作編曲家のカワイヒデヒロです。最近深夜にYouTubeを見ていると料理系動画がどんどん流れてくるので、空腹をめちゃくちゃ刺激され、誘惑されています。そして食べてしまうという……。さて、今回もDigital Performer 10(以下DP10)を使った音楽制作について、僕なりの使い方を紹介していきます。過去の記事もご参照の上お読みください。
ビート検出&テンポ解析を行う
Beat Detection 2.0
前回で予告した通り、まずはストレッチ・オーディオ機能を紹介します。DP10に搭載されているZYNAPTIQ ZTX Proのストレッチ・オーディオ機能は、オーディオ・データを伸縮することでシーケンスのテンポにシンクさせることができます。途中でテンポ・チェンジがあっても、オーディオ・トラック全体がテンポとタイムラインにものすごい速さでシンクするのです。
DP10には、BIG FISH AUDIOやLUCIDSAMPLES、LOOPMASTERSのサンプル&ループ集が6GB分も付いてきます(お得!)。それらを使ってストレッチ・オーディオを試してみましょう。テンポの違うベース・ループとドラム・ループ素材をドラッグ&ドロップでDPへ読み込ませます。コンダクタートラックでは、テンポ・チェンジを130BPMから160BPMまで徐々に上がるように設定。そしてトラックコラムの“STC”という項目にチェックを入れましょう。そうすると、オーディオがテンポ・チェンジに追従し、奇麗にグリッドに沿った状態で表示されるのが確認できると思います。
本当に瞬時に反応してくれて、しかも音の劣化も感じられないのは驚きです。これまでオーディオ素材のテンポ感になんとなくMIDIを合わせてトラック・メイクしていたという方にとっては超朗報なのではないでしょうか。もう素材のテンポに引っ張られずに、自由にトラック・メイクができますね。
ストレッチ・オーディオでは、ビート感の少ない声ネタや管楽器のソロ・フレーズなどもテンポに追従してくれるので、オーディオ素材を使った曲作りの可能性がDP10で広がったと思います。1曲の中でテンポ・チェンジをしたいときでもオーディオ素材を気兼ねなく使えるので、この機能だけのためにDP10を導入しても良いかもしれません。
また、これはあまり大きな声で言いたくないのですが……劇伴を作るときも、生音を録った後のファイルを0.1〜5BPMくらい調整するのは問題なくできると思います。滅多に無いですが、絵合わせで曲を作った後に尺調整があったりしたときも対応できてしまうでしょう。
オーディオ・ファイルを取り扱う上で重要なもう一つの機能がBeat Detection 2.0。これは、オーディオのビートを高精度で検出してくれる機能です。WAVやAIFFなどのオーディオ・ファイルをドラッグ&ドロップでシーケンス上に読み込ませると、自動的にビート検出を行ってテンポを解析してくれます。テンポが分からず、タップ・テンポでなんとなく合わせるなど人力でやってきた人もいるかもしれません。DP10ではBeat Detection 2.0によって、そのようなテンポ合わせの作業が不要になっているのです。生音のテンポの揺れもしっかりと検出してくれます。
ちなみに、AcidファイルやApple Loopsなどの既にテンポ情報が入っているデータの場合は、その入っているテンポ情報が優先される仕様のようで、こんがらがることはありません。これもありがたいポイントです! このように、ストレッチ・オーディオ機能とBeat Detection 2.0を駆使するだけでも音楽制作の幅がだいぶ広がると思いますよ!
トラックのインサート設定で
エフェクトの組み合わせを保存
DP10には、数百に及ぶ音源とループを収録するMOTU Instruments Soundbankが付属しており、DP10をインストールした瞬間に音楽制作が始められます。MOTU Instruments Soundbankの音源は、UVI Workstationベースの約4.5GBの音源ライブラリーで、MOTUのマルチサンプラーであるMachFive 3のサウンドバンクから代表的な音色を抜粋した構成となっています。鍵盤系やギター、ベース、ドラム、パーカッションなどのリズム楽器のほか、ストリングス、ブラス、ウッド・ウィンドなどのオーケストラ系、エスニック系やコーラスなども満べんなく押さえているので、ソフト音源をどれにしようか迷っている方は、まずMOTU Instruments Soundbankから音色を探して使ってみるのはいかがでしょうか。
劇伴制作での曲の作り方は人それぞれですが、“良い雰囲気のときにかかる優しい感動系の曲”というとき、僕の場合はまずピアノで曲の骨格となるメロディとコードを打ち込みます。そこにストリングスを入れて、曲の全体の厚さや壮大さを肉付けしていくのです。ストリングスは、まずなんとなく全体を打ち込んでいくため、MOTU Instruments Soundbankに収録されたStrings Ensembleなど、ストリングス全体の音域をカバーした音色をチョイスすることが多いですね。
最後に、オーディオトラックのインサートについて触れておきます。ミキサーウインドウの上部にエフェクトをインサートできる枠があるのですが、ここに挿したエフェクトの組み合わせや細かい設定などは、そのままプリセットとして保存できます。ミキサーの上部にある▼マークをクリックすると、“インサート設定を保存”という項目が出てくるので、そこをクリックし、自分で分かりやすい名前で保存しましょう。この機能を使うと、同じような設定でエフェクトをかけたいときなどに、すぐに呼び出せるので重宝します。
僕は自宅でベースを録音するとき用など、さまざまなプリセットを設定していて、呼び出してから細かい調整を行っています。特に多いのは、名フレットレス・ベース・プレイヤーの“あの音色”を使いたいときに、薄くコーラスやリバーブをかけたりすること。DP付属のAnalog ChorusやProverb、Diamond Driveを使ってインサート設定を組んでいます。結構近い音色が出ている気がしているのですが、いかがでしょうか? 楽器の個体差があるので、参考までに。
今回の記事で僕の担当は最後になります。DP10の魅力は感じてもらえたでしょうか? 世の中にはさまざまなDAWが存在していますが、これをきっかけにDPユーザーになってもらえたら幸いです。それではまたどこかでお会いしましょう。ありがとうございました!
カワイヒデヒロ
【Profile】高校3年生の冬に突然音楽に興味を持ち、作曲家兼プレイヤーを目指すように。独学で作曲をはじめ、大学卒業後より作編曲家/ベーシストとしてキャリアをスタートする。fox capture planのベーシストとしても活動中。これまでに『コンフィデンスマンJP』や『青春ブタ野郎はバニーガール先輩の夢を見ない』『イングレス』『あした世界が終わるとしても』『節約ロック』『恋と就活のダンパ』など、多くのテレビ番組や映画の楽曲を担当している
【Recent Work】
製品情報
MOTU Digital Performer
オープン・プライス
関連記事