Digital Performerのカスタマイズ性に優れたユーティリティ|解説:高藤大樹

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 こんにちは、高藤大樹です。今月からDigital Performer(以下DP)の連載を担当することになりました。久々にサンレコへの登場となりうれしいです。日ごろの作編曲やプロデュース、ライブでのソフト・シンセ演奏用など、長年DPをヘビーに使用しています(もう20年を越えましたよ!)。普段から使っている機能や効率的に作業を行えるようなアイディアを中心にお伝えしていこうと思っています。一つでも日常の音楽制作の中で、お役に立てれば幸いです。

柔軟な入出力のルーティング

 私は4歳からピアノやエレクトーンを習っていたこともあり、その後の順当な流れで(?)中学生のときにシンセサイザーに出会い打ち込みを始めました。当時は、YAMAHA EOS B900内蔵のシーケンサーを使ってMD4やROLAND VS-1680など、出始めたばかりのデジタルMTRで音楽を作っていましたね。

 

 高校卒業後、上京した際に出会ったのがDPです。東京で出会った同世代のクリエイターは、アマチュアなのにMacベースで音楽を作っているんだ……というところに衝撃を受け、私も早速DPを導入。人生初MacはAPPLE Power Mac G4(OS 9)、DPはバージョン2.5だったと思います。ハード・ディスクによるレコーディングが普及し始めた過渡期で、勉強や情報収集を本気で頑張っていたことも懐かしいです。

 

 もともと打ち込みはリアルタイム入力派だったので、DPへの移行はすんなりとできました。音が可視化され、便利で新しい世界にとにかくびっくりでしたね。おかげさまで徐々に仕事が増えていってからはDPを中心にしたシステムを大きくしていき、MOTU Midi Expressを2台使って各音源やキーボードをMIDI接続し、オーディオはデジタル・ミキサーでまとめるなどの工夫をしていました。

 

 そして現在、私のスタジオではDP11を中心に据えています。DPの一番の魅力は、MIDIとオーディオの扱いに垣根が無くとてもシームレスで、とにかくクリエイティブな気持ちで向き合える点だと思っています。自分の頭の中に鳴っている音を、最短で具現化し皆さんに聴かせられる音にできるDAW。そういった表現が私の中ではしっくりきます。

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現在の筆者スタジオ。システムの中心はDigital Performer 11で、2基のディスプレイにはメイン画面とミキサー画面を出力している

 日々の作業の中で、DPを最も使うのが楽曲のアレンジ作業。自分のスタイルではオーディオ素材の切り張りなどよりも、MIDIを駆使した打ち込みが大部分を占めています。DPが長年積み重ねてきたMIDIの操作性、柔軟性、安定感や“地味だけれどこんなこともできちゃいます!”的な機能もたくさんあり、MIDIを多用する自分の芸風との親和性がとても高いです。曲作りや録音だけでなく、エディットやミックスという工程までDPにて行っています。最近では、自分が音のイニシアチブを取れる仕事に関しては自己完結で行う案件も増やし、DPだけで完パケまで制作して納品することもあります。

 

 DPで新しい作業を行うときは、自作の作業テンプレートからスタートする設定にしています。テンプレートは、曲作りの最初に行う打ち込みやプロジェクトの最終段階までいかに作業しやすいかが基準。気付いたことを盛り込んで見直すなど、随時更新しています。

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筆者のテンプレート。すぐ作業に入れるよう、使用頻度の高い楽器のトラックや、ルーティングをアサイン済みの録音用トラックを並べて用意している。ちなみに、使わないオーディオやソフト・シンセのトラックも有効ボタン(赤枠)を外しておくことで、CPU負荷を抑えられる

 では私が実際に作業をしているDPの画面を見てもらいましょう。大まかには画面上から歌、シンセ系、リズム系、AUX、マスター・フェーダーという流れになっています。

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来年発売の某アーティスト楽曲のトラック画面で、アレンジがほとんど完成している状態。画面右のサイドバーには、任意の再生時間にすぐ移動できるようセクションのマーカーと、細かなMIDI情報を見るためのイベントリストを表示している

 特に見てもらいたい点はトラックの部分です。DPでは、少し前のバージョンからトラックをフォルダーでまとめられる機能が付いたので、とても便利になりました。まとめ方は例えば、“ストリングス・グループ”(弦楽4重奏の場合、各MIDIノートのパートとキー・スイッチ・トラックを分けるので合計8tr)、“ドラム・グループ”(シンバル、キック/スネア、フィルとMIDIトラックを分割。ドラム音源のアウトプットもパラアウトしてエフェクトをかけるなどするため、膨大なトラック数になる)、“日付”(進捗状況で変更になった歌や演奏データのトラックをまとめて分かりやすくする)などの形を多用しています。

