柳田将秀が使うDigital Performer 10 〜第3回:ライブで欠かせない冗長性 メイン&サブマシンを同期する方法

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 早いもので私の担当も3回目となりました。これまでシーケンス・データの仕込みやリハーサル時のテクニックを話しましたが、今回はライブ本番時のDPの運用についてです。とはいえ、実はマニピュレーターの仕事はリハーサルまでの内容がほとんどで、本番時はそれまでに構築したデータをトラブル無く再生させることが使命となります。そこで役立つDP10ならではの機能や、同じMOTUのオーディオ・インターフェースを使用したメイン・マシンとサブマシンの同期について解説しましょう。

タイム・コードをDP上で生成する
SMPTE-Zプラグイン

 トラブル無くライブを行うために、多くのマニピュレーターはコンピューターを2台用意し、万が一の場合に備えてメイン・マシンとサブマシンを同時に再生しておきます。即座にスイッチングで切り替えても問題無く音が流れるようにするためには、同じタイミングでシーケンスが再生されていなくてはなりません。メイン・マシンとサブマシンで同期再生させるためには、MIDIコントローラーを2台のコンピューターに接続する方法や、メイン・マシンからのMIDIノートをトリガーとしてサブマシンを再生させる方法など、いろいろとあります。

 

 私が普段行っているのは、DPに付属しているプラグインのSMPTE-ZとMOTUのオーディオ・インターフェースのJam Sync機能を使った方法です。

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DPに付属しているプラグイン・エフェクト、SMPTE-Z。LTC(Longitudinal Time Code)を出力する。DPのトランスポートと連動して出力するほか、トランスポートとは独立して出力を続けるモードなどが選択可能。タイム・コードの出力レベルやフレーム・レート設定も行える

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マニピュレート時に使用しているオーディオ・インターフェース、MOTU UltraLite-MK4。メイン・マシンとサブマシン用に2台用意している。搭載されているJam Sync機能を使って、メイン・マシンとサブマシンのDPを同期する

 まずはSMPTE-Zが何をしてくれるものなのかを話しましょう。私がマニピュレーターを始めたとき、このプラグインの使い方が分からずとても苦労しました。SMPTE-Zは、トラックに立ち上げてシーケンスを再生させると急に謎の音が鳴り出します。これはLTC(Longitudinal Time Code)と呼ばれる信号で、映像などでよく使われる規格です。この音声信号は、再生しているシーケンスの現在位置を知らせるもので、この信号をメイン・マシンに接続しているオーディオ・インターフェースの任意のアウトプットから出力させ、それをサブマシンに接続しているMOTUのオーディオ・インターフェースのLTCインプットに設定した入力へ接続し、Jam Syncの設定を行うことでサブマシンのDPで同期再生が可能となります。という説明になりますが、マニピュレーターを始めたころの私は何が何やら分かりませんでした……。もう少し掘り下げて解説します。

 

UltraLite-MK4のJam Syncで
サブマシンの自走を実現

 DAWのシーケンス上の時間情報はMTC(MIDI Time Code)と呼ばれるもので管理&同期させることが可能です。難しい説明を省きますと、要はMIDIデータということです。Jam Sync機能はSMPTE-ZからのLTCをMTCに変換し、かつLTCの信号が万が一途切れても自走してMTCを生成し続けます。つまり、メイン・マシンが途中でフリーズするなどのトラブルがあっても、サブマシンの方は問題無くシーケンスを再生し続けることが可能なのです。

 

 私はMOTU UltraLite-MK4を2台使い、このJam Syncを活用しています。ただし、このJam Syncが使えるMOTUのオーディオ・インターフェースはこの連載執筆時点で最新OSに対応していないため、使用の際は注意が必要です。国内代理店ハイ・リゾリューションのサポート情報やMOTU本国サイトの情報を適宜チェックしておきましょう。

 

