TASCAM Portacapture X8ユーザー・レポート 〜フィールドで発揮する実力

TASCAM Portacapture X8ユーザー・レポート 〜フィールドで発揮する実力

MTRとしての演奏録音から会議の記録、ポッドキャスト収録、ASMRなど、スマホのアプリのような大型タッチ・スクリーン操作でさまざまなシチュエーションに合わせたレコーディングが行えるTASCAMの32ビット・フロート/192kHz対応レコーダー、Portacapture X8。ここではいち早く使い始めたフィールド・レコーディストのmiduno氏に、そのポテンシャルの高さを語っていただいた。

Main Photo:Takashi Yashima

最終形までシルキーな音色が変わらない

 スタジオのレコーディング・エンジニアとして経験を積んだ後、フィールド録音の匠として活動を開始したmiduno氏。クライアントの要望に応じた録音に加え、自身のUZrecordsでの録音作品配信を行っている。また、J-WAVE『坂本龍一 RADIO SAKAMOTO』の「デモテープオーディション」でフィールド録音作品の常連入賞者としても知られる。

 「もともと、音楽の仕事に就く前の高校時代から、フィールド・レコーディングをしていました。今のようにそれが活動のメインとなったのは、2009年ごろ。ネットで自分の音を売ることができるということを知り、次第にフィールド録音の活動を中心に行うようになってきました」

 そんなmiduno氏、さまざまなレコーダーを使ってきたが、Portacapture X8は発売とともに購入したという。

 「ちょうど、できる限りハイビット/ハイサンプリングでの収録依頼が来て。32ビット・フロート/192kHzで録音できるPortacapture X8は即決でした」

TASCAM Portacapture X8 付属ステレオ・マイクは左右の入れ替えでX/Y方式からA/B方式への切り替えが可能

付属ステレオ・マイクは左右の入れ替えでX/Y方式からA/B方式(写真)への切り替えが可能。なお付属マイクの入力端子(TRSミニ)はプラグイン・パワーに対応する

 Portacapture X8が実現している32ビット・フロートAD変換は、2種類のA/D回路との組み合わせで、録音時のひずみを回避できるのが大きな特徴。花火や雷鳴など、音のダイナミクスが大きなソースの録音にはうってつけだ。しかし、miduno氏は、その点以上に、Portacapture X8全体の仕上がりも含めて、録れる音の質感を絶賛する。

 「私の場合はクリップを回避するためにピーク=−24dBくらいで録る習慣ができているので、ひずみが問題になるケースは少ないんです。それ以上に、編集時にゲインを上げたときにも元の精度が保てるので、音色が変わらずに調整できる。そこも32ビット・フロートの長所ですし、96kHz録音でも恩恵を感じます。また、Portacapture X8の付属マイクはシルキーで音楽的。期待していた以上の音質で録れました」

公園でのDR-100MKIII(左)とPortacapture X8の内蔵マイク比較テスト

公園でのDR-100MKIII(左)との内蔵マイク比較テスト。「ガッツのあるDR-100MKIIIの音に対し、Portacapture X8はより繊細でシルキー。私の期待以上の音でした」とmiduno氏(Photo:miduno)

 TASCAMが誇る低ノイズ仕様のHDDAプリアンプが4基あることも、Portacaputure X8の特徴だ。

 「4ch出力のAmbisonicsマイクも入力できます。テストしてみましたが、きちんと空間全体がとらえられました。私はAmbisonicsマイクで全体をとらえておいて、編集で指向性をコントロールする使い方をしています。近々、山中での録音を予定しているのですが、できるだけ荷物を減らしたい。そこで、Portacapture X8のステレオ・マイク+Ambisonicsマイクであれば、ショットガン・マイク無しでも狙ったポイントと空間全体をとらえられるのではないか?と計画しています」

湾岸で波音を録音する。青く光っているのがPortacapture X8に装着したBluetoothアダプターAK-BT1

湾岸で波音を録音する。青く光っているのがPortacapture X8に装着したBluetoothアダプターAK-BT1。右のウィンド・ジャマーはmiduno氏所有のAmbisonicsマイクに被せたもの(Photo:miduno)

ストレスの無いコントロール・アプリとの連動

 冒頭で触れたように、Portacapture X8はマルチユースのレコーダーだ。楽器の入力を想定してXLR/TRSコンボ入力端子からHi-Z入力が行えるが、パッシブのコンタクト・マイクの入力に使えるとmiduno氏は語る。

 「例えば橋の欄干にコンタクト・マイクを付けて振動を録音してみると、空気を介していないせいか想像するものと違う不思議な音がする。Portacapture X8のコンボ端子にこのコンタクト・マイクを直接入力できるのは大変便利です。また、コンタクト・マイクは敏感なので、こういうときに32ビット・フロートでひずみを回避できる恩恵があるかもしれません」

Portacapture X8のXLR/TRSコンボ入力端子はHi-Z入力にも対応。この左側だけでなく、右側にもあり、計4系統を備える

XLR/TRSコンボ入力端子はHi-Z入力にも対応。この左側だけでなく、右側にもあり、計4系統を備える

 これは、Portacapture X8があらゆる録音用途を想定していたからこそ実現できた方法と言えるだろう。鉄道のモーター音や、聴診器で聴くような生物の活動音の収録にも応用できるかもしれない。さらに、miduno氏はオプションのAK-BT1を加えたリモート・コントロールについて言及する。

 「何が素晴らしいかと言えば、本体画面とアプリのレイアウトが同じで、全く同じ操作感で扱えること。アプリの操作に本体の画面も連動するので、安心感が違います。また、本体とアプリの接続もスムーズで、こんなにストレスの無いアプリはこれまで無かったと思います」

Portacapture Control

iOS/Android対応のリモート・アプリPortacapture Controlでは、本体タッチ・スクリーンと全く同じレイアウトで情報を表示。画面の表示内容も本体と連動する。miduno氏はMANUALモードで使用しているが、画面のFIELDやPODCAST、VOICE、MUSIC、ASMRといった用途に合わせた録音プリセットも用意されている

 スペックに現れる部分はもちろん、それ以上に音や使い勝手にこだわったPortacapture X8。できれば実際に手に取って、そこで鳴っている音と録れた音を、操作感も含めて体感していただきたい。

 

TASCAM Portacapture X8
オープン・プライス(市場予想価格:65,780円前後)

 

miduno(ミヅノ)
【Profile】ラジオ局ディレクターを務めた後、レコーディング・エンジニアの赤川新一氏に師事。現在は、自然音や環境音のフィールド録音で活躍する。企業のオーダーに応じての収録や自身のレーベルUZrecordsでの自然音の配信のほか、自然音アルバム『sound-scape』シリーズをリリース。J-WAVE『坂本龍一 RADIO SAKAMOTO』でも作品が高く評価される