「CHAMELEON LABS Model 7603 X-Mod」製品レビュー:CARNHILL製入出力トランスを搭載したプリアンプ+3バンドEQ

CHAMELEON LABSModel 7603 X-Mod
アメリカのシアトルに本社を構えるCHAMELEON LABSが、高い評価を得ているマイクプリ7602MKIIのアップデート版と言えるModel 7603を発売。近年ブームになっているクラスAディスクリート回路設計のオールドNEVE 1073クローン製品として位置付けられますが、搭載されているトランスの違いによって2種類のモデルがリリースされており、今回は英国のCARNHILL製トランスを搭載したModel 7603 X-Modをテストしました。1073といえば耳につく嫌な高音がうまく抑えられ、押し出しが強く太い音がするという特徴がありますが、このキャラクターを決定付けていると言われているのが、有名なMARINAIR製のトランス。そして、現在では生産されていないこのトランスの復活をうたって作られているのがCARNHILLの現行製品です。CARNHILL製トランスはMARINAIRと全く同じ音質とは言えないのですが、1073クローン機の中でもそこそこ値が張る製品に採用されている高価な部品です。さて、どんな仕上がりになっているのか、レポートしていきたいと思います。

マイク/ライン/DI入力を装備
VUメーターは入出力のどちらにも対応

まず外観ですが、黒い筐体でキャンディのようにカラフルなアルミ製のノブは、シンプルだった前モデルの7602MKIIより個性的で好感が持てるデザインです。1Uサイズとはいえ電源トランスも内蔵されているため、持ち上げるとずっしりと重く高級感があります。プリアンプ+3バンドEQにハイパス・フィルターという1073を意識した構成に加えて、フロント・パネルにDI入力が搭載されています。

プリアンプはマイク/ライン入力に共通した青いゲイン・ノブが付いており、回し心地の良い上質な部品を使用しています。ゲインは5dB刻みで、マイク入力が−70~−20dBm、ライン入力は−30~+20dBmとなっており、つまみの可動域が広いので、ライン入力のゲイン幅が1073より大きくなっているのが特徴です。

リア・パネルにあるXLR端子のマイク/ライン入力とフロント・パネルにあるTRSフォーンのDI入力は、フロント・パネル左側にあるInput Selectionのトグル・スイッチで切り替えることができます。また、マイク入力は300Ωと1,200Ωのインピーダンス切り替えが可能。現行で出ているマイクのほとんどは1,200Ωで対応できますが、300Ωにも対応することでさまざまなマイクに適切なインピーダンスで使用することができるようになっています。

▲リア・パネル。左から、ライン・アウトプット、マイク・インプット、ライン・インプットですべてXLR端子を採用している ▲リア・パネル。左から、ライン・アウトプット、マイク・インプット、ライン・インプットですべてXLR端子を採用している

最終段にはアウトプット・ゲインが設けられており、ゲイン幅はセンターに付いたクリックの部分を中心として−60~+20dB。コンソールに付いているフェーダーのように使えるので、プリアンプでゲインを上げてひずませて、出力レベルを下げるといったことが可能です。

インプット/アウトプット・ゲインの右上にはオーバーロード・インジケーターが付いて、クリップ時に明るく光ります。ちなみに、このランプは通常時も弱く点灯しており、電源を入れたときなども強く光るように作られています。さらに、右端には小さなVUメーターを装備し、入出力レベルを右端にあるトグル・スイッチで切り替えて確認することができます。一番下のトグル・スイッチでレンジの切り替えができる点は、針の振れが小さいソースの確認時に重宝することでしょう。

EQ部分は左からハイパス・フィルターが40/80/160/320Hz、LF(シェルビング)が35/60/110/220Hz、MF(ピーキング)が350/700/1.6k/3.2k/4.8k/7.2kHz。1073とほぼ同じですが、HF(シェルビング)は3.4k/4.9k/7k/12k/16kHzと、1073より大幅に切り替えられるような仕様になっています。なお、それぞれのゲイン幅は±15dBです。

クリアかつビンテージ感もあるサウンド
効きの良いEQとハイパス・フィルター

さて、肝心の音質ですが、CARNHILL製トランス特有のスウィートかつオープンなキャラクターで、音のフォーカスが合ったクリアなサウンドです。筆者がこれまでに使用したオールドの1073よりも中高域に倍音が寄っている感じがありますが、硬い部分がうまく処理されていてビンテージらしさを感じます。ビンテージ的な音色になるのも、やはりCARNHILL製のトランスを搭載しているからだと思います。

▲手前に写るのはCHAMELEON LABSオリジナルのライン・インプット・トランス。その奥にCARNHILL製マイク・インプット・トランスが確認できる ▲手前に写るのはCHAMELEON LABSオリジナルのライン・インプット・トランス。その奥にCARNHILL製マイク・インプット・トランスが確認できる
▲CARNHILL製マイク・アウトプット・トランス ▲CARNHILL製マイク・アウトプット・トランス

まず、マイク入力に接続してみて最初に思ったのはSN比が非常に良いということで、文句無しのレベルです。そこで、エレキギターを試しに録ってみました。ひずませたギターは複雑な倍音になるのでマイクプリの良し悪しが如実に表れるソースだと思うのですが、余計なピーキーさが抑えられ、1073より音のフォーカスが合っている印象。エレキベースでも試してみましたが、クリアな音質でモワっとした部分が全く無く、ローエンドがタイトに録れました。しかし、タイトでいながらも決して薄いということはありません。さらに、DI入力からベースをラインで録音してみましたが、想像より太い音がして好印象。ただし、インピーダンスが100kΩと低めなのでソースを選ぶ可能性はありそうです。

EQはビンテージの1073と全く同じ音質という感じはありませんが、非常に効きが良く、もっとQ幅を絞っているイメージです。そのため、狙った帯域の持ち上がり方が的確かつスムーズで、音に曖昧(あいまい)さが無く、かなり上等なEQを使ったときと同じ感覚で触ることができました。繊細な処理が可能なEQなので、積極的に使って音作りをしていくような使い方をすると、1073とはまた違ったキャラクターが出てくるだろうなと思います。ハイパス・フィルターもかなりスパッと切ることができるので、他社の1073クローンなどと比べて良い意味で違う作りになっていると感じました。

総合的に見て、この価格でこの音質というのは感心するほかありません。CARNHILL製トランスを使ってこの価格という時点でかなりの驚きですが、音のクオリティ面でも、倍くらいの価格がするクローン機とも勝負ができる製品だと思いました。1073は高くて手は出ないけど、そっくりでなくてもいいから似た雰囲気の音がする製品を探しているという方に、ぜひお薦めしたい製品です。

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サウンド&レコーディング・マガジン 2018年7月号より)

CHAMELEON LABS
Model 7603 X-Mod
オープン・プライス(市場予想価格:145,000円前後)
▪インプット構成:マイク、ライン、DI入力 ▪入力インピーダンス:300/1,200Ω(マイク)、10kΩ(ライン)、100kΩ(DI) ▪最大出力:+28dBu ▪周波数特性:10Hz〜50kHz(−1dB) ▪外形寸法:480(W)×44.5(H)×280(D)mm ▪重量:6.58kg