PUNPEE 〜ミュージシャンとエンジニアの間に生まれる“アクシデント”を楽しむのもミックスだと思うんです

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ヒップホップをバックグラウンドに持つビート・メイカーとして、RHYMESTERやSEEDA、TOWA TEI、tofubeats、後藤正文、宇多田ヒカルといったビッグ・ネームにトラック/リミックスを提供してきたPUNPEE(パンピー)。2017年の1stソロ・アルバム『MODERN TIMES』でアーティストとしての知名度も上げ、星野源との共演なども話題となった。その彼が7月に5曲入りのEP『The Sofakingdom』をドロップ。リード曲「夢追人 feat. KREVA」のように1990年代のヒップホップを思わせるサウンドからトラップ・テイストのものまでバリエーション豊かに収め、キャッチーながら随所に音楽通をうならせる仕掛けをちりばめている。自らのラップ&ボーカルを含め、プロダクションの大部分を自身のスタジオで行ったという本作について、話を聞く。

Text:Tsuji. Taichi Photo:Hiroki Obara

 

打ち込みながら音作りできるのが
Pro Toolsを使う理由の一つ

ー録音やトラック制作の大半を自身のスタジオで行ったのは、何かコンセプチュアルなものだったのでしょうか?

PUNPEE 3年前の『MODERN TIMES』も自分のスタジオで作ったし、そもそも宅録は中学2年くらいからやっていて。父親が4trのカセットMTRを持っていたので、初めはそれを使っていました。その後FOSTEXの8tr HDRを買ったんですが、外付けのMDドライブにミックス・ダウンする仕様だったから、MDに落としたものをカセットにダビングして量産していました(笑)。当時は自分ちでCDを作ることにあこがれていましたね。それでYAMAHA AW16Gを手に入れて、“最強の機材だ”と思って、2009年くらいまで使っていました。

 

ーCD-Rドライブを標準搭載した16tr HDRですね。

PUNPEE はい。だから“機材を使って自分で作品を作る”ってことは長い間やってきたし、寝る間際に新しいアイディアがひらめいて延々とやってしまうようなこともあるけれど、そういう経験から多くを学んだのかなと。

 

ー現在はDAWを使っているのでしょうか?

PUNPEE AVID Pro Toolsです。前はAKAI PROFESSIONAL MPC2000XLでビートを組んでいましたが、Pro Toolsに直接サンプリングしてループさせるようになり、今ではほぼ全部Pro Toolsですね。“グルーブならMPCだろ”とも思っていたんですけど、よく考えたらリアルタイムに打ち込んだ後、MIDIの数値を直していたなと(笑)。だからPro Toolsでも自分のノリは出せると思います。パッドをたたき間違えて予想外のビートが生まれるような“事故”はMPCならではのような気がするし、それを求めて使うことは今もあります。

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ホーム・スタジオのデスク。メイン使用のDAWはAVID Poolsで、モニタリングはGENELEC 8030Cで行っている。ミックス・チェックには、APPLE AirPodsなどのコンシューマー機も使うという

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PUNPEEはUNIVERSAL AUDIO UAD-2プラグインの愛用者で、オーディオI/OのApollo Twin(写真右)とDSPアクセラレーターUAD-2 Satellite Thunderbolt(同左)を合わせて6コアで運用中

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AKAI PROFESSIONAL MPC2000XLは、かつてのメイン・ビート・ギア。予想外のフレーズを求めて現在も使うことがあるという。データの記録先は外付けのMOドライブ

ートラックは、どのような手順で作るのでしょう?

PUNPEE ネタとか弾きのピアノとかを最初に決めて、リズム隊を足して構成を組んでから、細かい音を入れていくような感じ。ネタについては、YouTubeで探してDiscogsで買うという流れが最近の自分のはやりかもです。旧ソビエトのレア・グルーブを紹介するチャンネルとかを見付けて、やっべー!ってなって日本では買えなさそうなものをDiscogsで当たる。で、レコードが届いたらネットに上がっていなかったB面が最高だったってこともあるから、そこでまた新しい発見がありますよね。

 

ードラム素材もサンプリングによるものでしょうか?

