ADAM AUDIO T8V/A3X 〜独自のツィーターを搭載するベルリン発祥のニア・フィールド・モニター

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“正確な音、原音に忠実、高解像度”をかかげるベルリンのスピーカー・メーカーADAM AUDIO。同社のスピーカーは、シンボリックな折りたたまれたARTツィーターや、アルミ削り出しのウェーブ・ガイド、バスレフ・ポートなどによりその信念を叶え、商業スタジオからプライベート・スタジオまで幅広く使用されている。今回はニアフィールド・モニターの新製品T8Vとスタンダード・モデルのA3Xを、エンジニアの飛澤正人氏がチェック。フラッグシップ・モデルのDNAを受け継いだ2機種の実力に迫る。

Photo:Hiroki Obara

 

聴きやすいニア・フィールド機だと
音を流してすぐに気付いた

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飛澤正人
【Profile】Dragon Ash、HYなどの作品を手掛けてきたレコーディング/ミックス・エンジニア。VRやサラウンドに対応したPENTAGLE STUDIOを設立し、2ミックスでは表現できないサウンドを追求している

ADAM AUDIO T8V

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 8インチ径ウーファーを搭載する、2ウェイ・アクティブ・モニター。軽量なポリプロピレン製ウーファーの採用により、大音量で再生した際に起こるダイアフラムのブレイク・アップを防ぎ、優れたトランジェント・レスポンスを獲得している。1.9インチ径のU-ARTツィーターは、空気を4:1の比率で効率良く動かすことで、複雑な高域のトランジェントをダイレクトに再生する。さらに最上位機種から受け継いだHPSウェーブ・ガイドによって、広いリスニング・エリアで安定した音像を実現。ミキシング・コンソールや机などによって生じる一次反射を低減する効果も持つ。クラスDアンプ(低域70W/高域20W)を搭載し、最大音圧レベルは118dB SPLを誇る。

 

【SPECIFICATIONS】
▪周波数特性:33Hz~25kHz ▪最大音圧レベル:118dB SPL(ペア@1m) ▪全高調波ひずみ率:0.5% ▪クロスオーバー周波数:2.6kHz ▪アンプ合計出力:低域70W、高域20W(RMS)▪重量:9.8kg ▪外形寸法:250(W)×400(H)×335(D)mm

 

T8Vはスウィート・スポットが広く
ダイナミック・レンジに優れた自然な音色

 今回試すT8V/A3Xのセッティング中、スピーカー選びにおける重要なポイントを飛澤氏が教えてくれた。

 

 「音量を変えて聴いてみることが大切です。大きい音で鳴らしたときに心地良くて、かつ小さな音で鳴らしてもしっかりバランスが取れると良いですね。ちなみに僕がリファレンスにしているのはスティーリー・ダン『ガウチョ』。20歳くらいのときに初めてレコードを聴いて感動した作品で、そのときの心地良かった感覚がそのスピーカーでよみがえるのかを試すんです。それと合わせてトレンドの曲も聴いたりします」

 

 最初にチェックするのは、8インチ径ウーファーを搭載するT8V。フラッグシップ・モデルにも投じられているHPSウェーブ・ガイドが搭載されている。さまざまなジャンルの曲を聴き終えた飛澤氏からは感嘆の声が上がった。

 

 「予想以上にスウィート・スポットが広くて驚きました。エンジニアはスタジオ内を動きながら作業することもあるので、移動しつつ聴いてみたのですが、左右に動いたときに位相のズレをほとんど感じない。ツィーターとウェーブ・ガイドの作りの良さを実感できます。以前にADAM AUDIOのスピーカーを聴いたときも、スウィート・スポットが広い印象を受けましたが、T8Vにも受け継がれていますね」

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1.9インチ径のU-ARTツィーターは折りたたまれたダイアフラムがブレイク・アップを防ぎ、ひずみを最小限に抑制。フラッグシップ・モデルにも使われているHPSウェーブ・ガイドが採用されている

 飛澤氏はT8Vのサウンドの特徴についてこう続ける。

 

 「ものすごく聴きやすいニアフィールド・モニターだということが、チェックし始めてすぐに分かりました。フラットな特性で全帯域のバランスが良く、ダイナミック・レンジに優れています。余裕のある再生音で、スピーカーの後ろ側まで広がるような立体的な響きがしますね。奥まで見えるということは、ミックスで余計な空間系エフェクトを加えなくて済むでしょう。それに、音量の大小にかかわらず同じように鳴ってくれます。小さな音で鳴らすと低域が出てこなくなるモデルもあるのですが、T8Vは全く問題ありませんでした」

 

 また、ミックスで重要になる音の定位感についてもT8Vは優れていると氏は語る。

 

 「真ん中にくっきりと音が存在しているのが分かります。いわゆるファントム・センターですが、ここがくっきりしていないとスピーカーは意味をなさないんです。良いスピーカーになるほど、ファントム・センターから左右への広がりをはっきり表現してくれるんですよ。T8Vはパッと聴いた印象だと、もっと価格帯が上のモデルにも引けを取らないリッチなサウンドで、非常にコスト・パフォーマンスに優れたモニター・スピーカーだと思います」

 

