柳田将秀が使うDigital Performer 10 〜第4回:MV制作やライブで役立つ映像ファイルをDPで扱うテクニック

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 この連載を担当してから、マニピュレーターの仕込み、リハーサルや本番でのDigital Performer(以下DP)の使用について執筆してきました。担当最後となる今回は、DPでの映像制作にかかわる内容を紹介。昨今では個人でもMV制作を行ってYouTubeなどへアップしたり、コンサートやライブにおいてもCGや映像とリンクした演出が増えています。意外と知られていないDPの映像にまつわる機能についてお話ししましょう。

映像と音声のズレを防ぐため
フレーム・レートの設定が重要

 DPに映像ファイルを取り込む方法は非常に簡単。画面上部メニューの“プロジェクト”→“ムービー”から取り込みたい映像ファイルを選択するだけです。ライブのオープニングや幕間で流れる映像に効果音やBGMを挿入することがよくありますが、前もってもらった資料映像を一度DPへ取り込み、編集をしたり、動画の尺に合わせた音源を新たに作成することができます。また、映像から音声だけを抽出することもできるので、そこへエフェクトをかけることも可能。音声の最後の部分にだけディレイをかけるような演出もできます。

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DPでは動画ファイルを扱うことが可能。QuickTimeやAVIファイルのほか、MP4、3G2、3GPといった形式をサポートする。動画のオーディオ・データだけをシーケンス上に読み込むことができ、エフェクトを使った編集も行える

 また、昨今ではYouTubeなどで“歌ってみた”“弾いてみた”の動画を制作される方も多いです。APPLE iPhoneなどで撮影した映像もこのようにDPへ取り込み、音声を抽出してEQやコンプなどのエフェクトをかけ、あらためて動画を書き出すことでクオリティを高めることも可能です。特にDP10に搭載されているZYNAPTIQのZTX Proによるタイム・ストレッチングとピッチ・シフト・テクノロジーはとても優秀なので、歌ってみた動画を撮影した後、DPで取り込んで歌のピッチ補正をするなんて方法にも活用できますね。

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ピッチ編集時の画面。ZYNAPTIQのテクノロジー=ZTX Proにより、自然なサウンドを保ったままピッチ調整が可能だ

 前回でも説明したタイム・コードは、映像と連動したライブを行う際などに設定が重要になってきます。マニピュレーター側のやることはコンピューターをすべて同期モードにするだけとシンプルですが、大事なのがその仕組みをきちんと理解しておくこと。あらためてタイム・コードについての説明をすると、DPのプラグイン=SMPTE-Zでも生成することができる音声信号です。この信号は現在が何分何秒かを表すものとなり、映像とDPを同期させる際もこの信号を使用します。そしてタイム・コードを受け取る際に重要になってくるのがフレーム・レートとチャンクのスタート・タイムの設定です。

 

 フレーム・レートとは1秒間の映像を何コマで分割させるかという数値です(単位はfps)。映像データはパラパラ漫画のように一枚一枚の絵が連続して再生されるもので、このような単位が用いられます。フレーム・レートにもさまざまな規格がありますが、例えば30fpsという設定値であれば、1秒間を30フレーム(コマ)で分割させる設定になります。DPでもフレーム・レートの設定を行うことが可能です。映像データと同じフレーム・レートに設定しておくことで、受信するタイム・コードでズレが起きないように同期することができます。

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コンソリデイトウインドウ上にあるフレーム・レートの設定項目。映像と同期する際はフレーム・レートを同じ設定にしておく必要がある

フレーム単位でサウンドバイトを移動
映像を扱う現場で重宝する機能

 続いてチャンクスタートのタイムについてです。これは音声と映像の頭の位置を合わせる設定になります。実はDAWや映像編集ソフトによってタイム・コードのスタート位置が違います。DPでは初期値が0:00:00:00となっていますが、他社ソフトでは1:00:00:00となっていたりするのです。1時間もズレていては同期はできませんので、これをカウンターウインドウのチャンクスタート設定で合わせます。映像をDPへ取り込んで編集をする際、取り込み後に再生をしても映像も音声も何も再生されない現象がたまに起きますが、それは取り込んだ映像のスタート・タイムが1:00:00:00になっており、チャンクスタートのタイムが0:00:00:00になっていることが原因のことも。一見何もデータが無いようにも見えますが、DP側でチャンクスタートの設定を行い、映像データとシーケンスの頭位置の整合性を確認しましょう。

