ADAM AUDIO SP-5&S3Vの魅力を語るエンジニア対談 〜細井智史 × 森﨑雅人

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ドイツ・ベルリンを拠点とするスピーカー・ブランド、ADAM AUDIO。今回はULTRASONEと共同開発のヘッドフォンSP-5と、ADAM AUDIOフラッグシップ・モニターであるSシリーズの一つ、S3Vを紹介する。これらを絶賛するのは、KURID INTERNATIONAL所属ミックス・エンジニアの細井智史氏(写真左)とスタジオARTISANS MASTERINGのエンジニアの森﨑雅人氏(同右)。彼らによる対談を通して、両者の心を鷲づかみにしたSP-5とS3Vの魅力が伝われば幸いである。

Photo:Takashi Yashima(except*)

ADAM AUDIO SP-5 ヘッドフォン

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オープン・プライス (市場予想価格:66,000円前後)

 ダイナミック型スタジオ・モニター・ヘッドフォン。ULTRASONEと共同開発し、同社のS-Logic Plus技術を採用することで、低いSPL値でも聴覚上では大きな音量、かつ自然な音響特性を実現しているという。また290gという軽量ボディによって優れた装着性を持ち、ケーブルは着脱可能で折りたためる構造になっているため、可搬性にも富んでいる。付属品は、キャリング・ケースとケーブル2種を用意。

【SPECIFICATION】
●型式:密閉型ダイナミック・ヘッドフォン(折りたたみ可能)
●ドライバー:40mm径(Gold Plated)
●周波数特性:8Hz〜38kHz
●入力感度:95dB@1mW/ear
●インピーダンス:70Ωs
●重量:0.29kg

SP-5は音の立ち上がりがとにかく速い

お二方がSP-5を使うことになったきっかけは?

森﨑雅人(以下、森﨑) もともとこのスタジオをスタートするときに選んだモニター・スピーカーがADAM AUDIO A7Xで、そのときに国内代理店を務めるソニックエージェンシーからSP-5をお薦めされたのがきっかけです。

細井智史(以下、細井) 自分は森﨑さんにマスタリングをお願いしたときに、スタジオでSP-5を試したのが最初でした。

森﨑 SP-5を手に取って感じたのは非常に軽いということと、イア・パッドが若干硬いかな?ということ。これは新品だったからで、使っているうちに自分の側頭部の形状にフィットするように形状が変わってくるんです。今では眼鏡のテンプル(つる)の跡が付くくらいぴったりで、装着感が良いんですよ。

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細井智史【Profile】KURID INTERNATIONALに所属するミックス/レコーディング・エンジニア。これまでにRIZE、MAN WITH A MISSION、The BONEZ、TOTALFAT、Nothing's Carved In Stone、AA=、RED ORCAなどの作品に携わる。

サウンド面についての印象はいかがでしょう?

細井 大きなスタジオによくあるラージ・モニターの鳴りをするので、低域〜超低域にかけてすごく分かりやすいなって。SP-5ならスタジオにサブウーファーが無くてもいいくらいです。超高域まで奇麗に伸びているので、シンバルやボーカルのちょっとしたひずみの処理がしやすいですね。

森﨑 SP-5は音の立ち上がりがとにかく速いから、トランジェントが分かりやすい。恐らくこれは、ほかのどのヘッドフォンよりも優れている部分かもしれません。音が出る瞬間から消え際までしっかりモニタリングできます。あと細井さんと同じで、ヘッドフォンで聴いているのにラージ並みの超低域が鳴る印象。これはULTRASONEのS-Logic Plusという技術で、一度音が耳の外耳に当たり、それから内耳に入る仕組みになっているからだそうなんです。だからヘッドフォンなのに、モニター・スピーカーで聴いているような感じがするんでしょう。

細井 おかげで長時間使っていても耳が疲れにくい。たまに一日中付けていることもありますが、付けていること自体を忘れるくらいです(笑)。またSP-5は1kHz辺りの再現性が高いのに、耳が痛くならない。ナチュラルな聴き心地なんですが、立ち上がりが速いから生演奏に近いサウンドを体感できます。

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森﨑雅人【Profile】1995年音響ハウスに入社し、2000年からサイデラ・マスタリングにて17年間チーフ・エンジニアとして活躍。2018年からはTiny Voice, Productionに所属し、ARTISANS MASTERINGを立ち上げる。

外部スタジオでもSP-5があれば安心

SP-5はミックスはもちろん、マスタリングの現場でも有用なヘッドフォンだということですね。

森﨑 マスタリング作業では、ミックス音源のチェックから実際の音処理、最後のノイズ・チェックなど一連のプロセスがありますが、SP-5の良いところは“一つですべての作業を完結できる”ということ。音のバランスが良くないときはすぐに調整に戻れたり、逆に調整中にノイズが気になればすぐにノイズ処理に移行できたりと、SP-5ならこれらをシームレスに行うことができるんです。内容ごとにヘッドフォンを変えないので、ストレス無く作業を継続できるのも大きな利点ですね。

細井 開放型ヘッドフォンを使用すると、どうしても外部の音も聴こえてきますが、SP-5のような密閉型ヘッドフォンだと遮音性が高いため、作業しやすいというのもポイントです。