PUNPEE 基本、ワンショットとかを使います。あとBL氏(編注:ビート・メイカーのBACHLOGIC)からもらったサンプルを使ったりもしますね。2008年ごろ、パソコンを組んでもらったりドラムのサンプル集を譲ってもらったり、大分お世話になりました。サンプル集めは自分でもやっていて、昔のサンプリングCDから良いものを拾ったりするうちに、オリジナルのライブラリーができました。そこから選んだり、ネットから無料のキットを落として使ったりもします。

 

ーワンショットをPro Toolsの編集ウィンドウに張り付けてビートを組んでいくのでしょうか?

PUNPEE いや、NATIVE INSTRUMENTSのBatteryで打ち込んでいます。“Drum”っていうトラックを作ってキックもスネアも一切合切、打ち込んでいくんですが、個別に音作りしたくなったらトラックを複製して、単体で扱えるようにする。だからBatteryの数は多くなりますね。毎回5台くらい立ち上げていますが、動作が軽いので問題ないんです。

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8030Cの手前にあるのは、打ち込みに使うMIDIコントローラーAKAI PROFESSIONAL MPK Mini

ードラムの音作りには、どのようなエフェクトを?

PUNPEE WAVES Renaissance Bassでキックの低域を強調したり、Doublerでスネアを左右に広げたり、たまにDADA LIFE Sausage Fattenerとかの飛び道具を使ったりもします。打ち込みながら音作りするというのは、MPCではなかなか難しかったので、そこはPro Toolsに分があるなと。曲のイメージが見えやすくなるし、Pro Toolsに移行した理由の一つでもあります。あとビット・クラッシャーもよく使いますね。例えばハイハットにAIR Lo-Fiをかけたり。

 

ーEP後半の曲「Operation : Doomsday Love」は、中盤で突如、ローファイな音像に変わりますよね。

PUNPEE そう、あの部分のベース・ループにLo-Fiをかけているんです。サンプル・パックのループを使うのは初めてだったんですが、ビットを落とすことでE-MU SP1200みたいな質感にしていて。ハイハットにも使っているはずで、サイプレス・ヒルとかハウス・オブ・ペインなどの90'sヒップホップのようにしたいときに重宝しています。時間がかかりましたけどね、ビット・クラッシャーでSPっぽくできるんだ!と気付くまでに。あと、MATHIEU DEMANGE RX950というプラグインも同じセクションで使いました。

 

ーAKAI PROFESSIONALのオールド・サンプラー、S950のAD/DAをシミュレートしたものですね。

PUNPEE KREVAさんに教えてもらったんです。常にたくさんのプラグインをチェックされていて、本当にすごいと思います。今回、良いものをたくさん教えてもらいました。

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90’sヒップホップのようにオールドな質感を加えたいときに使用しているビット・クラッシャー、AIR Lo-Fi

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WAVES Doublerは、スネアやボーカルなどにステレオ感を与えるために用いられた

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キックの重心を調整するために活用している低域エンハンサー、WAVES Renaissance Bass


星野源さんの「Pop Virus」を聴いて
ボーカルの音作りに圧倒された

ーラップやボーカルもご自身のスタジオで?

PUNPEE KREVAさんや5lackからは録音済みのファイルを送ってもらいましたが、自分の声は自分でレコーディングしています。簡易防音室からAPPLE iPadでPro Toolsを遠隔操作しながら録りました。macOS 10.15からSidecarという機能が付いて、iPadをMacにUSB接続するとニアゼロ・レイテンシーで操作できるんです。マイクはJZ MICROPHONES Flamingo Standardで、プリアンプはAURORA AUDIOのGTQ2 MarkIII。その後段にUREI 1176LNもしくはSPL GoldMike MK2のリミッターをかけてから録っています。GoldMike MK2はBL君に売ってもらったもので、SEEDA君の『花と雨』というアルバムで使ったらしく、それなら最高に違いないと思って買いました。

 

ー1176LNとは、どのように使い分けている?

