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Digital Performer内蔵プラグインを使ったシンクマスターの音作り 解説:木内友軌

Digital Performer内蔵プラグインを使ったシンクマスターの音作り 解説:木内友軌

 木内友軌です。先日、Digital Performer 11がリリースされました。皆さんはもう手に入れましたか? MPE(MIDIポリフォニック・エクスプレッション)サポートや、Nanosampler 2.0など楽しみな更新がたくさんあります。私もしっかり使ってみて、次回でお話ししようと思います。今までもDigital Performer(以下DP)の奇数バージョンは特によくできているという評価が私の周りでは話題になっているくらいなので、とても期待しています。

EQを使ってピーク処理、低域は印象が変わる直前までカット

 さて、コンサートやショウでの私のポジションとなるシンクマスター。過去2回では、そのパフォーマンスの中心を担うDPについてお話ししてきました。シンクマスターは、楽曲プロデュースを行う人がコンサートで力を発揮できるポジションとも言えます。今回はライブ・シーケンスを行う上でデキる人になるための“音”に関する部分、音作りについてのお話をします。これまで実際のデータを元に仕組みをお話しした際、さまざまな楽器の演奏データをDPに取り込んでプログラムしていることをお伝えしました。今回はバンドの演奏とプログラムされた演奏データをシンクさせているステージの想定で、演奏データの音作りをしていきましょう。

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筆者がシンクマスターとしてライブを行う際のセッテイングの一例。ライブ・シーケンスのためのコンピューターだけでなく、キーボードやギターなど演奏パフォーマンスのための楽器もセッティングしている

 楽曲制作におけるアレンジの音作りとコンサートの音作りは違います。楽曲制作の音作りは、例えばギターの場合STタイプ/LPタイプなどどのギターで演奏するか、またアンプの種類やそれを録音するマイク、距離、機材のセッティングなどを綿密に計算してレコーディングをします。シンセサイザーやオーケストラも同様に作られ、それぞれがしっかりとかみ合うように組み立てていきます。

 

 コンサートで目指す音作りに必要なものを結論から言うと、

●PAがパフォーマンスを最大限に発揮できること
●実際に演奏される音との親和性を高めること

この2つが重要になってきます。では、PAのパフォーマンスのための音作りとは何か。一つは“ボリュームを上げたいときに上げられること”です。いろいろな会場によって音の響きが違い、日によって演奏も異なります。音量を上げたいのにピーキーな成分が目立っていると耳障りとなり、上げることができません。まずはEQでそういったところを取り除いていきます。

 

 DPに付属するMasterworks EQは実際鳴っている音域をアナライズして視覚化できるのと、Qが使いやすいので気に入っています。アナライザーのカーブが出っ張っている辺りを、狭いQ幅でブーストして痛い音を探していきます。実際に耳で確かめながらピークを取り除いていきましょう。

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DPに付属するEQプラグインのMasterworks EQ。Q幅を狭くしてブーストし、耳に痛い部分を探してカットしている

 ノイズや暴発する音の多くは超低域に隠れていることが多いです。楽曲制作では積極的に低域を切ることは少ないのですが、巨大なスピーカーから大きな音が出るコンサートの場合は音の印象が変わる直前までカットします。恐らく単独で聴いている分にはほぼ分からないと思いますが、こういう小さなことの積み重ねで質の良いミックスが出来上がるのです。

 

 DPには効きの異なるParametric EQというEQもあります。しっかり切りたいときはMasterworks EQ、自然に作りたい場合はParametric EQと感覚的に使い分けています。

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EQプラグインのParametric EQ。筆者はMasterworks EQと感覚的に使い分けている。ローカットや、シェルビングはParametric EQの方が自然にかかるため好みだ

コンプでグルーブを演出。リバーブは音の“面積”を作る

 これでピークは取り除けました。この次は音のバラつきを抑えます。いわばPAの3本目の手になりましょう。リアルタイムにフェーダー操作をするPAエンジニアには、できればボーカルやバンドのフェーダー操作に集中してもらった方がいいです。細かく言うと、モニターとFOHでもワークフローが異なってきます。せっかくシンクマスターとして私も居るので、お互い良い仕事ができるようにしたいものです。

