柳田将秀が使うDigital Performer 10 〜第2回:リハーサルにおける仕込みを迅速に! DPでのI/O設定とサウンドバイト編集

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 第1回ではデータの仕込みについてを主に書きました。マニピュレーターという仕事内容を“再生ボタンを押すだけのお仕事ですよ”と自虐的に自己紹介したりもしますが、もちろんそんなことはありません(笑)。リハーサルにおけるデータのエディット・スピードと質が問われる“再生ボタンを押すまでの道のりが長いお仕事”だと私は師匠から教わりました。さて、今回はリハーサル時に便利なDigital Performer(以下DP)の使い方を幾つか紹介します。

V-RackのAUXトラックを使って
メインとモニター回線を切り替える

 リハーサルを行っているときに“やっぱりBメロの後半からギターはカットで”“間奏の尺は倍にしてください”など、さまざまなデータのエディット要請があります。もちろんその場で該当する部分を再生して音を聴きながらエディットをするわけですが、リハーサル現場ではほかの作業をしている方や打ち合わせなどを邪魔しないためにも、そのまま大きな音を出すわけにいけません。基本的には、PAエンジニアに表のスピーカーやバンド・メンバーのイア・モニターへ音が出ないようにしてもらうか、RADIAL SW8 MK2などのスイッチャーでA/B切り替えをして信号系統を変えることでカットすることが多いです。しかし、PAエンジニアが居ない現場だったり、小規模な機材セットのためスイッチャーが用意できなかったりと、それら以外の方法で対応しなくてはいけないときもあります。

 

 そんなときに前回紹介したV-RackとAUXトラックの機能を使用することで、DPの中だけでPAへの出力回線をオフにし、自身のモニターにだけ返す方法があります。やり方は至ってシンプルです。各回線を出力するために作成したV-RackのAUXトラックをまず複製します。そして、複製して新たに作ったすべてのAUXトラックの出力をオーディオI/Oのモニターの回線にアサイン。

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前回作成したV-RackのAUXトラックを複製し、その出力をオーディオI/Oのヘッドフォン・アウトなど、自身のモニター用のアウトに設定(赤枠)。メインの回線用と自分のモニター用の2種類のV-Rackができることになる

 オーディオI/Oのヘッドフォン・アウトでモニターしている方は、そこに直接アサインするのがよいですね。そうしたら、元のV-Rackの有効ボタン(プレイと表記されています)をオフにします。

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チャンクウインドウでメイン回線用V-Rackの“プレイ”という部分をオフにすれば、メイン回線には音が出ず、自身のモニター回線にのみ音を送ることができる

 これを行うことで、DPのプロジェクト・データ内だけで出力回線のオン/オフが可能になるのです。バンド・メンバー内の誰かが同期出しの担当をする場合も、信号切り替えのために新たな機材を購入しなくていいわけです。DPの優れたポイントの一つですね。

 

サウンドバイトごとにエフェクトを適用
CPU負荷を軽減しておく

 シーケンス上のオーディオは、他社のDAWではクリップやリージョンと呼ばれますが、DPではサウンドバイトと呼称します。基本的にはこのサウンドバイトを切り張りすることが主なエディット作業です。例えば、ステム・データは曲の頭から最後まで1本のデータとなっているため、イントロだけ音量を上げたい、エフェクトをかけたいというときはそこだけを1つのサウンドバイトとして切り出し、目的に合った編集を行います。

 

 DPでは、1つのサウンドバイトに直接プラグインを適用することができます。もちろんミキサー画面でのプラグイン・インサートも可能ですが、プラグインの効果を適用させた状態でサウンドバイトを新たに書き出すことにより、プラグインを常時待機させる方法よりもCPU負荷を下げることができるのです。バウンスするよりも作業のスピードが速いので、リハのすき間時間でこの方法を行ったりすることも多いです。

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DPでは、サウンドバイトごとにプラグイン・エフェクト効果を加えて書き出すことが可能。サウンドバイトを選択後、メニューの“オーディオ”→“プラグインを適用…”からプラグインを選べる