PUNPEE 1176LNは、たまに強くかかり過ぎることがあるんです。ラップはそれでいいんですが、歌には滑らかなコンプが欲しいときもあるので、その際にGoldMike MK2を使います。ちなみに1176LNは、『MODERN TIMES』などでご一緒したエンジニアのillicit tsuboiさんから薦められたんです。“オリジナルの実機も買えば”って言われて(笑)。tsuboiさんからはいろいろ教えてもらっていて、さっきのFlamingo Standardもそうですね。

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アウトボード・ラック。上からDBX 160X×2、SPL GoldMike MK2、EP制作後に導入したばかりのEMPIRICAL LABS Fatso Jr. EL7、A RTのパッチ・ベイを挟んでUREI 1176LN、AURORA AUDIO GTQ2 MarkIIIを収納する

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真空管マイクのJZ MICROPHONES Flamingo Standard。奥の壁面にはAPPLE iPadを埋め込み、Sidecarを介してPro Toolsの遠隔操作が可能。ヘッドフォンはPHONON SMB-02

ー今回のEPは、渡辺省二郎さんがミックスを手掛けています。オファーは、どういった動機からだったのですか?

PUNPEE 星野源さんの「Pop Virus」を聴いたときに、冒頭の声の出音に驚いたんです。めちゃくちゃ乾いていて、前に出てくる感じで、これはすごいと。周りのヒップホップを聴いてるような人も、みんな“すごい”って言っていて、一体どんな人がミックスしているんだろう?と。

 

ー「Pop Virus」は渡辺さんがミックスしていますよね。

PUNPEE そうなんです。で、折良く星野さんからフィーチャリングのオファーをいただいて、その曲のミックスを手掛けてもらえることになって。

 

ー「さらしもの(feat. PUNPEE)」での客演ですか?

PUNPEE はい。そのミックスを聴いたときに“今までとは違う自分を引き出せるかも”と思って、自分の次の作品では絶対にお願いしたいなと。

 

ー渡辺さんの音作りは、いかがでしたか?

PUNPEE 声の空気感というか、持ち上げ方がすごいと思いました。息遣いまで分かるような感じになったし、アウトボードによる自然な倍音が付加された印象ですね。あと、ボリュームのエディットが細かく行われていると思うんです。例えば“あ”と歌った個所があったら、その終わりの部分を少し持ち上げていたり。そういう調整にも“省二郎さんイズム”みたいなものがあるんじゃないかって思いますね。

 

ーセルフ・ミックスでは難しい部分なのでしょうか?

PUNPEE やっぱり限界はあるかもしれないですね。でも音を整えてもらうという目的以上に、ミュージシャンとエンジニアの間で起こる“アクシデント”を楽しむというのもミックスだと思っていて。“あれ? 俺はこういうの意図してなかったけど格好良いじゃん!”と思えるような瞬間ですよね。

 

ー仕上がりについては、いかがでしょう?

PUNPEE 『MODERN TIMES』とはまた違う感じの良さになったので、すごく良いんじゃないかと思います。また今回、曲のキャラクターに合わせて依頼するエンジニアを考えるという、新しい気付きがありました。僕は昔からレコードのクレジットを見るのが好きだったし、裏方と呼ばれる方々の名前を見てアガる人も世の中にはたくさん居るでしょうから、そこまで含めて共有できたらいいなって思いますね。

 

Interview : 渡辺省二郎

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いわゆるJポップとは違う視点の作品で
トラックの独特さなども面白いと思うんです

『The Sofakingdom』のミックスを手掛けた渡辺省二郎氏。これまでに星野源、OKAMOTO'S、東京スカパラダイスオーケストラ、井上陽水、佐野元春など数多くのアーティストに携わってきたエンジニアだ。PUNPEEは、カニエ・ウェスト『ザ・カレッジ・ドロップアウト』やジェイ・Z『4:44』のオールドスクール×モダンなサウンドをイメージしていたというが、実際のミックス工程はいかなるものだったのか? 渡辺氏に尋ねてみる。

 

送ってもらったセッションを
ミックスに適した形へと整理

ー今回はホーム・スタジオと音響ハウスを併用したと伺いましたが、前者はどのような環境なのですか?

