ミックスに重宝するDigital Performer付属プラグインと仕上げで使えるワークフローを紹介!|解説:高藤大樹

ミックスに重宝するDigital Performer付属プラグインと仕上げで使えるワークフローを紹介!|解説:高藤大樹

 こんにちは、高藤大樹です。早いもので私の連載も最終回。最近は、ずっと劇伴アレンジを行っていました。サイズやアレンジ違いのバージョンを作ることが多い作品でしたが、ライブでもおなじみのチャンク機能やそれ以外にも管理方法が多くフレキシブルに進めることができ、あらためてMOTU Digital Performer(以下DP)の便利さを思い知りました。また確認用のファイル書き出しなども必要な作業がパッと行えるので、時間が無いときにも本当に助かります。

低域を補うSubkick。Pattern Gateはギターを際立たせる

 最終回らしく“プロジェクトのまとめ”について、いろいろな観点から触れていきます。アレンジやレコーディングが終わり、その先はエンジニアへパラデータを納品したり、自身でミックスやマスタリングまで行ったりといろいろなケースがあるかと思いますが、私はどのケースにおいても(例えデモであっても)音の作り込みやミックスは、プロジェクトの指針としてかなり重要な作業ととらえています。なぜなら、アレンジの段階から音量バランスだけでなく、プラグインやアウトボードで音を作る、空間系やひずみなどのエフェクトを足していく……など、現代の音楽制作においてはアレンジャーがエンジニアの領域もある程度兼ねるのが一般的になっているためです。アレンジの音の積み重ねや音色選びだけでなく、作品の全体像を見据え、サウンド・メイクの部分まで強く意識している方がとても多い印象です。

 

 音作りやミックスを進める中で“何かが足りない”“アレンジの方向は変えたくないけれどもう一段階ブラッシュアップしたい”と悩む場面も多く出てくるかと思います。DAWでの作業だと、どうしてもアレンジとミックスが完全に分け切れないときも多いので、行ったり来たり悩むポイントがループしたりもしますよね。まずは、そういうときに特に便利なDP付属プラグインを使った技やアイディアをピックアップしていきます。

 

 最初は、Subkick。アタックが足りなかったり、十分な低域を得られなかったりする際には、大抵の場面においてSubkickを挿すことで納得する結果を得られます。曲中のバス・ドラムに合わせて作動し、足りない要素や周波数が足されるイメージです。またAUXトラックにSubkickを立ち上げて送り、積極的に音を加工するのもお勧めです。

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DP付属エンハンサー・プラグインのSubkick。入力したオーディオ信号をトリガーに、サブベース部分の周波数を生成する。バス・ドラムの低域の補助やアタック感の強化にとても効果的で、存在感をアップさせる音を付加することができる

 続いてSpatial Maximizer。こちらはM/S処理に特化しているプラグインです。文字通りミッドとサイドのEQを個別に調節することができ、音像を立体的、効果的にコントロールできます。例えば、パッドの音色のセンターを薄くしてサイドに空間を広げたいとき、またはその逆に、スネアのステレオ感が広がり過ぎるのでとにかくセンターを強く聴かせたいとき。こういった場合には、M/S処理をすることでイメージ通りの音を作っていくことができます。マスタリングでの使用もお勧めなので、ぜひ試してみてください。

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DP付属のM/S処理プラグインSpatial Maximizer。ミッド/サイドを5バンドのダイナミックEQで個別に調節でき、立体的な音作りが可能だ

 最後にPattern Gate。こちらは音色の色付けや変化を付けるのに効果的です。ゲートをステップでパターン化し、攻撃的ではっきりとしたオン/オフを付けたアルペジエイター的な要素や、弱めにしてすき間や揺らぎを作るなど、アイディア次第で音色の幅を広げ個性を出すことができます。

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DP付属プラグインのPattern Gate。1〜16ステップに分割してゲートをかけることができる。エンベロープなど、細かいゲートの調節が可能だ。シンセをギターと重ねる際に、同じセッティングで両方にかけてユニゾンすることで、余韻を抑えたよりタイトでエッジのかかった効果を生み出す

 ここで、私のアイディアを2つ紹介しましょう。1つ目は、アタック・タイムを8分音符ほど遅くしてPattern Gateをかけると、ダンス・ミュージックでよくあるサイド・チェイン・コンプのような効果を簡単に生み出せるというもの。ゲートというよりは発音を遅らせることなので、聴かせたいアタックのすみ分けや音像にメリハリを出せるため、さまざまな用途に使えます。

 

