柳田将秀が使うDigital Performer 10 〜第1回:スムーズなマニピュレートを実現するチャンク機能を使ったシーケンス作成

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 今回からこの連載を担当することになりました、マニピュレーターの柳田将秀です。2015年より都内の音楽機材専門店にて勤務を始め、さまざまなDAWソフトや機材に触れ、そのノウハウを生かし2019年よりTrack Village所属のマニピュレーターとして活動を開始。現在ではBanG Dream!(Argonavis/GYROAXIA)、GARNiDELiAなど、さまざまなアーティストのマニピュレーターとしてDigital Performer(以下DP)を駆使しています。楽器店勤務の際に幾つものDAWに触れた結果、やはりマニピュレートにおいてはDPを選択するのが良いと感じました。その理由を私なりに解説していければと思います。

オーディオI/Oの変更に対応するため
V-RackでAUXトラックを活用

 そもそもマニピュレーターについて簡単に紹介しますと、ライブ時にステージ上に居ない奏者の音をコンピューターから出力する、いわゆる同期演奏のために存在する職業です。DPでは、曲ごとにシーケンスを管理できる機能のチャンクや、どのチャンクを開いている際にもアクセスできるV-Rackという機能を使うことで、リハーサル時もスムーズに進行できるのが魅力ですね。

 

 マニピュレートのセッションを作る際、私はこのV-Rackの設定から行います。例えば、出力の回線が9ch必要な現場があったとしましょう。リズム系をch1とch2、ギター系をch3とch4、ウワモノ系をch5とch6、コーラスをch7とch8、クリックをch9とそれぞれのアウトプットにアサインして、オーディオI/Oから出力していきます。このとき、各トラックのアウトプットを直接アサインしてもよいのですが、私の場合はチームとしてマニピュレーターの活動をしていることもあり、引き継いだデータで行う際にオーディオI/Oが変わるため、各曲のトラックから直接アウトプットにアサインされている場合は、全曲のトラックを最初からアサインし直さなくてはなりません。仮に50曲やるライブだとそこそこ面倒な作業になってしまいます。そこで役に立つのがV-Rackの機能です。

 

 まずはバスの設定画面を開き、リズムからクリックまでch1~9のAUX用バスを用意します。そしてV-Rackを作成し、そのV-Rackの中に必要な分のAUXトラックを作成。それぞれのインプットに先ほど作成したバスをアサインしていきます。アウトプットにはオーディオI/Oの出力チャンネルをそれぞれ割り当てて完成です。

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DPの画面上部メニューにある“スタジオ”→“バンドル”からバスの設定が行える。リズムからクリックまで、ステレオとモノラルでch1~9のAUX用バスを作成

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V-Rack画面を開いた状態で、画面上部メニューの“プロジェクト”→“トラックを追加”→“Auxトラック”からAUXトラックを作成できる。インプットを作成したバス、アウトプットはオーディオI/Oのアウトをアサイン

 このように、各曲のトラックのアウトがこのV-Rack内に存在するAUXトラックを一度介する設定にしておくことによって、オーディオI/Oが変わった際に全楽曲のトラックのアサインを見直す必要が無く、V-Rack内のAUXトラックの出力先を設定し直すだけで解決します。演奏中、瞬発的にまとめてボリュームを調整したい際にはV-Rack内でフェーダーを上げ下げするだけでよいので、そういった意味でも利便性が高いですね。このようにデータの管理がとても行いやすく、またハードウェアの変更の際もすぐに対処できるのがDPの魅力の一つと言えます。

 

 次にシーケンス作成についてです。基本的にはいただいたステム・データの張り付けなどを行うのですが、その前に基本形となる下地のシーケンスを作成しておきます。どの曲でもクリックとカウントは共通トラックとして存在するので、クリックはひとまず200小節まで張り付けておいて、カウントは曲頭にダブル・カウントで用意。こうしておくことで、曲が追加されるたびにこの基本形のシーケンス・チャンクを複製すればよいので、作業が簡略化されます。マニピュレーターの作業というのはどうしても機械的なことが多いです。ショートカットを駆使したり、このようにテンプレートを作成することで業務の効率化につながり、スムーズなリハーサルが可能になります。

