現場で真価を発揮するBOSE F1 System ③東京音響通信研究所

2015年秋に発売されたBOSEのポータブルPAスピーカーF1 System。垂直方向のカバレージ・パターンを4タイプに調整できるフレキシブルアレイ・テクノロジーを搭載したF1 Model 812と、これと完全にマッチするサブウーファーF1 Subwooferを組み合わせたパワード・システムは、瞬く間に話題となった。昨年にはModel 812のパッシブ・モデルも発売。デビューから1年が過ぎたF1 Systemは徐々に現場に浸透しつつある。そんなF1 Systemの導入事例を紹介するレポート、今回は50年以上の歴史を誇る老舗カンパニー、東京音響通信研究所(東京音研)で話を伺った。

400席のホールでも余裕のあるパワー

ドームやアリーナ・クラスのPAをはじめ、さまざまな音響を手掛ける東京音研。倉庫には、大型ラインアレイを筆頭に無数のスピーカーが出番を待っている。その一角に加わったF1 System。その今までに無い見た目にインパクトを受けたのが導入のきっかけとなったと木島武彦氏が語る。

「我々も音楽PAだけでなくホテルや企業イベントなどの音響を担当することもあり、今どき3本脚スタンドのポイントソース・スピーカーよりも、F1のようなデザインのものの方が喜ばれるだろうなと思って導入したんです。スタンドに脚をひっかける危険も無いですし、デザインの良いスピーカーは音も良いように見えますから(笑)。もちろん試聴も重ねて、このサイズにしては相当パワーがあるということも分かり、導入に至りました」

イベント現場にF1 Systemを繰り返し持ち込む中で、「社内でも使うエンジニアが増えてきて、これは使えるねという声が増えてきた」と木島氏。次第に音楽PAにもこれを使いたいと考えるようになったという。実際の使用例を話してくれた。

「僕が担当しているアコースティック・フォーク・トリオで、キャパ400席くらいの会場に持ち込んでみました。もちろん再生内容にもよりますが、F1はパワーに余裕があるし、ボーカル帯域が奇麗に出ます。サブウーファーは口径が小さい分タイトな出音で、それが好きですね。Jポジションにして少し内振りにすればステージ付近の席もカバーできるので、インフィルも要りませんでした」

これまでこのグループのPAでは、片側につき12インチ・ウーファーのフルレンジ×4本+サブウーファー×2本をトラックに、小さめの会場ではフルレンジ×2本ずつをバンに積んで搬入していたという。

「F1 Systemの規模感だと、パワーはその2セットの中間ですが、各エンクロージャーは片手で持てる重量ですから、セットアップは圧倒的に速いです。先述した400席程度の会場やホテルのディナー・ショウなどでは、卓で十分レベルを振らせるようにすると、F1側は少し音量を絞るくらいでした。まだ余裕はあると感じましたね」

木島氏がホールに持ち込んだF1 System。客席数400ほどで、ステージの端に設置している。F1 Model 812の下部ユニットを下向きにした“Jポジション”と併せて、やや内振りにしたことで、インフィル無しでも客席をカバーできたそう(写真提供:木島武彦)木島氏がホールに持ち込んだF1 System。客席数400ほどで、ステージの端に設置している。F1 Model 812の下部ユニットを下向きにした“Jポジション”と併せて、やや内振りにしたことで、インフィル無しでも客席をカバーできたそう(写真提供:木島武彦)

水平100°のエリアをくまなくカバー

ベテラン女性歌手のステージを担当する添田諭氏は、モニター用スピーカーとしてF1 Systemを活用している。氏は、F1のカバー・エリア内における音質の均一性と、現場設置の柔軟性をこう評価する。

「間口15mほどのステージで、サイド・モニターとしてF1を使っています。それまで使っていたスピーカーもF1と同じで水平カバー・エリアは100°だったのですが、F1では同じ100°でもエリアの端まで特性が落ちることがないことに驚きましたね。最初はカバー・エリアを考慮してリバースJポジションから試したのですが、最終的にはストレート・ポジションに落ち着きました。ポジションに従って内部EQ補正が働くので、設置した後でもこうした調整が簡単に行えるのは利点ですね。サブウーファーも、どの設定にしてもつながりが良い。音質面でも満足していますし、メイン・スピーカーとしても使ってみたいです」

F1 Systemがモニター用途にも向くことを、木島氏も同意する。

「高域がしっかり伸びますし、サブウーファーも要らない帯域までは出していないので、ボーカルを返すのにいいと思うんです。僕はF1を表で使うときには、好みとして多少EQでハイを抑えたりもしますが、出ていないものを足すわけじゃないので。セッティングが楽な上に、音作りも楽なスピーカーだと思います」

木島氏は、F1 SystemがこれまでのBOSEスピーカーのイメージを更新する製品だと言う。

「BOSE 802はスタンド・スピーカーのごく初期のもので、今でも後継機が出ていますし、スタンド・スピーカー=802というイメージは強いです。でも、今後はF1が選ばれるケースが増えてくると思いますね」

左が東京音響通信研究所取締役の木島武彦氏。右は技術営業部部長の添田諭氏 左が東京音響通信研究所取締役の木島武彦氏。右は技術営業部部長の添田諭氏

F1 System

SR_BOSE_F1Report_F12.25インチ・ドライバー×8基のアレイを、会場の形状に合わせて4つの指向性パターンに変形させるフレキシブルアレイ・テクノロジーを搭載したパワード・スピーカーF1 Model 812を軸に、そのパッシブ・タイプや10インチ×2基のパワード・サブウーファーをラインナップ。パワード・モデルのアンプ出力は1,000W。F1 Model 812本体のウーファーは12インチで、単体でフルレンジ再生に対応する。専用スタンドをサブウーファーに格納できるのもポイントだ

■パワード・モデル

F1 Model 812 Flexible Array Loudpeaker 230,000円/1本
F1 Subwoofer 230,000円/1本

■パッシブ・モデル

F1 Model 812 Passive Flexible Array Loudpeaker 170,000円/1本

F1 System 製品情報 http://probose.jp/cat_product/f1_system/

Presented by BOSE
問合せ:ボーズ プロシステム事業部 http://probose.jp/

サウンド&レコーディング・マガジン2017年7月号より転載

●関連リンク
東京音響通信研究所 http://www.tokyo-onken.co.jp/