 2つ目は、ギターのバッキングをソリッドにする方法。リリースの気持ち良いところで機械的にゲートを閉じるパターンを作る技です。余韻があるためにどうしてもタイトに聴こえないバッキングもあるのですが、このような処理を行うと単純な刻みに疾走感を与え、ミックスの中でより際立たせることができます。

バウンストゥディスクを使って複数のファイルを一度に書き出す

 続いては、出来上がった音の処理について。私はアレンジの段階からオーディオのアウトを、Rhythm/Synth(コード系)/Voに分けてバス(AUXトラック)を作っています。個々のトラックや音色の部分は細かく分け(エレキベースならラインとアンプなど)、それらを3trのバスにまとめることが多いです。トラックごとに細かいエフェクト処理をした上でバスにまとめておくことで、音量調節による変化がとても分かりやすく、ミックスを的確にコントロールできます。VCAフェーダーなどでまとめるスタイルもありますが、AUXトラックの方がバス自体にエフェクトを挿せたりするので何かと便利です。また、併せてお好みでコンプを挿すことで、バスのまとまりも良くなり音量の調節もしやすくなります。ただし、過度なコンプレッションは最終的なトランジェントを崩してしまうので禁物です!

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筆者は、アレンジの段階からRhythm/Synth/Voの3trのバスを用意(赤枠)。あらかじめ各バスへMasterWorks EQをアサインしておき、FFTで突発的に飛び出す周波数を視覚的にとらえておくと、ピークの処理を飛躍的に素早く行えるようになる

 次に、上記をまとめるマスターフェーダーでの処理です。EQ、コンプ、テープ系の色付け、マキシマイザーなど、理想に向かって整え仕上げていく段になります。基本的にこの段を通ったものが2ミックスとしてリスナーへ届く音になるので、じっくり聴いて調整してください。そして、ここで非常に便利な“ハードウェア・インサート”を紹介しておきます。プラグインと同様にアウトボードを任意の場所へ挟むことができるんです!プラグインのEQ→アウトボードのコンプ→プラグインのマキシマイザーというように組み合わせも自由自在ですし、ルーティングの変更もプラグインと同様に簡単です。ただしAD/DA変換は必要となりますので、音質変化やレイテンシーは加味してください。

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ハードウェア・インサートは、プロジェクト・メニューのエフェクト画面から、オーディオ・インターフェースの入出力チャンネル(画面ではAnalog 3-4)を指定することで、手持ちのアウトボードを通すことができる。マスターフェーダーだけでなく任意のトラックにも設定可能。また、その際に発生するレイテンシーの測定も行う

 すべてが出来上がった最終段階で行うのが、バウンストゥディスク。DPでは、一度にさまざまなファイルの書き出しが可能です。指定したフェーダーやチャンネル、各トラックが一度にバウンスできるので非常に助かる機能となっています。

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バウンストゥディスク画面。トラックやアウトプットを指定すると、複数ファイルの書き出しを一度に行うことができる。例えば、マスター(ミックス)、各トラック(パラ)、バス(ステム)を同時に作成する、など便利でミスが少なくファイルを書き出せる

 4回にわたりDPの便利機能や自分なりの使い方をお送りしました。一つでも皆さんに有益な情報がお届けできていましたら幸いです。私自身も常にアンテナを張り続けていたいので、SNSやオフィシャルWebサイトからも感想や音楽制作のことなど、お気軽にメッセージいただけますととてもうれしいです。これからもさらに進化していくであろうDPとともに音楽活動を精一杯続けていきたいと思います。ありがとうございました!

 

高藤大樹

【Profile】プロデューサー/作編曲家/キーボード・プレイヤー。“イマ”の時代を意識したジャンルにとらわれない音楽を作り、他セクションとも柔軟に連携してさまざまなアーティストやクライアントとともにリスナーの琴線に触れる音を追求している。また、プレイング・マネージャーとしてクリエイター・マネジメントを行うSound Bahnの代表も務めている。

【Recent Work】

『GLEAT Original Sound Track』
(glorious music)

 

MOTU Digital Performer

オープン・プライス

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LINE UP
Digital Performer 11(通常版):60,500円前後
*オープン・プライス(記載は市場予想価格)

REQUIREMENTS
▪Mac:macOS X 10.13以降
▪Windows:Windows 10(16ビット)
▪共通:INTEL Core I3または同等のマルチプロセッサー(AMD、Apple Siliconを含むマルチコア・プロセッサーを推奨)、1,024×768のディスプレイ解像度(1,280×1,024以上を推奨)、4GB以上のRAM(8GB以上を推奨)

製品情報