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クリックとカウントのオーディオ・ファイルを用意して張り付けた。クリックは200小節あたりまでリピート張り付け(Macは⌘+R)している。新たなシーケンス作成の場合はこのテンプレートを複製して作業するとスムーズだ

V-Rackで音源を使い
チャンク切り替え時のトラブルを回避

 さて、テンプレートのチャンクが出来上がったら、今度はそれを複製して実際にシーケンスを作成していきます。ステム・データをドラッグ&ドロップし、ステムの頭をそろえたところで、各トラックの出力チャンネルを前述したV-RackのAUXトラックにアサインしていきます。また、トラックをそれぞれ色分けすることで見やすくしておくこともポイントですね。次に、トラックウインドウの一番上に位置しているコンダクタートラックの1小節目を右クリックし、楽曲のテンポ・データを入力します。そのまま再生して、検聴を行いながらセクションごとにマーカーを付けていくのが、私の普段の仕込みの流れです。

 

 おおまかな仕込みが終わったら、今度は実際に同期演奏で使えるように仕上げていきます。まずは演奏時に使用するデータの選定です。現状ではドラム、ベース、ギターなど全楽器の音がシーケンスで用意されている状態ですが、これらをすべて再生させるわけではありません。バンド編成での演奏の場合は、もちろんドラム系のデータはすべてミュートし、ギターに関しては弾き分けを作成していき、シーケンスから再生するデータを選定します。演奏で使用しないデータは削除せず、シーケンス内でフォルダ管理をしておくとよいでしょう。バンド・メンバーが不在のときでも、こちらから出力できるように待機させておけるので便利です。

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テンプレートにステム・データを張り付け、再生場所の選定などを行った。“1つのステム・データの特定の場所は再生して、それ以外はミュートする”といった場合は、シザーツールやミュートツールを使って編集をしておく。この画面では、ギター・ソロのときはバッキングのシーケンスを出すなどの編集を加えた。また、トラックを複製してミュート場所を逆にしたトラックを用意しておくと、メンバー不在時にシーケンスから音を出すということも可能なのでお勧めだ

 歌から始まる楽曲の場合、よくガイド・コードの作成を依頼されることがあります。そんなときのために、あらかじめV-Rackにインストルメントトラックをモノラルで1つ用意しておき、ピアノ音源などを立ち上げておきましょう。アウトプットのアサインをクリックのトラックにすれば、シーケンスのチャンクでMIDIトラックを作成するだけで、すぐにガイド・コードを打ち込むことが可能です。MIDIキーボードが無かったとしても、コンピューターのキーボードをMIDIキーボードとして活用することもできます(Macは⌘+shift+K)。この方法であれば、コードではなく単音でくださいと言われた際もすぐに対応が可能です。打ち込みが終わったら、バウンスしてシーケンスにオーディオ・ファイルとして追加し、V-Rackの音源はオフにしておくことでCPU消費を抑えることもできるので、本番時にコンピューターへ余計な負荷をかけることもありません。このように常時起動しているV-Rackの使用方法は多岐にわたり、基本的に音源プラグインなどはV-Rack側に仕込んでおくことで、チャンク切り替え時など、読み込み時のCPU負荷で起こり得るフリーズなどを防ぐ役目も併せ持ちます。

 

柳田将秀

【Profile】BanG Dream!(Argonavis、GYROAXIA)、GARNiDELiAなどのアーティストのライブ・マニピュレーターとして活動中の音楽家。作編曲活動や音楽機材専門店での販売経験を元に機材レクチャーも行う。学生時代に個人で演奏を楽しむ方法がないか模索し、ラップトップで打ち込みを試み、スタジオで再生してギターを演奏していたことが音楽活動の原点。さまざまな機材知識を応用したシステム作りを得意とする。

track-village.com

【Recent Work】

※収録曲「濡烏(CV:松井恵理子)」の作曲を担当

 

製品情報

h-resolution.com

MOTU Digital Performer

オープン・プライス

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