渡辺 APPLE Mac Proを2台持っていて、レコーディング・スタジオと全く同じAVID Pro Tools環境で作業できるようにしているんです。UNIVERSAL AUDIO UAD-2プラグインは8コアのUAD-2 Satellite Thunderboltを2台使って動かし、モニター・スピーカーはTANNOYの同軸ユニットをMANLEYのエンクロージャーML10に入れたものなど計3種類を使っています。それらもスタジオと同じですね。異なるのはオーディオI/Oで、自宅ではFOCUSRITE Red 4Preを使用しています。アウトボードは使わないんですよ。

 

ー今回のEPは、どのような手順でミックスしましたか?

渡辺 PUNPEEさんからはPro Toolsのセッション・ファイルを送ってもらったので、それをミックスに適した形へ整理するところから始めました。例えば、フェードが必要と思われる部分に書き込んだり、クリップ・ゲインでの音量調整をボリューム・オートメーションに置き換えたり。クリップ・ゲインはプラグインの前段で作用するものなので、それで上げ下げをしているとコンプレッションにバラつきが生じるんです。もちろん、そのままにしておいた部分もあったから、ケース・バイ・ケースなんですけどね。あと、彼が使っていたANTARES Auto-Tuneなどが僕の手元にあるものとバージョン違いだったため、そういうトラックはオーディオに書き出してもらえるようお願いしたり。EQやコンプは、よほど大きな変化を加えているものでなければ、アウトボードで調整し直すためにオフにしておくなどしました。以上の作業は自宅で行いましたね。

 

ーその後は音響ハウスに移っての作業だったのですか?

渡辺 はい。まずはパラの素材をSSL SL4064Gに立ち上げて、アウトボードで音決めをしたんです。それで8~9割できたと思ったら、すべての音をパラでPro Toolsに録っていく。それを自宅に持ち帰って、各トラックの音量の上げ下げやプラグインでの処理を行いました。後日、スタジオに戻ってからは最後の仕上げです。調整されたモニター環境で聴いて、きちんとしたバランスになるよう微調整しました。このときはPro Toolsの中で個々のバランスを取り、トータルにサミング・ミキサーのKAHAYAN Epsilon 32-500やステレオのアナログ・コンプSMART RESEARCH C1を使っています。KAHAYANに入力するのは、多いときでステレオ10系統くらいだったと思います。C1の後はPro Toolsに戻したのですが、プラグインでさらにトリートメントして、その信号をファイナルとして録音しました。

 

ー曲のサウンド・キャラクターが、ある程度決まった状態での納品だったかと思います。そういった素材に対して、どのような指針で臨んだのでしょう?

渡辺 ご本人のオーダーを伺った上で、自分の抱いた印象と掛け合わせながらゴールに向かっていった感じです。彼の目指す雰囲気やにおいを壊さないことが大前提でしたが、オーディオ的により心地良くしなければならないし、第三者的な視点を入れていくのも大事でした。

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音響ハウス Studio No.6に置かれた渡辺氏のモニター・スピーカー。外側から、TANNOYの同軸ユニットをMANLEYのエンクロージャーML10にビルトインしたもの、YAMAHA NS-10M Studio、AURATONE 5C。これらに加えSONYのラジカセも使ってミックス~チェックを行ったという。NS-10M Studioや5Cが載っているのは、ミックスに使用したアナログ卓SSL SL4064G