 

 ここ数年は、アナログ機材やかけ録りができるUNIVERSAL AUDIO UAD-2プラグインを積極的に使うスタイルに傾倒しているので、オーディオやソフト・シンセのアウトプットを外部の機材に出力して音作りし、即座にレコーディングできるようにセットしています。DPはオーディオI/Oの入出力を柔軟に組めることもとても魅力なので、オーディオ・バンドル設定で使いやすいルーティングを組んでいます。

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バンドル設定画面。アナログ機材やハードウェア・シンセの名前などの情報をここで記入しておくと、DP上全体の表記が統一されるので迷わずに扱え、便利だ

 この音にあのプリアンプを通したらどうなるかな?とか、ドラム・バスにハードウェアのバス・コンプをかけよう、などと思った際にアウトプットを選ぶだけでプリプロの段階から物理的にパッチせずどんどん試せるのはとても便利でテンションも上がります。デモ段階から完成像にしっかり近付けられますね。

リアルタイム入力に適したウエイト機能

 最後は打ち込みについて。私は、ほぼ全パートで鍵盤を“弾いて”リアルタイム入力しています。DPには、鍵盤からMIDI情報が入力されたタイミングで再生が始まる“Wait for Note”という非常に便利な機能があります。自分が録音したいところを頭出ししておき、弾き始めるとそのままそこから録れるという非常にクリエイティブでありがたい機能です。

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コントロールパネルの左上がウエイトのオン/オフ切り替えスイッチ(赤枠)。環境設定から、再生と録音→トランスポートを選択すればウエイト機能使用時に、再生をスタートする信号を細かく設定できる

 ドラムなどは、インプット・クオンタイズを使い16分音符まではリアルタイムで打ち込みます。細かいフラムやフィルの詰めは、ステップ入力やエディットをして作成。このときの操作は、ほとんどをコマンド=ショートカットで行います。最短での操作を習得していると、作曲のパッションを失わず、音の鮮度は格段に上がるでしょう。打ち込みでよく使うデュレーションやベロシティなどの変更は、独自に割り当ててあります。

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コマンド設定画面。細かな所作まで割り当てることが可能なので、ライブでの使用時などは独自の設定をすることもある

 全体的な流れとしては、まずは弾いてみてOKのものから必要があればエディットしていきます。MIDIリストや五線譜を参考に、音符もしくは480分解能の数字からエディットすることが多いですね。コンソリデイトウインドウはカスタマイズできるので、自分が使いやすい並びに構築できます。アレンジやミックスの段階で設定をその都度変えることも可能です。

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コンソリデイトウインドウ設定画面。いつでも自動的に一画面表示にしたり、ミキサーなど任意のものだけポップアウトしたりをすべてのウインドウに適用できる。左右のサイドバーへの表示項目数なども設定可能

 DAWにとって一つの重要な要素、MIDIについて多めに触れてみました。頭の中で鳴っている音やアンサンブルをサクッと反映/変換できるDPはとても頼もしい! DAW内を細かくカスタマイズできる点も、かゆいところに手が届く仕様です!

 

高藤大樹

【Profile】プロデューサー/作編曲家/キーボード・プレイヤー。“イマ”の時代を意識したジャンルにとらわれない音楽を作り、他セクションとも柔軟に連携してさまざまなアーティストやクライアントとともにリスナーの琴線に触れる音を追求している。また、プレイング・マネージャーとしてクリエイター・マネジメントを行うSound Bahnの代表も務めている。

【Recent Work】

『NO BORDER』
田村直美
(ライフタイム/MOJOST)

 

MOTU Digital Performer

オープン・プライス

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LINE UP
Digital Performer 11(通常版):60,500円前後
*オープン・プライス(記載は市場予想価格)

REQUIREMENTS
▪Mac:macOS X 10.13以降
▪Windows:Windows 10(16ビット)
▪共通:INTEL Core I3または同等のマルチプロセッサー(AMD、Apple Siliconを含むマルチコア・プロセッサーを推奨)、1,024×768のディスプレイ解像度(1,280×1,024以上を推奨)、4GB以上のRAM(8GB以上を推奨)

製品情報