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カウンターウインドウのチャンクスタートの設定画面では、フレームタイムの頭位置を調整できる。DPでは初期値が0:00:00:00なっているが、他社DAWや動画編集ソフトでは違う場合もあるので注意が必要だ

 2台のコンピューターでシーケンスを走らせる際は、サブ機も同様の設定を忘れずに行います。外部機器に同期ボタンを有効にし、前回紹介した内容と同様にMOTUのオーディオ・インターフェスでLTC(Longitudinal Time Code)の設定をすれば、あとは再生待機状態で映像側からタイム・コードの信号が来るのを待つだけです。

 

 現場においてはここから微調整を行うこともあります。最近ではCGのキャラクターがステージ上で歌を歌う演出のライブなども行われていたりしますので、その際にキャラクターの動きとシーケンスから再生される音声のタイミングを正確に合わせるため、フレーム単位でサウンドバイトを前後させて調整を行います。あらかじめスナップ情報ウインドウを開いておき、ナッジの項目の単位をフレームにして0:00:00:01単位で動かせるように設定しておけば、選択したサウンドバイトの位置を←→の矢印キーだけで細かく調整できるのでとても便利です。このように、映像を活用したライブに対してもフレキシブルに操作ができるのがDPの魅力。コロナ渦で配信ライブが増える中、こういった機能はとても重宝されます。

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スナップ情報ウインドウでは、シーケンス上の選択されたサウンドバイトを矢印キーで移動させる際のナッジ単位を変更可能。初期設定ではグリッド単位で移動する

 楽曲制作からレコーディング、ミックス、マニピュレートなど、DAWを駆使する作業は世の中に数々あります。現在ではどのDAWでも似たようなことができてしまいますが、そんな中で私がDPを活用してマニピュレートを行う理由は、チャンク機能をはじめとするその“機動性の高さ”。ショートカット・キーのカスタマイズやMIDIコントローラーの割り当て機能、今回紹介したタイム・コードやナッジの数値設定など、編集作業の根幹にかかわる設定をダイレクトに改修できるため、スピードを求められる作業にはもってこいのDAWです。

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作業のスピードを上げるためにはショートカット・キーの使用は必須だ。画面奥のコマンドウインドウではDPの各メニューやショートカット・キーを確認できる。手前のコマンド実行ウインドウは、文字を入力することで素早くDPのメニューを検索&実行できる機能

 使いこなすためのハードルが他社のDAWに比べてやや高く感じる部分も多いですが、それ故にプロフェッショナル向けであり、仕事につながるソフトウェアだと考えております。また歴史の長いソフトのため、コンピューター・ミュージックを行うための基本をきちんと身に付けることもできます。DPをマスターすればほかのDAWを覚えることもさほど難しくないでしょう。複数のソフトを使い分けすることも現代では珍しくありません。DPが一人でも多くの方に活用されることを願っています。最後までご高覧いただきありがとうございました!

 

柳田将秀

【Profile】BanG Dream!(Argonavis、GYROAXIA)、GARNiDELiAなどのアーティストのライブ・マニピュレーターとして活動中の音楽家。作編曲活動や音楽機材専門店での販売経験を元に機材レクチャーも行う。学生時代に個人で演奏を楽しむ方法がないか模索し、ラップトップで打ち込みを試み、スタジオで再生してギターを演奏していたことが音楽活動の原点。さまざまな機材知識を応用したシステム作りを得意とする。

track-village.com

【Recent Work】

※収録曲「濡烏(CV:松井恵理子)」の作曲を担当

 

製品情報

h-resolution.com

MOTU Digital Performer

オープン・プライス

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