【Profile】東京を拠点に活動する3人組ヒップホップ・グループ、Dos Monosのラッパー/ビート・メイカー。向井太一をはじめ、DATSやyahyelなどにトラックを提供している。7月24日には、四季をテーマにしたDos Monosの2ndアルバム『Dos Siki』をリリースする。
Release
2015年、東京にて結成された3人組ヒップホップ・グループDos Monos。2018年にはラッパーのジェイペグマフィアなどを輩出するLAのレーベル=Deathbomb Arcからデビューして話題を呼んでいる。同グループの中心人物であり、全楽曲を手掛けているのがラッパー/ビート・メイカーの荘子it。フリー・ジャズやプログレなどからインスパイアされたビートの数々を作り出す、彼の素顔に迫ってみよう。
Text:Susumu Nakagawa Photo:Chika Suzuki
卵パックを天井や壁に張り付けると
想像以上の吸音効果がありました
キャリアのスタート
中学1年のころ、友人の家でエレキを初めて触ったんです。そしたら、ギター・アンプから出たディストーションの効いたサウンドにものすごく感激してしまって……次の日、すぐにギターを買いにいったんですよ。それからニルヴァーナなどのコピー・バンドをはじめ、次第にオリジナルを作るようになったのが中学3年生のころ。ちなみにこのときのメンバーには、現在DATSで活躍しているMONJOEが居ました。僕とMONJOEは偶然にも同じ日にギターを買っていたので、すぐに意気投合したんです(笑)。その後、オーディオI/OのLINE 6 Pod Studio UX1とABLETON Live Liteを使ってレコーディングを始めました。いろいろ触っているうちにLiveで打ち込みができることを知り、どんどん作曲にのめり込んでいきましたね。高校3年生のころ、同バンドは大学受験を控えていたので解散しましたが、自分は受験勉強に意欲的じゃなかったので、一人で黙々と音楽制作を続けていったんです。このとき自分だけで“何ができるんだろう”と考えた結果、ヒップホップのビート・メイカーが良いんじゃないかと思ったんですよ。
ターニング・ポイント
大学では映画について学んでいて、その合間にビートを作ってDATSやyahyelに提供したりしていました。そうしたら、卒業近くに不思議とヒップホップ・グループをやりたくなったんです(笑)。よくできたビートをたくさんストックしていたので、これらを世の中に出したいと思っていました。そこで急きょ中学校時代から縁があった友達、TaiTanと没を誘って2015年にDos Monosを結成したんです。誰もラップをやったことがなかったのですが、自己形成される時期を一緒に過ごした仲間と音楽を作った方が、バイブスが深く通じ合っているからやりやすいと思ったんですよ。
機材の変遷
DAWは長年Liveを愛用しています。高校生のころまでは、Pod Studio UX1を使ってギターやボーカルなどをレコーディングしていましたが、現在はオーディオI/OとしてAPOGEE Element 24を使用していますね。コンデンサー・マイクのAKG C214は、Dos Monosを結成した2015年に購入しました。これまでの作品に登場するすべてのラップを、これで録っています。若干高域が強い印象がありますが、チャンネル・ストリップのUNIVERSAL AUDIO LA-610 MKIIと組み合わせるとマイルドな音質になるのでちょうど良いんです。
モニター環境
モニターはBEHRINGERのスピーカーから始まり、ADAM AUDIO A7Xを経て、現在はワンランク上のADAM AUDIO S2Xに落ち着きました。S2Xは周波数特性が幅広く、音圧も高いので制作時は爆音でモニタリングしています。クラブ鳴りを再現するために、ONKYOのサブウーファーSL-D501も2基導入しているんです。ヘッドフォンのSENNHEISER HD630VBは、細かいところを確認するときに使っています。スタジオの天井や壁に卵パックを張り付けたのは、吸音が目的です。これが想像以上に効果的で、気になっていたスタジオの反響音が一瞬で変わりました。とてもお勧めなので、Webショップなどで探してみるとよいでしょう。
サンプリングにこだわるのは
自然と音に“汚し”が付与されるから
ビート・メイクのインスピレーションと手順
