
フラッグシップ・モデルと同様の
均一な放射特性を持つウェーブ・ガイド
ADAM AUDIO Tシリーズは2ウェイのパワード・モニター・スピーカーで、5インチ・ウーファーを搭載したT5Vと7インチ・ウーファーを搭載したT7Vの2機種がラインナップされています。両機種ともに、ツィーターに新開発のU-ARTを使用。こちらは同社のフラッグシップ・モデルであるSシリーズのS-ARTの技術を踏襲しており、高域の均一な放射特性を実現するために同様のウェーブ・ガイドが使われています。
アンプは両モデル共通で、ウーファーが50W、ツィーターが20WのクラスDバイアンプです。ペアでの最大SPLはT5Vが106dB、T7Vが110dBになっています。1本の外形寸法は、T5Vが179(W)×298(H)×297mm(D)、T7Vが210(W)×347(H)×293(D)mmで、重量は5.7kgと7.1kg。バスレフは同社の他モデルと異なり、背面に設けられています。大きさの違いから低音の再生帯域の下限にやや差があり、T5Vの周波数レンジは45Hz〜25kHz、T7Vでは39Hz〜25kHzとなっています。また、それに伴いクロスオーバー周波数も、T5Vでは3kHz、T7Vでは2.6kHzに設定されているようです。クロスオーバーの設計にはSXシリーズで培われたDSP技術が使用されているとのこと。
入力は+4dBuのバランス入力のXLR端子と、−10dBVのアンバランス入力のRCAピン端子が装備されていて、スイッチでの切り替えが可能。リアには高域と低域それぞれを±2dBで調整できるスイッチが搭載されており、制作環境によって適正なバランスに補正することができます。また、−60~+18dBまでの幅でアウトプット・ゲインを調整することができるので、オーディオI/Oの出力にトリムが付いていないようなケースでも、音量のコントロールが可能です。また、電源はユニバーサル電源仕様で、100〜240VAC、50/60Hzの自動切り替えになっています。
ADAMらしいスムーズで美しい高域
ストレスの無い高級機寄りのチューニング
それでは実際にチェックしていきましょう。まず驚いたのが価格です。スピーカーを一通りチェックした後に価格を知ったのですが、想像していたより大幅に安い価格でした! これは恐らく従来のモデルのアンプがクラスABだったところを、クラスDにしたことで実現しているのだと思います。10年前は“クラスDアンプはオーディオには使えない”という風潮がありましたが、急激に技術革新が進み、近年では高級オーディオに採用されるケースも増えてきました。本機も試聴の段階では、低価格モデルだとは思っていなかったので、アンプの変更が音質のクオリティには影響していないと言い切れます。このサイズのパワード・モニターがペアで5~6万円程度で購入できるとは、ちょっとびっくりしてしまいますね。
音質の方はと言いますと、ADAM AUDIOの特徴である高域の美しさは健在です。これはリボン・ツィーターの特性だと思いますが、高域をはっきり出しても決して痛さが無く、スムーズな再生音。SシリーズやAシリーズに比べると、高域がおとなしい印象でしたが、ADAM AUDIOの製品は他社と比較してすごく高域の抜けが良いので、本機の高域は一般レベルだと言えます。むしろ、高域に癖があるのではと敬遠していた方も、ほかのスピーカーからすんなり乗り換えられるモデルと言えるのではないでしょうか。また、中低域がしっかりと再生され、一聴して太い音という印象。上位機種と比べてもローミッドが充実していました。この価格帯だと“ザクザクした元気な音”のようなチューニングの製品が多いのですが、こちらはヌルっとしたストレスの無い高級機寄りな音質で、ネオ・ソウルのような音源でも気持ち良く聴けそうです。全体的な重心は低めに感じられますが、過不足なく聴こえるバランスにまとめられていると感じました。
T5VとT7Vの一番の違いは、ウーファーの大きさ、外形寸法/重量だと思いますが、顕著な音質の差は無く、T7Vの方が少し最下限の低音が見えやすいという点と、サイズ感が広い音がするくらいの違いに感じました。コスト・パフォーマンスが素晴らしく良いので、宅録環境のグレード・アップはもちろん、アカデミック用途やMA用途などで大量購入する際に、良い選択肢の一つになると思います。

(サウンド&レコーディング・マガジン 2018年7月号より)