
UADプラグインはマスターにインサートできる
僕らエンジニアにとっては扱いやすいツール
高性能なDSPの処理能力を生かして専用プラグイン・エフェクトを動作させるUNIVERSAL AUDIO UAD-2。ハードウェアの選択肢とプラグインの種類が年々増えており、音にこだわるプロはもちろん、手軽に導入したいアマチュアにもUADのもたらす恩恵は図りしれないものとなっている。この連載では、そんなUADの“今”をとらえていくことにしたい。初回に登場いただくのは、レコーディング・エンジニアの渡辺省二郎氏。アナログ機材にこだわってきた氏の最新スタイルでも、UADプラグインが活躍しているという。
UAD-2 Octo×2台をスタジオと自宅で運用
渡辺氏と言えば、佐野元春、東京スカパラダイスオーケストラ、星野源、スキマスイッチ、井上陽水、安藤裕子、SILENT POETS、BRAHMAN、OKAMOTO'Sなど、あらゆるジャンルのアーティストから引く手あまたのエンジニア。DAW全盛となった昨今でも、コンソールとアウトボードでミックスするのが氏のスタイルだった。しかし、ここ1年ほどで、自身が“ハイブリッド”と呼ぶ方法に切り替えたという。
「ミックスでは8〜9割コンソールとアウトボードで音を作る。それが大前提です。プラグインはほとんど使わずに、全体のサウンドの方向性としてこれでいいなというところまで仕上げます。あとはレベルの上げ下げと、リバーブなどのエフェクトという段階まできたら、コンソールのダイレクト・アウトからAVID Pro Toolsにパラで録る。ポストフェーダーの音をそのまま出して、コンソールのサイズに合わせて48〜64trくらいのパラデータを録って持ち帰ります。それから歌のレベルの上げ下げや音色のさらなる微調整、リバーブ/ディレイの調整などをPro Tools内でやっています。それが今の俺のスタイルです」
渡辺氏がこのスタイルに切り替えた理由は2つ。一つは、ミックス時間の短縮によって、スタジオ代を圧縮し、予算が十分に取れないセッションにも対応できるようにすること。もう一つは“ちょっとだけボーカルを上げてほしい”などといった修正希望への対応だ。
「コンソールでもリコールはできますが、手間がかかる。それでクライアントが修正希望を遠慮してしまうのは申し訳ないですから」
こうした手法を用いるため、Pro Toolsのトラック数は単純計算で倍になる。もちろんいったん取り込んでしまえば元トラックは非使用にできるが、96kHzセッションでは相当な負荷になるそう。UAD-2 Satellite Thunderbolt Octoを2台使用しているとのことだが、最終的にはそれぞれ50〜60%のDSP使用率だという。
「自宅作業用にも別のUAD-2 Satellite Thunderbolt Octoが2台あるので、全部で4台使っています」
インサートしただけでは音量や音質が変わらないのが良い
そんな渡辺氏がよく使っているUADプラグインについては後ほど語っていただくが、UADプラグイン全体について共通する特徴があるのか尋ねてみた。
「一般的には、わざと派手めに作っているプラグイン……インサートしただけで音色や音量が変わってしまうというものが結構あるんです。でもエンジニアとしては、インサートしただけで変わられると困るところもあります。まずは普通に出してほしい。UADプラグインはそういう変化が無いので、僕らエンジニアにとっては扱いやすい。そういう意味では、UADプラグインはマスターにもインサートできる。入れただけで音の重心が変わってしまうようなプラグインだと、せっかくそこまでミックスで積み上げてきたものが無意味になってしまいますからね」

渡辺省二郎のUADプラグイン5選
API 560 Graphic EQ

「UADプラグインの中でも最もよく使うのがこのAPI 560。重要なトラックにはほとんど入れています。ほんの少しだけこの周波数ポイントを上げたい/下げたいというのに重宝します。もちろん基本的な音作りは卓とアウトボードでしているのですが、最終的な仕上げの段階で微調整に便利です。グラフィックEQはQが狭いので、そのポイントだけ上げ下げできる。それによって音量感を変えずに音色だけ調整できるのがメリットですね。560は実機も6ch分持っているのですが、それでも足りないこともあります。プラグインだと実質無制限に使えるのが便利です」
UA 610-B Preamp & EQ

「API 560の次によく使っているのは610-B。ゲインを上げる場合もありますが、基本的にインサートするだけです。このプラグインはハーモニック・ディストーションを付加しているんだと思いますが、そのかかり方がナチュラル。ハーモニック・ディストーションが加わると音の重心が上がってしまうことがよくありますが、付加しつつも重心が上がらないのが優れたところです。その点はAPI 560も共通しています。他社のプラグインでは、ハーモニック・ディストーションによって定位があいまいに感じられるものもあるのですが、UADでは定位感が定まったまま、ハードウェアのように音像が前後に位置するんです」
Ampex ATR-102 Mastering Tape Recorder

「テープに“パワフルで音圧が高い”というのを望む人には効果が分かりづらいかもしれませんが、よく再現してあるなと思いますね。実機を知っている人間としては、テープ・シミュレーターの中では1位。これは楽器にも、トータルにも、リバーブの後段にも、いろいろ使えます。テープに“250”を選ぶと、中域から中高域にかけて音が密集しているような感じが出てくれます。ATR-102の実機はSTUDERに比べてトラブルが起きやすいという弱点がありましたが、プラグインはそこを克服してくれているのもポイントです」
EMT 140 Classic Plate Reverberator

「いろいろなプレート系プラグインの中でも一番実機に近いですね。現代的なリバーブのような派手さはありませんが、よくできている。使用するモデルはデフォルトのB。リバーブ・タイムとプリディレイだけ調整する、EMTの実機と同じような使い方をしています」
MXR Flanger/Doubler

「よくダブとかでシュワーっとかかるような、リバーブとフランジャーを組み合わせた音が好きなんです。YAMAHA REV7のプリセットに“REVERB FLANGE”というのがあるのですが、それを自分なりに再現したプラグインの組み合わせでこれを使います」
UADとは?
DSPアクセラレーターのUAD-2ユニット上で稼働するプラグイン・エフェクト・システム。90種類以上の高品位な対応エフェクトをコンピューターに負荷を与えることなく使用できるのが特長だ。最新設計のオーディオ・インターフェースにUAD-2機能を搭載したApolloシリーズもラインナップされ、複数台のUAD-2/Apolloを同時に使用することも可能。各プラグインはUNIVERSAL AUDIOの公式サイトで購入できる。



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