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渡辺氏所有のアウトボード。写真上に4台あるのはコンプ/リミッターのLA-3Aで、上段2つがTELETRONIXブランド、下段2つがUREIブランドのもの。PUNPEEのボーカル・コンプレッションなどに活用したという。これらの下の白い機材はINWARD CONNECTIONS Vac Rac 4000のEQやリミッター

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こちらも渡辺氏のアウトボードで、写真中程のUREI 1176LNの上には、水色パネルのディエッサーORBAN 536AやグラフィックEQのAPI 560など、PUNPEEの声に使用した機材がある。1176LNの下に見えるオレンジ・ノブのモジュールはNEVE 2264。2264Xと2264Aといった末尾違いのものを2台ずつ用意

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写真中央のEMPIRICAL LABS Distressor EL8はドラムへのコンプレッションなどに使用。その下にはDBX 160やNEVE 2254がマウントされている

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Epsilon 32-500へ入力する前には各グループ・トラックにサチュレーション・プラグインをかけ、Epsilon 32-500の内部でよりレベルが安定するような処理が行われた。写真上段は、そのサミング後に使用されたコンプSMART RESEARCH C1

ビンテージ・コンプが優れているのは
倍音まで一定にできるところ

ーどのトラックから音作りをし始めたのですか?

渡辺 いつもと同じでボーカルからです。まずはソロで聴きながら卓のEQをかけて、コンプも加えていく。PUNPEEさんの声にはTELETRONIX LA-3Aを使いました。その後段にディエッサーのORBAN 536Aを使用し、グラフィックEQのAPI 560で調整してから卓に戻したんです。アウトボードを使うのは、慣れているからというだけでなく、“この音には、あのコンプのアタック・タイムの特性が合うんじゃないか?”などと思うことがあるからです。また、特にビンテージのコンプが優れているのは、倍音まで一定にできるところ。基音のレベルはもちろん、倍音もならされて聴こえるんです。だから、オケの中で歌がバラつき無く抜けてくる。

 

ー例えば「GIZMO (Future Foundation)」は非常に要素の多い曲だと感じますが、歌が抜けて聴こえるのは倍音の一定化によるものなのでしょうか?

渡辺 それだけではないと思います。ただ、歌から音作りすることで、オケの音数が多くても抜けてきやすいというのはあるでしょうね。常にボーカルを鳴らしながらやっているので、そこをマスキングしないバランスになるという。

 

ー「夢追人 feat. KREVA」は、センターからドライに迫るラップと左右に広がるフックの歌の対比が印象的です。

渡辺 フックに関しては、WAVES Reel ADTでステレオ化させることが多かったんです。もともとのセッションでは大抵、WAVESのDoublerが使われていたのですが、広がりを付与できればいいというお話だったので、Reel ADTをかけてステレオの片方にオリジナル、もう片方にエフェクトの信号を振っています。Reel ADTは、フェイズっぽくならないのが良いですね。オケ中でリアルにダブルっぽく聴こえる。

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WAVES Reel ADTは、ボーカルを左右へ広げる目的で活用。最近導入したそうで、位相がズレたような音にならないところが気に入っているという

ーラップには、どのような処理を?

渡辺 SOUNDTOYS MicroShiftで、ステレオの左右にピッチの違う信号をほんのちょっと足しています。ルーム感がギリギリ出ないところまでかけて、完全にドライではなく、ちょっと不思議な感じにしたんです。

 

AUDIOMOVERS Listentoを使用し
“リモートでの立ち会い”を行った

ーボーカルの後は、どのパートに進んだのですか?

渡辺 歌はオケと混ぜながら最終的な立ち位置を探っていくのですが、フェーダーを上げる順序としてはキックが次で、その後ほかのドラム・パーツも足していきます。ドラムに関しては、卓でEQしてからNEVE 2264でコンプレッションすることが多かったと思います。2264Xと2264Aという末尾違いの機種を計4台持っていて、ドラムの中で重要と思われるパーツに使いました。卓へ立ち上げる前にかけたプラグインもあって、例えばWAVES Renaissance Bassでキックのローエンドを伸ばしていたりする。PUNPEEさんと話し合いながら、あんばいを決めた部分でもありますね。

 

ー立ち会いのミックスだったのですか?

