループを加えています」

 

 イントロとサビに打ち込んだ3連符のキックには、ステム・データの“Sub Kick”を使ったのだそう。

 「この“Sub Kick”はすごく音が良かったので、曲に生かそうと思ったんです。EQプラグインWAVES PuigTec EQP-1Aで60Hzと10kHzを少しブーストして存在感を足しました。スネアは、ソフト・サンプラーのNATIVE INSTRUMENTS Battery 4を使ってスネアとリム・ショットをレイヤーしています。さらにプラグインのFABFILTER Pro-Rでリバーブを薄くかけていますね。サビの後半に登場するリム・ショットの音は、パーカッションに特化したソフト音源のKLEVGR. Ting。Tingはとても音が良く、紙同士をこすり合わせた音など、珍しい音も収録しています。音色の調整も細かくできるので便利です」

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キックのEQに用いたプラグイン
EQプラグインWAVES PuigTec EQP-1Aは、イントロとサビに登場する3連符のキックに使用。60Hzと10kHzをそれぞれ若干ブーストしている

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パーカッションに使用したソフト音源
サビ後半で登場するリム・ショットには、12種類のパーカッシブ・サウンドを収録したソフト音源KLEVGR. Tingを用いた。床を踏む音やソファをたたく音などユニークなサウンドを“演奏”できる

サブベースには、ソフト音源のROLAND Juno-106を使用している。

 「Juno-106はROLAND TR-808のキック・ベースみたいな音がするので好きなんです。これをサチュレーション・プラグインのSOFTUBE Saturation Knobでひずませて、WAVES Renaissance Bassでローエンドを補強後、さらにPuigTec EQP-1Aで20Hzをブースト。こうすることによって低域がふっくらします。キックとのすみ分けに関しては、基本的に自分はサイド・チェイン・コンプを使わないので、サブベースの60Hz付近をカットしているくらいです」

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サブベースに使用したソフト音源とプラグイン
サブベースに用いたソフト音源のROLAND Juno-106(画面右上)。これにサチュレーション・プラグインSOFTUBE Saturation Knob(同左上)と、ベース・エンハンサー・プラグインWAVES Renaissance Bass(同左下)、PuigTec EQP-1A(同右下)を挿し、ローエンドと倍音を強調

 DJ WATARAIは、上モノに施したエフェクトについてこう説明する。

 「最近OUTPUTから出たディストーション・プラグインThermalを、Aメロとドラムンベースのセクションで登場するステムの上モノに用いています。若干雰囲気を変えるためにひずませているのですが、ザラついた質感がなかなか良かったです」

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上モノに使ったプラグイン
250種類以上のプリセットを収録するディストーション・プラグイン、OUTPUT Thermal。Aメロとドラムンベースのセクションで登場する上モノの質感を変えるために使用している

 Aメロやドラムンベースのセクションでは細かいスネアのゴースト・ノートが特徴的だが、これについてDJ WATARAIはこう振り返る。

 「このセクションとAメロにおいて、スネアは時々グリッドから微妙にずれたところに配置しています。特に2拍目と4拍目の間に入る細かいスネアは、聴いて心地良いタイミングで鳴るようにしているんです。この曲ではキックはあまりいじっていませんが、普段からキックとスネアはグリッドにとらわれず、フィーリングでMIDIノートを置くようにしています。ベロシティも割と細かく設定して書いていますね。こうすると、グッとグルーブ感が出るんです」

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ドラム3点の打ち込み
上からAメロにおけるキック(赤枠)、スネア(青枠)、ハイハット(黄枠)のトラックが並ぶ。スネアのMIDIノートはときどきグリッドから微妙にずれたところに配置され、ハイハットのベロシティは細かく設定されているのが伺える

“リミックスの方が好き”と言わせたら
こちらの勝ちですね(笑)

 今回のリミックスについて、あらためてDJ WATARAIはこう振り返る。

 「banvoxさんが大好きなので、リミックスさせていただいてすごく光栄です。インストゥルメンタルのリミックス制作も新鮮で楽しかったですね。ボーカルがある曲の場合だと、どうしてもボーカル中心に作っていくじゃないですか。しかし今回はそうではなく、使える素材がトラックのステム・データだけだったので“どれをどのように広げていくか”がポイントでした

