シンクマスターから見るライブ・パフォーマンスで役立つDigital Performer 11の新機能|解説:木内友軌

Digital Performer内蔵プラグインを使ったシンクマスターの音作り 解説:木内友軌

 木内友軌です。これまでの連載で、シンクマスターによるDigital Performer(以下DP)を使ったライブ・シーケンス・テクニックを披露してきました。いよいよ最終回です。あらためてシンクマスターを簡単に説明すると、“音楽クリエイターによる、ショウ/コンサートでのパフォーマンスで、音楽アレンジとともに演出をより一層音楽とシンクロさせ高める”セクション(下の写真)。先日DPがバージョン11へとアップデートされました。今回はシンクマスター目線から見た、その新機能についてお話させていただきます。

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昨年末、筆者がシンクマスター/バンドマスターを担当した『DEAN FUJIOKA Live Streaming 2020 “Plan B”』でのライブ・セッティング。今回Digital Performer 11へのアップデートでNKS対応となったことで、写真右上段のNATIVE INSTRUMENTS Komplete Kontrol S49からDigital Performer 11をコントロールすることが可能となっている

新搭載のNanosampler2.0は3つのモードから選択可能

 まずはNanosampler2.0。頼もしいインストゥルメントで、アップデートの目玉ではないでしょうか。従来のNanosamplerはとてもシンプルに波形を読ませてMIDIでトリガーするスタイル。1つの音色をシーケンスの中で鳴らすときにはとても分かりやすく便利なものでした。2.0にアップデートされた今回、注目の機能は3つのプレイバック・モード。クラシック/ワンショット/スライスが用意されています。

 

 クラシックは従来通り、トリガーしている間サンプルが再生されるモードで、ワンショットは1度トリガーされると波形の終わりまで再生されるモード。そしてスライスは波形を分析して切り分け、鍵盤に割り当てます。SPECTRASONICS Stylusをほうふつさせるノート・マッピングで、ループの素材を使用して演奏し直すことも可能です。最近はシンセやリズムなども発達し細かく作り込まれている音も多く、演奏の際は似た音色を再現したり、相性の良い音を作って演奏しています。ですがNanosampler2.0を使えば、元の素材を切り分けてプレイすることも視野に入れられるので、一段とその音に寄り添ったパフォーマンスが可能となります。とても魅力的な機能です。

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ドラム・パターンのオーディオ・ファイルを読み込んだ状態のNanosampler2.0。プレイバック・モードをスライスにすると、波形を分析しオーディオ内の発音ごとに鍵盤に割り当てる。赤枠部分の音にはA#3のキーが割り当てられている

 タイムストレッチ機能も進化しています。これまで何も設定していないときはセンターのキーのC3を中心に、鍵盤の高い位置に行けば音が高くなり、サンプル自体のテンポも速くなってしまいました。いわゆる“早回し”状態ですね。ですが今回、ピッチだけが上がって、テンポはストレッチしてくれるように。また、タイムストレッチによるフォルマントの変化を修正してくれるZTXストレッチモードもあります。ZYNAPTIQのエンジンによるものということで高機能です。

MIDIコントローラーを使ってエフェクトを感覚的に調節

 シンクマスター的な発想からNanosampler2.0の使い方を考えてみると、NATIVE INSTRUMENTS MaschineなどのコントローラーにNanosampler2.0をアサインし、リアルタイムかつ感覚的なエフェクトをかけたりするのもいいでしょう。元の楽曲内にある、ライブで再現が難しい音を読み込みスライス・モードにしてストレッチを選択します。演奏しやすいようにアンプ・エンベロープでリリースを微調整。フィルターだったらコントローラーをNanosampler2.0のフリークエンシー、レゾナンスにそれぞれアサインしてもいいかもしれません。セッティングのところでLFOも設定ができます。ここまでくるともうシンセサイザー的に扱えそうですね。

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Nanosampler2.0の画面右にあるセッティング(赤枠)を選択すると、サンプルの波形を細かく調節することができる。MIDIコントローラーなどの外部機器を併用すれば、ハードウェアのシンセサイザーのようにパラメーターを動かすことができる

 コントローラーといえば、より複雑なMIDIコントロールを可能にするMPE(MIDIポリフォニック・エクスプレッション)にDPが対応するようになりました。僕もコンサートで使っているMPE対応キーボード、ROLI Seaboardを使った際の複雑なMIDIの動きも画面上に表記されます。