 私の具体的なセッティングですが、まず今までの仕込みにて作成したAUXトラックが格納されているV-Rack内に、SMPTE-Z用のAUXトラックを新たに作成します。V-Rack内に作成しておくことで、次曲へチャンク切り替えを行ってもLTC信号が途切れることがないからです。次にSMPTE-ZをAUXトラックで起動する際にダミーのインプットが必要となるので、モノラルのバスを1つ作成します。作成したAUXトラックのインプットにダミーのバスをアサインし、アウトプットは任意のチャンネルを設定。理由は後述しますが、私の場合はUltraLite-MK4のS/P DIF端子からデジタル信号のまま出力します。そしてSMPTE-ZをAUXトラックへインサートしたら、設定をフリーホイールにしておきましょう。こうしておくことでタイム・コードの出力がDAWのトランスポートから独立し、何かの拍子に誤ってメイン・マシンのスペース・キーを触ってしまって曲が停止した‥…という際は、瞬時にスイッチャーでサブマシンへ切り替えればライブを止めずに済みます。そもそもそんなことあってはいけませんが、念を入れての行動です。

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UltraLite-MK4のリア・パネル。LTCは音声信号なのでアナログ・アウトからも出力できるが、筆者の場合はS/P DIFアウト(コアキシャル)を使っている

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メイン・マシン側のDPには、SMPTE-ZをインサートするAUXトラック、SMPTE-Zを使うためのダミー用モノ・トラックを用意する。SMPTE-Zはフリーホイール設定にしておく

 続いてサブマシン側の設定です。私のサブマシンは2011年モデルのMacBook Pro(13インチ)で、メモリは16GB、OSはOS X 10.9(Mavericks)、DAWはDP8を使用しています。古いマシンですが問題無く駆動するのです。UltraLite-MK4を接続するためにMOTUのAVBドライバーをインストールしています。同期の設定では、まずMOTUのソフトウェアであるMOTU Discoveryからオーディオ・インターフェースの設定画面を開きましょう。Deviceページ上部のClock ModeでLTCを選択し、右下のLTC SetupではLTC Input Sourceでタイム・コードの入力で使用するインプット・チャンネルを選択します。今回はS/P DIFで信号を受信しているのでS/PDIF 1に設定してあります。また、ここでJam Syncがオンになっていることも確認しましょう。

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MOTUのオーディオ・インターフェース設定ソフトのMOTU DiscoveryのLTC Setup画面。サブマシン側では、LTCを受け取るインプットの選択を行い、Jam Sync機能がオンになっていることも確認しよう

 続いてサブマシンのDPの設定です。これも難しいことはなく、DP画面上部のコンソリデイトウインドウ右側にある時計のようなボタン“外部機器に同期”をクリックして再生キーを押すだけです。これによりサブマシン側では受信したタイム・コードに沿ってシーケンスが再生されるようになりました。メイン・マシンの再生が停止してもJam SyncによってMTCが送られ続けるので、サブマシンでのシーケンス再生を継続して行うことができます。

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サブマシンのDPでは、画面上部に並ぶアイコンの中にある時計マーク“外部機器に同期”を選択し、再生ボタンを押す。これでメイン・マシンのシーケンスと同期して再生されるようになった

 DP8以前ではこのSMPTE-Zというプラグインは存在せず、タイム・コードによる同期を行う際はこれを生成するためのハードウェアが別途必要でした。しかし、SMPTE-Zではタイム・コードの信号をDP上で生成できるため、専用ハードウェアは必要無く、オーディオ信号として出力できればオーディオ・インターフェースは何を使用してもいいということも魅力的です。私は普段使用していないS/P DIF端子から信号を出力し、アナログのアウトプットをすべてシーケンスの音を出力するために活用することができます。さて、来月が担当最終回です。最後までよろしくお願いします!

 

柳田将秀

【Profile】BanG Dream!(Argonavis、GYROAXIA)、GARNiDELiAなどのアーティストのライブ・マニピュレーターとして活動中の音楽家。作編曲活動や音楽機材専門店での販売経験を元に機材レクチャーも行う。学生時代に個人で演奏を楽しむ方法がないか模索し、ラップトップで打ち込みを試み、スタジオで再生してギターを演奏していたことが音楽活動の原点。さまざまな機材知識を応用したシステム作りを得意とする。

track-village.com

【Recent Work】

※収録曲「濡烏(CV:松井恵理子)」の作曲を担当

 

製品情報

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