 

 音のばらつきを抑えるというとコンプのイメージがあります。けれどもコンプはスピーカーからの音の飛び出し方が変わるので、ばらつきを押さえるという面では基本的にオートメーションで追いかけることが多いです。

 

 オートメーションは大きく分けて2つ、トラックのボリュームとバイトゲインを調整します。ボリュームのオートメーションは細かく設定できるのでいいですが、全体をフェーダー操作で上げ下げすることができなくなってしまいます。例えばセクションの最後の1小節のフィルなど、まとめて上がると気持ちの良いものはバイトゲインで上げたりしましょう。

 

 コンプはADSRのSRに当たる部分の調節で使います。DPには優秀なコンプが付いており、リード楽器類はMasterworks FET-76、それ以外はDynamicsを使うことが多いです。

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UREI 1176をモデルにしたMasterworks FET-76。筆者の印象としては“ちょっと粘りのある効き方をするコンプ”

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DP付属プラグイン、Dynamics。こちらは“シンプルでオールマイティ”なコンプだ。FET-76はリードとなるパートを担う楽器類で、それ以外のパートはDynamicsという風に使い分けている

 どちらを使う場合もアタックは遅めでリリースは少し速めに設定し、テンポに合わせて調整します。アタック音が途切れる辺りからコンプがかかるようアタック値を設定し、次の音が鳴るまでにメーターが0に戻るくらいにリリース値を設定。その上でコンプのボリュームを調整することにより、SRの部分の量感を調整することができます。

 

 例えばリリースがタイトなエレクトロのリズムに対して、生ドラムを合わせる際はグルーブ=音の長さが変わるので、このようにコンプを使って音の長さを調整します。最初にお話ししたように、楽曲制作時には綿密な計算による音作りがされています。その演奏データに対してもう一度違う演奏を乗せていくことになるということなので、バンドとの親和性を高めることはとても重要なことです。一緒に演奏するミュージシャンが出す音、グルーブと対話をしながら音作りをしていきます。

 

 前述のEQやオートメーションなども大事ですが、もう一つ大事なのが音の“面積”です。コンサートで実際に演奏される楽器は生演奏を収音しているので、面積があり立体的です。そこの親和性を上げていくのがリバーブ。DP付属のプラグインでは、EVerbがダンピングやディフュージョンが特徴的なリバーブ、Proverbは直感的に操作できて良い意味で聴いたことのあるイメージしやすいリバーブです。

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DPに付属するリバーブ・プラグインのEVerb。CPU負荷が低く汎用性の高いリバーブで、ダンピングやディフュージョンなどの効果を加えることができる

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リバーブ・プラグインのProverb。画面を見ながら直感的にコントロールすることが可能だ。筆者はEVerbと併用し、なじませる際はセンド&リターン、立体的な面積を演出する際はインサートと用途に合わせて使い分けている

 もちろん素材次第なのですが、なじませるときはセンド&リターン、面積を作るときはインサートにしています。前回最後にお話したように、リリースされている作品とバンドの演奏を聴き比べ音を構築していきましょう。

 

 今回は、DPを使った音作りについてお話ししました。さて次は最終回。今回もお付き合いありがとうございました。

 

木内友軌

【Profile】音楽プロデューサー、作詞家、作編曲家として活動中。バンドとクラブ・シーンにて培ったハイブリッドなサウンドでアーティストやショウなどへの楽曲提供を行う。クリエイティブ・テーマは“世界人の中の日本人としての世界に誇れるソングライティング”。9月より開催されているDEAN FUJIOKA自身最大の規模となる18都市20公演での日本ツアー『DEAN FUJIOKA “Musical Transmute”Tour2021』に、シンクマスターとして参加している。

【Recent Work】

『Coming Home』
CJ Li

 

製品情報

MOTU Digital Performer

オープン・プライス

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