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ROLI SeaboardによるMIDI入力を行った画面。ここではピッチベンドを使って低音の音高が緩やかに下がっていくなどしている一方、コードが全体的に上がっているというふうにプログラムされている。MPE対応キーボードを使えばこのような複雑な動きを収録することが可能となった

 また、NATIVE INSTRUMENTSのNKSにも対応しています。シンクマスターとしてパフォーマンスする際、ソフト・シンセ用のメイン・キーボードはKomplete Kontrol Sなので、こちらを使ってDPをコントロールすることが可能になりました。演奏しながら手元で操作できることで、直感的な操作に応用できそうで期待しています。

スプリットビューやプレイリストなどチャンクの機能が強化

 ユーティリティも変更点があります。まずはテキスト・サイズの変更。地味に見えますがとても大きなアップデートでした。本番中にチャンクからセットリストを眺めるとき、キーボードを弾きながらフィルター・エフェクトをかけてディレイのフィードバックを調整しながら次の曲の準備を……などと立て込んでいるときに、今までのフォント・サイズだとちょっと見づらいというのが現実でした。1公演で20曲以上のチャンクが並ぶため小さい方が良いこともあるのですが、本番中やとっさのオペレーションに対して不自由がありました。それが解消され、大きな安心感があります。

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環境設定画面のText Sizeから文字の大きさを変更できるようになった。リスト/ノート/歌詞の3つを、それぞれ設定することが可能。画面上はリスト(赤枠)を最大にしている。また、チャンクにプレイリストが追加された(青枠)。プレイリストを使うことで、演目によって異なるライブのセットリストとしてあらかじめ用意しておくことができる

 また、チャンクのスプリットビューも搭載。こちらは2画面に分けての操作が可能になりました。フォントを大きくしても整理したチャンクが見やすく、2画面上を行ったり来たりしてドラッグ&ドロップできるので作業スピードも上がります。

 

 そして、プレイリスト。コンサートでは2連続公演や、各地によって日替わりの曲を用意したりします。または同じ曲のバージョン違いなどもあります。プレイリストでそれらを管理することで、アレンジのアップデートなどにも影響なく、すべてのセットリストが管理しやすくなりました。実を言うと“ライブ・シーケンス専用のDAW”というものは存在せず、これまで楽曲制作ソフトを使ってライブ・シーケンスをしていたわけです。DPのチャンク機能も、もともとはアレンジをセクションごとに組み立てていくためのもの。それを応用してライブ・シーケンスに使用していました。今回のアップデートでこれらの追加により、DPはライブ・シーケンス用のソフトとしても本腰を入れてきたという印象があり、とても頼もしいです。

 

 最後にもう一点。描画速度も上がったようです。波形をズームした際などの動きがスムーズになって、気持ちよくエディットができるようになっています。

 

 最終回はバージョン・アップしたDPの新機能を紹介しました。シンクマスターというポジションは作編曲家によるライブ・パフォーマンスのことを指すと言えます。DPはそのセクションを支える重要なDAWなのです。ぜひDPを使って、まだ若いシンクマスターというクリエイティブなセクションを一緒に盛り上げてほしいです。ご連絡お待ちしております。ありがとうございました! 良きDPライフを!

 

木内友軌

【Profile】音楽プロデューサー、作詞家、作編曲家として活動中。バンドとクラブ・シーンにて培ったハイブリッドなサウンドでアーティストやショウなどへの楽曲提供を行う。クリエイティブ・テーマは“世界人の中の日本人としての世界に誇れるソングライティング”。9月より開催されているDEAN FUJIOKA自身最大の規模となる18都市20公演での日本ツアー『DEAN FUJIOKA “Musical Transmute”Tour2021』に、シンクマスターとして参加している。

【Recent Work】

『INDIES PERSONAL BEST』
三阪咲
Bloom Slope Records

 

MOTU Digital Performer

オープン・プライス

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LINE UP
Digital Performer 11(通常版):60,500円前後
*オープン・プライス(記載は市場予想価格)

REQUIREMENTS
▪Mac:macOS X 10.13以降
▪Windows:Windows 10(16ビット)
▪共通:INTEL Core I3または同等のマルチプロセッサー(AMD、Apple Siliconを含むマルチコア・プロセッサーを推奨)、1,024×768のディスプレイ解像度(1,280×1,024以上を推奨)、4GB以上のRAM(8GB以上を推奨)

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