 飛澤氏は試聴中にスピーカーの配置を調整しながら音を確認していた。結果として、T8Vの性能の良さをさらに体感できたという。

 

 「最終的にスピーカーの間を1.5mくらい取ったのですが、とても良いサウンドです。ファントム・センターの印象は変わらずに、音像がそのまま広がりました。左右の幅をこれだけ変えても気持ち良く鳴ってくれる機種はなかなか無いですし、設置が比較的容易なスピーカーだと思います」

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T8Vのリア・パネル。入力端子はXLRとRCAピンを用意する。音量調節が行えるレベル・ノブ(-60~+18dB)を搭載。ハイシェルフEQとローシェルフEQ(+2/0/-2dB)も装備する。最上部に設けられたリア・ファイヤリング型のバスレフ・ポートによって、コンプレッションの少ない豊かな低域を実現している

ADAM AUDIO A3X

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 スペースに制限のあるスタジオを考慮して設計された、同社AXシリーズ最小のニアフィールド・アクティブ・モニター。4.5インチ径ウーファーにガラス繊維配合の軽量な素材を使うことで、優れたトランジェント・レスポンスを実現している。1.9インチ径のX-ARTツィーターは折りたたまれたダイアフラムがひずみを抑制し、ピストン型のツィーターよりも有効面積が広いためダイナミック・レンジも豊かに。長時間の使用でも耳が疲れにくいよう設計されている。フロント・パネルにはバスレフ・ポートがスタンバイ。その間にはボリューム・ノブと電源スイッチが配置されている。

 

【SPECIFICATIONS】
▪周波数特性:60Hz~50kHz ▪最大音圧レベル:106dB SPL(ペア@1m) ▪全高調波ひずみ率:0.8%以下 ▪クロスオーバー周波数:2.8kHz ▪アンプ合計出力:低域25W、高域25W(RMS) ▪重量:5kg ▪外形寸法:150(W)×252(H)×185(D)mm
 

高域が奇麗で押し出し感もあるA3X
低域はサイズ以上の迫力を感じる

 次に試すのは、4.5インチ径ウーファーを装備するA3X。同社AXシリーズの中で最もコンパクトなモデルに対して、氏はこう語る。

 

 「全体の印象としてはT8Vと似た傾向です。フラットなサウンドで、かつスウィート・スポットが広い。高域が奇麗で、すごく心地良いですね。中域が豊かに鳴ってくれるので、押し出し感もあります。アタック感や骨格もしっかりしている印象です。サイズが大きいT8Vの方が立体感はありますが、A3Xでもしっかり奥行きを見ることができます。サウンドもA3Xの方が良い意味でコンパクトな印象。決してデフォルメされているという感じではなく、あくまで自然な音色は保ったまま締まって聴こえるんです」

 

 自宅などのコンパクトな制作環境で使うモニター・スピーカーとして、A3Xのサイズ感はぴったりだろう。しかし、小さい口径のウーファーだと低域の再生が難しくなってくることが多い。そこで飛澤氏は壁側にA3Xを寄せて、ホーム・スタジオでの使用を想定した試聴も行った。

 

 「こうして壁に寄せるだけで低域感を増やすことができますから、自宅の環境でもポンとA3Xを置くだけで迫力あるサウンドが得られそうですね。前面のバスレフ・ポートから空気がどっと出るので、サイズ以上の迫力を感じました。物理的に低域を感じさせるようなイメージですね。こういった部分で、ウーファーのサイズ感を補っているのかなと思います。また、小さな音量にしても低域がやせることはなかったです。自身でミックスをするトラック・メイカーなどに向いているスピーカーだと思います」

 

 今回試したT8VとA3X、そして今まで聴いてきたADAM AUDIOのスピーカーに共通して感じるのは、やはりスウィート・スポットの広さだと氏は話す。

 

 「どこに居てもしっかり聴こえる。それがADAM AUDIOのスピーカーならではの特徴だと思いました。バランス感の良さ、そして奥行きと広がりの表現力を持つT8VとA3Xで作ったサウンドは、ほかの再生環境でもちゃんと鳴ってくれるでしょう」

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リア・パネルには、アナログ入力(XLR&RCAピン)とステレオ・リンク入出力(RCAピン)を配備。その下のノブでは、ツィーターの出力レベルを-4~+4dBの範囲で変更できる

製品情報

www.adam-audio.jp

ADAM AUDIO T8V

 

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▪周波数特性:33Hz~25kHz ▪最大音圧レベル:118dB SPL(ペア@1m) ▪全高調波ひずみ率:0.5% ▪クロスオーバー周波数:2.6kHz ▪アンプ合計出力:低域70W、高域20W(RMS)▪重量:9.8kg ▪外形寸法:250(W)×400(H)×335(D)mm

 

www.adam-audio.jp

ADAM AUDIO A3X

 

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▪周波数特性:60Hz~50kHz ▪最大音圧レベル:106dB SPL(ペア@1m) ▪全高調波ひずみ率:0.8%以下 ▪クロスオーバー周波数:2.8kHz ▪アンプ合計出力:低域25W、高域25W(RMS) ▪重量:5kg ▪外形寸法:150(W)×252(H)×185(D)mm

 

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