やっぱりレコードを聴いて、そこからインスピレーションを得ることが多いですね。ギターをやっていた時期が長いので、上モノのメイン・フレーズやリフを考えてから、曲に展開していくんです。あるいは散歩中にひらめいたメロディを、後日レコードからサンプリングしたオーディオ・ファイル同士でコラージュして再現してみたりすることもあります。ソフト音源で弾くよりも、レコードをサンプリングした方がケーブルを通るし、ターンテーブルの回転音やモーター音、スクラッチ・ノイズなどの“汚し”が自然と付与されるので味が出るんです。あと、サンプリングすることによって自分の想定以上のフレーズを発見できたりする“偶然性”もあるので、それも醍醐味ですね。
上モノのこだわり
こだわりは、レコードからサンプリングしたオーディオ・ファイルの処理と質感。これにはABLETON Liveの“ワープ機能”が欠かせません。読み込んだオーディオ・ファイル上に自動配置された複数のマーカーを用いて、自由にタイム・ストレッチを行うのですが、正直、これでめちゃくちゃ遊んでいます(笑)。また、タイム・ストレッチによって生まれるデジタル特有のギザギザした質感が良いんです。そもそもサンプリングしたオーディオ・ファイルには、レコード特有の質感やアナログ・ノイズが含まれています。そのため、“アナログとデジタル”の2つのノイズの融合が、一つのオーディオ・ファイル上に同時発生するんですよ。このサウンドを僕は日々追求しています。
グルーブの秘けつ
上モノを最初に作ってそこにキックとスネアを合わせること。DAWのグリッドには従わず、クオンタイズもせず、あえて上モノに引きずられたリズムを作ることによって、独特のグルーブや面白いリズムが生み出せるのです。以前はMIDIコントローラーのAKAI PROFESSIONAL MPD32を使用して手打ちで入力したりもしていましたが、近年は完全にコンピューターのキーボードをパッド代わりに使って、マウスでオーディオの位置を微調整しています。
使用ソフト音源とプラグイン
ドラムには、レコードからサンプリングした音を基本的に使います。キックには、ソフト・サンプラーのNATIVE INSTRUMENTS Battery 4に内蔵されたROLAND TR-808系のキック・ベースをレイヤーし、さらにWAVES Renaissance Bassでローエンドを補強しているんです。スネアも同様にレイヤーすることが多いですね。ベースは、サンプリングの上モノに含まれているときは、そのサンプルを複製し、ローパス・フィルターを使ってベースの部分だけ抽出します。逆に低域成分の少ない場合は、ソフト・シンセのNATIVE INSTRUMENTS Massive Xや、XFER RECORDS Serumでシンセ・ベースを足したりしますね。あとは、SPECTRASONICS Omnisphere 2を上モノに重ねることも多いです。“こんな音を足したら面白いだろうなあ”という音色をプリセットから見付けたら、トラックに飾りを付けるような感覚で重ねていきます。
今後の展望
フランク・ザッパ『Jazz From Hell』のような、“オーケストラ的壮大さと打ち込みビートが融合した音楽”を僕なりに表現していきたいです。今はヒップホップ・マナーの“ループ”という手法を取り入れていますが、以前はもっと複雑な展開の曲も作っていたので、あらためてチャレンジしたいと思っています。
自分を形成する3枚
「彼は、僕が音楽制作を始めたときのヒーロー。誰が何と言おうと、彼の最高傑作はこれだと思います。自分も誰かにインスピレーションを与えるアルバムを作りたいですね」
「キャプテン・ビーフハートの狂気とフランク・ザッパの知性の融合作。中学高校時代はさまざまな音楽を掘っていましたが、いまだにこの作品は自分の頭から離れません」
「ヒップホップの可能性をこの作品で学んだ気がします。サンプリングを軸とした現代のブーンバップは、すべて本作への注釈という史観で生きていますね(笑)」
自分のNo.1プロデューサー
ジョン・フルシアンテ
彼は米国のアーティスト/プロデューサーで、レッド・ホット・チリ・ペッパーズのギタリストとしても知られています。そもそも、僕が最初に興味を持ったのはギターでしたが、彼の音楽のおかげでエレクトロニカなど、ロック以外の音楽も聴くようになりました。また、シンセやエンジニアリングなどに関心を持つきっかけを与えてくれたのも彼。まさに、彼の音楽と出会っていなければ“現在の自分は無い”、と言っても過言ではないでしょう。
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