 ステレオになっているギターのステム・データをL/Rで別々にモノラルで書き出すこともよくあります。そんなときはDPのウェーブフォームエディターを使用。エディットしたいサウンドバイトをウェーブフォームエディターで開き、書き出したい定位側の波形をクリックして選択します。選択したらウェーブフォームエディター右上のメニューから“選択域で新規オーディオファイルを作成”をクリックすると、サウンドバイトリストの中に新規のオーディオ・ファイルが書き出されるので、それをシーケンス内にドラッグ&ドロップするだけです。

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ステレオのトラックをL/Rで分けてモノラル・トラックにすることも多い。その場合はウェーブフォームエディターを使い、片側チャンネルの波形を選択後、メニューから“選択域で新規オーディオファイルを作成”でモノラルのサウンドバイトを生成できる

 ギターやシンセ系のデータなどは、片側チャンネルだけカットしたり、音量を上げるという依頼が多かったりするので、これらの動作をリハ中に迅速に行うことは大切。音色的にエディットの可能性がありそうか仕込みの段階で判断しておくのも大事なことなので、あらかじめL/Rでモノラル・データとして書き出しておくのもありですね。

 

 昨今ではマニピュレーターからMIDIデータを出力することも減りつつありますが、ギターのマルチエフェクターのプログラム・チェンジを行ったりなど、使用する機会はあります。そういう場合に便利な機能があるので紹介しましょう。その名もMIDIデバイスグループです。基本的に1つのMIDIトラックから出力できるMIDI信号は1系統だけですが、MIDIデバイスグループ機能を使うことで、1つのMIDIトラックから複数の機器に同じMIDI信号を送ることが可能となります。私の場合はこの機能の副次的な効果を主な目的として使うことが多いです。それはMIDI IN/OUTの接続が外れてもMIDIトラックのI/Oアサインが消えないこと。私はマニピュレートのときにAPPLE MacBook Proを使用しているのですが、自宅などで基本的な仕込みや作業を行う際はオーディオI/Oなどの外部機器は接続しないことが多いです。MIDIトラックの出力のアサインを直接MIDI I/Oにしていた場合、その機材が変更された際はアウトプット設定が無効になってしまいます。それを回避するためにMIDIデバイスグループ機能を使用します。

 

 まずはMIDIトラックを作成して出力に新規デバイスグループを選択します。

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MIDIトラックのアウトプットをMIDIデバイスグループに設定する(赤枠)。アウトプット先の選択肢から“新規デバイスグループ”を選択すると、新しいグループが作成され、そのグループがアサインされる

 それから画面上部のメニューから“スタジオ”→“MIDIデバイスグループ”でウィンドウを表示。新規デバイスグループが作成されているので、MIDI I/Oを接続しているときはそのままデバイスグループの▶ボタンをクリックして出力したいチャンネルを選択します。

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MIDIデバイスグループのウィンドウは、画面上部メニューの“スタジオ”→“MIDIデバイスグループ”で開く。作成したMIDIデバイスグループの出力先は、そのウィンドウで設定を行う

 MIDIデバイスグループを経由してMIDI IN/OUTへとアサインすることで、MIDI IN/OUTが変更されたときもMIDIトラックのアウトプットのアサインはMIDIデバイスグループになったまま。MIDIデバイスグループの設定で新たなMIDI IN/OUTのチャンネルを指定するだけでアウトプットの変更が可能になります。余談ですが、昨今ではiOSアプリでエフェクトを使用する方も居るので、Bluetooth MIDIを有効にしてこのデバイスグループ内でアサインしてプログラム・チェンジの信号を無線で送信するという方法も面白いかもしれませんね。

 

柳田将秀

【Profile】BanG Dream!(Argonavis、GYROAXIA)、GARNiDELiAなどのアーティストのライブ・マニピュレーターとして活動中の音楽家。作編曲活動や音楽機材専門店での販売経験を元に機材レクチャーも行う。学生時代に個人で演奏を楽しむ方法がないか模索し、ラップトップで打ち込みを試み、スタジオで再生してギターを演奏していたことが音楽活動の原点。さまざまな機材知識を応用したシステム作りを得意とする。

track-village.com

【Recent Work】

※収録曲「濡烏(CV:松井恵理子)」の作曲を担当

 

製品情報

h-resolution.com

MOTU Digital Performer

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