 

 DJ WATARAIは、普段からリミックスを制作する上で心がけていることを教えてくれた。

 「まず“オリジナルより良い曲を作るぞ!”という意気込みで臨みます。リスナーに“リミックスの方が好き”と言わせることができたら、こちらの勝ちですね。リミックスは自由度が大きいのでいろいろ冒険できるし、言ってみたらオリジナルにプラス・アルファができるわけじゃないですか? ということは、オリジナルより絶対に“面白い作品じゃないと面白くない”ということになるのです(笑)」

 

 2つ目にDJ WATARAIが挙げるのは、banvoxも語っていた“自分らしさ”についてだ。

 「今回はジュークという畑違いの音楽ジャンルにチャレンジしてみましたが、普段のリミックスではR&Bっぽい曲調が多いです。誰が聴いても、“DJ WATARAIっぽいよね”って言われるような作品を目指しています。これは“出す”というより、“自然に出る”もの。なぜなら、どの部分においても自分の音楽的嗜好が反映されると思うからです。自分の場合は、ドラムの音色やパターン、コード進行、ミックスなどに出てくると思いますが、すべて個性として受け止め、大切にするとよいでしょう」

 

 さらに、ビート・メイカーらしい発言も聞くことができた。

 「ドラムとベースには、受け取った素材をそのまま使わないようにしています。先ほどの話にもつながりますが、ビート・メイカーの個性はドラム・パターンやグルーブ、ベース・ラインに一番表れるのです。例えば、リミックスでピアノやギターなどの上モノをすべてミュージシャンに弾いてもらっても、ドラムとベースだけは絶対自分で作るべきだと思います。そこだけはビート・メイカーの魂が一番宿るところだと思うからです」

 

 まさにビートのスペシャリストたる言葉。最後に、本誌で開催するリミックス・コンテストについてはこう語る。

 「リミックス・コンテストは普段表に出ることが少ないビート・メイカーたちにとって、自分をアピールするすごく良いチャンス。EDM系のプロデューサーだけじゃなく、ヒップホップ/R&B系のビート・メイカーの方もぜひチャレンジしてみてください。banvoxさんの素材を使いながらも、意外性のあるリミックスを期待しています。皆さんのリミックスを聴くのがすごく楽しみです」

 

DJ WATARAIが掲げるリミックスの極意

─その1─
原曲より絶対に“面白い作品”を作る姿勢で臨め

─その2─
自然に音に表れる“自分らしさ”を生かす

─その3─
ビート・メイカーたるものビートは自作すべき!

 

DJ WATARAIのお薦めリミックス“BEST3”

『Am I Wrong (Daniel Crawford Remix) 』
アンダーソン・パーク feat. スクールボーイ・Q(自主配信)

 原曲も良いですが、さらにジャジーな雰囲気のリミックスも最高。カッティング・ギターが映えるブレイクでは踊れます。最近は、ダニエル・クロフォードから目が離せません!

 

『Betray My Heart (Dino Soccio Edit)』
ディアンジェロ(自主配信)

 フロアライクなアレンジにしたリミックス。DJでこの曲をかけると、必ずどの現場でも誰によるリミックスなのか聞かれるくらい人気です。雰囲気がおしゃれ過ぎます。

 

『More Bounce To The Ounce (Wicked City Remix)』
ザップ&ロジャー(自主配信

 ここ数年で一番くらったリミックス。近年の音楽ジャンルをすべて詰め込んだようなサウンドです。展開や構成も完ぺき。ここまで今っぽくできるテクニックに脱帽です。

 

DJ WATARAI

【Profile】ヒップホップDJ/プロデューサー。MUROをはじめ、Nitro Microphone Underground、MISIA、AI、加藤ミリヤ、SKY-HI、KEN THE 390、OZROSAURUSなど多くのアーティストにトラックを提供する。1990年代から現在まで、常にシーンの最前線で活躍し続けている。

Recent Work

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『SUMMER HYPE -DJ WATARAI Soca Remix-』
BALLISTIK BOYZ from EXILE TRIBE(エイベックス)

 

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