森﨑 自分がヘッドフォンに求めることの一つに、“色付けをしないこと”という条件があります。SP-5はその点もしっかりクリアしていて、音源をシビアに再現してくれるんです。

細井 外部スタジオによってモニタリング環境が異なる場合でも、SP-5があれば安心。フラットかつ音の定位感も分かりやすいので、聴いた瞬間に“買います!”って言いました(笑)。

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ミックスでSP-5を使用する細井氏。「ヘッドフォンでこんなにびっくりしたのは久しぶりです。長時間の作業でも全く耳が疲れません」と話す

コロナ禍で制作チームが一つのスタジオに集まって作業することが減った中、お二人はある作品でSP-5という共通のモニタリング環境で作業されたと伺いました。

森﨑 モニタリング環境が同じだから、相手の言っていることが非常に分かりやすいんです。音質や音圧、ひずみ具合などが共通なので、一つの安心感にもつながります。これまでも細井さんとは別のヘッドフォンで同じことをしていましたが、今回SP-5を導入したことによって確実に精度が上がりました。

細井 ダイナミクスや音の定位感、輪郭がしっかり作り込まれたミックスなら、SP-5はしっかり鳴ります。SP-5は自分たちの中で新しいリファレンス・ヘッドフォンだと言えますね。

ADAM AUDIO S3V モニター・スピーカー

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オープン・プライス(市場予想価格:297,000円前後/1台)

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 S3VはADAM AUDIOのフラッグシップとなるパワード・モニター、Sシリーズの一つ。9インチ径ウーファー+4インチ径ミッドレンジ・ユニット+S-ARTリボン・ツィーターという3ウェイ構成で、クロスオーバーや補正EQ用のDSPを内蔵する。アンプ出力は500W+300W+50W、最大音圧レベルは124dB SPLと、ミッドフィールド・クラスのパワーを搭載。またアナログ入出力(XLR)に加え、デジタル入出力(AES/EBU)も備えている。

【SPECIFICATION】
●形式:3ウェイ・パワード・モニター
●ユニット構成:9インチ径ウーファー(HexaCone)+4インチ径ドーム型ミッドレンジ・ユニット(カーボン複合材)+4インチ2 S-ARTリボン・ツィーター
●パワー・アンプ:500W(ウーファー)、300W(ミッドレンジ・ユニット)、50W(ツィーター)
●周波数特性:32Hz〜50kHz
●THD:0.4%以下
●最大音圧レベル:124dB SPL以上@1m
●クロスオーバー周波数:250Hz/3kHz
●外径寸法:293(W)×536(H)×380(D)mm
●重量:25kg(1台)

自宅で作業するエンジニアにもお薦めしたい

スタジオには3ウェイ・パワード・モニターのS3Vが鎮座していますが、こちらのモデルを選ばれた理由は?

森﨑 きっかけはSP-5。それまではA7Xを使っていまして、きちんとチューニングしていたので良い音で鳴っていたと思うんです。でもこのSP-5を聴いた瞬間、A7Xが若干物足りなく感じたのでソニックエージェンシーに相談したところ、フラッグシップ・モニターであるSシリーズが“音の立ち上がりが速くて良い”と。それでS3Vを試聴したところ、印象がすごく良かったんです。マスタリングの場合、ボーカルやリード楽器の質感が特に大事で、それらの帯域を忠実に再現できるのはミッドレンジ・ユニットを備える3ウェイ・モニターだともともと考えていたので、S3Vは完ぺきだと感じましたね。

 

A7Xからフラッグシップ・シリーズのS3Vに入れ替えてみて、どのような違いを感じていますか?

森﨑 S3Vはとても良いバランスで鳴ります。特に低域の再現性が格段に上がっていますね。押し出し感のある低域については、“素晴らしい”の一言です!

 

S3VはDSP搭載モデルですが、このスタジオではどのような設定をしているのでしょうか。

森﨑 クロスオーバーだけ設定していますが、補正EQなどは全く使用していません。それだけS3Vのサウンドはフラットなんです。DSP内蔵というところで言うと、S3Vはルーム・アコースティックの調整が難しい小規模スタジオやプライベート環境での設置にも適していると言えますね。

細井 そもそも自分はパワード・タイプやDSP内蔵スピーカーが苦手なんですが、こんなに好印象のモデルは初めてです。

森﨑 Sシリーズには2ウェイ・タイプのS2Vや、12インチ径ウーファー搭載のS5Vなどがありますが、設置スペースを確保できるのなら、もしかするとS3Vが一番コスト・パフォーマンスに優れているのかもしれません。

細井 自宅作業するエンジニアでモニタリング環境に困っている方には、ぜひSP-5とS3Vをお薦めしたいです。SP-5で本当に良いバランスというのを勉強した後、S3Vを導入するといいと思います。

森﨑 エンジニアの皆さんは、自分のリファレンスとなる基準を感覚として持っているから、スタジオが変わってもある程度対応できると思うんです。だけど、それってなかなか素人には難しい。その基準を勉強するために、やはりSP-5のような良いヘッドフォンで学んでほしいなと。そしてSP-5とS3Vの組み合わせなら、ヘッドフォンとスピーカーの間で音像がブレないからイメージが変わらない。プロからビギナーまで自信を持って推奨できるプロダクトですね。

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