渡辺 最終日以外リモートでした。AUDIOMOVERS Listentoというプラグインをマスターの最終段に挿して、ミックス中のサウンドを彼の元へストリーミングしていたんです。リアルタイムに意見をもらえるので、E-Mailでファイルをやり取りするよりもずっと効率的です。音質調整もできるしね。

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渡辺氏がPUNPEEとのリモート・コミュニケーションに使った音声ストリーミング用のプラグイン、AUDIOMOVERS Listento。オーディオ・クオリティを選択でき、16ビット PCMか24ビット PCMで運用したそう

ードラムに関しては、「夢追人 feat. KREVA」で聴けるようなサチュレーションも興味深いです。

渡辺 あの曲は当初、キックとスネアが同じトラックにまとまっていたので、クリップを切り分けて個別に処理したんです。サチュレーションと感じるのは、キックとスネアの両方にかけたTONE EMPIRE Goliathの効果だと思います。

 

ーひずみ系のプラグインですね。

渡辺 ひずませるというよりは、倍音を加えて中域の張りを出す狙いの方が大きいですね。Goliathのほか、2264Xでのリミッティングなどもスネアの輪郭を際立たせたりするのに貢献していると思います。

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ドラムなどに倍音を付加するために使用されたサチュレーション・プラグイン、TONE EMPIRE Goliath。渡辺氏いわく、デフォルトの設定からMIXノブを20%強まで下げて使うことが多い

ーそうやって音作りしたトラックをホーム・スタジオでさらに調整し、最後に音響ハウスで仕上げたのですよね?

渡辺 はい。KAHAYANとC1については既に話した通りで、C1以降は再びPro Toolsで音作りをしました。FABFILTER Pro-Q3やSLATE DIGITAL Infinity EQでバランスを微調整したり、その後にIZOTOPE Ozoneをかけるなどの処理ですね。OzoneではVintage TapeやVintage Limiterを使いましたが、特に良いと思うのは後者です。

 

ーマスタリングはどなたが手掛けたのですか?

渡辺 マスタリング・パレスのケヴィン・ピーターソンさんです。PUNPEEさんから海外でマスタリングしてもらいたいというご相談があって。僕はスターリング・サウンドにお願いすることが多いんですが、今回はヒップホップだから違うところも探してみようと思って、いろいろなエンジニアのマスターを聴いてみたんです。その中でケヴィンさんがダントツだった。とにかく低域の出方が群を抜いて格好良くて、なおかつブライトなんです。そしてベターっとつぶれた感じがしない。まさに期待以上の仕上がりでした。

 

ー最後に直裁な質問ですが、渡辺さんは今回のEP『The Sofakingdom』のどのようなところが好きですか?

渡辺 トラックの独特さですね。サンプル・エディットの仕方なども興味深いし、いわゆるJポップとは違う視点で面白いと思うんです。あとは、曲作りの大半を自分だけでやっていること。それを聞いたときには感心しましたよ。

 

Release 

The Sofakingdom - EP

The Sofakingdom - EP

  • PUNPEE
  • ヒップホップ/ラップ
  • ¥1222

『The Sofakingdom』
PUNPEE
SUMMIT:SMMT-140

  1. The Sofakingdom VR
  2. GIZMO (Future Foundation)
  3. 夢追人 feat. KREVA
  4. Operation : Doomsday Love
  5. Wonder Wall feat. 5lack

Musicians : PUNPEE(vo、rap、prog)、Sugbabe(prog)、Nottz(prog)、KREVA(rap)、5lack(rap)、Aden(k)
Producers : PUNPEE、Nottz
Engineers : 渡辺省二郎、PUNPEE、他
Studios : プライベート、音響ハウス、他

www.summit2011.net

 

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