こんにちは、高藤大樹です。年末年始のセールなどで機材やプラグインを購入した方も多いかと思います。Digital Performer(以下DP)は、新しいプラグインをインストールした際には毎度きちんと精査した上でリストに表示されるため、プロジェクトが進んでいる最中でも気兼ねなく安心して新しいプラグインを追加していけます。制作環境のリスク管理をDAW側でも考えられていることは、思わぬトラブルも避けられクリエイターにとっても助かりますよね。
まずは音量を波形でそろえることから
気軽に歌が録れ、ネットを介してデータのやり取りも一般的になった昨今、ボーカル入りの曲を作る機会がとても増えたかと思います。今回は、DPのオーディオの便利機能をたくさん使った“ボーカル・トラックの作り方”を中心にお届けします。DPのオーディオ機能で特に恩恵を受けることの一つとして、シーケンス画面のみでボーカルの処理に必要なことがほぼすべてできることがあります。
ボーカル素材をミックスする際、言葉や歌の部分によって音量差が発生していますよね。もちろん歌い回しや歌唱のダイナミクスはある程度生かすべきですが、通常は細かくボリューム・オートメーションを描いたり、EQやコンプで音を整えたり、歌唱のタイミングを調整する必要があります。
まず私がボーカル・エディットを行うときには、聴感上のボリュームをフェーダーではなく波形自体で合わせていきます。タイミングの調整も同時にして、言葉に合わせたり特定の発音や凹凸が気になる点などを分割します。
なぜこの作業を最初にするかと言うと、波形の大きさが大体そろうと、エフェクトをかける前でもボーカルがスムーズに聴こえるようになるためです。また、後にかけるコンプのノリが一定になり、欲しい効果を的確に狙っていくことが可能になるため、ミックスをする中でコンプによる声質変化や設定に迷うことが少なくなります。素材に凹凸があるとコンプの設定は特に難しくなるので、まず何もかけない状態で聴感上の音量をそろえることはとてもお勧め。DAWならではのテクニックです。
安定性と操作性に優れたピッチ補正機能
続いてピッチのエディット。DPでは特定のプラグインを立ち上げる必要が無く、シーケンス画面から調節可能です。サード・パーティ製のピッチ補正プラグインは、一度音を取り込み別画面でのエディットが必要になってくるものも多いですが、再生する波形から直接ピッチを可視化しエディットできます。簡単に扱え、動作も通常再生時と変わらずスムーズです。
DPはMIDIとオーディオの垣根がほぼ無いので、MIDIと同じように波形の必要個所を選びピッチのクオンタイズを行うと正しい音高にほぼ合わせてくれます。まず全体的にクオンタイズし、そこから気になる部分を調節していく時短スタイルでも歌のニュアンスや質感が崩れることはありません。ピッチ修正がとても自然で、原音との差異を感じることがかなり少ないのもDPのすごいところです。クリエイターにとって、ピッチ・エディットはできるだけ短時間でスムーズに終わらせたい作業の代表とも思うので、強い味方になってくれます。ミックス中に気になった部分をあらためて調整するときも、波形からエディットを行うだけなのでとてもシームレスです。
その次は、歌の細かなボリューム調整。前述の通りミキサーだけではなく、シーケンス画面の波形下にあるレーンにボリュームを表示できます。波形を見ながら上げ下げができるので、“サビだけ上げよう”とか“Aメロは下げよう”などの操作も簡単にできます。その作業効率をより良くするアイテムとして、DP11からフィジカル・コントローラーの設定が柔軟になりました。物理フェーダーの使用や、ボタン操作を駆使して自分なりの作業環境を突き詰められるでしょう。
Live Room Gで独特の厚みと奥行きを演出
続いてはエフェクト処理です。こちらの操作はミキサー画面を使用することが中心となります。DPはボーカルに限らず付属のプラグインで各トラックの処理、空間系、マスタリング系など日ごろ使うであろうすべてのエフェクトがまかなえます。どれも明確な効果を確実に出せる印象で、素材のイメージを損なわず基本的に素直な音作りが可能です。ボーカルの処理においてもDe-Esserなど含め、とにかくクオリティの高いものがたくさんあります。個人的に推しなのはMasterworks Seriesのラインナップ。往年のハードウェアが内包するニュアンスをしっかり持っています。
コンプは、スタジオ定番のUNIVERSAL AUDIO 1176系のアタックが速いものを選択。Masterworks FET-76を使えば、ボーカル処理の鉄板の組み合わせが再現できます。1176系のFETコンプは特にインプット=スレッショルドと言えるため、最初に波形で音量をそろえていることによりかかり具合をコントロールしやすくなっています。
ボーカルのEQには、Masterworks EQがとても使いやすいです。細かいイコライジングをハイパス、ローパスも含め一つのプラグイン内で行えますし、グラフィック表示で周波数を視覚的にも確認できるのでとても便利です。“引き算”を意識し、最終的に足りない部分だけ色付けとして“足し算”していくと、音が飽和することなく分離し、芯が強くてみずみずしいボーカル・トラックを作ることができます。
リバーブやディレイなど空間系の処理についても、DP付属プラグインだけで奥行きや広がり感を理想通りに作れます。空間作りの裏技として、スピーカー・キャビネットを再現したLive Room G/Bがとても効果的です。位相に注意しながらボーカルの処理の隠し味としてぜひ試してください。ひずませ気味にしてアンプ裏のマイクを多めに混ぜると、独特の厚みと奥行きが出せますよ。積極的に使って個性的な音を作成するなど、使い方によって幅広い可能性があるプラグインです。
いかがだったでしょうか。DPはMIDIとオーディオで操作の垣根が無く、とてもリンクしています。昨今の音楽制作では過去のルールにとらわれず自由に制作する柔軟さが大事です。DAWの使い方に決まりなんてありませんし、自由度の高いDPの使用法もアイディア次第。まさしく十人十色です!
高藤大樹
【Profile】プロデューサー/作編曲家/キーボード・プレイヤー。“イマ”の時代を意識したジャンルにとらわれない音楽を作り、他セクションとも柔軟に連携してさまざまなアーティストやクライアントとともにリスナーの琴線に触れる音を追求している。また、プレイング・マネージャーとしてクリエイター・マネジメントを行うSound Bahnの代表も務めている。
【Recent Work】
『NO BORDER』
田村直美
(ライフタイム/MOJOST)
MOTU Digital Performer
オープン・プライス
LINE UP
Digital Performer 11(通常版):60,500円前後
*オープン・プライス(記載は市場予想価格)
REQUIREMENTS
▪Mac:macOS X 10.13以降
▪Windows:Windows 10(16ビット)
▪共通:INTEL Core I3または同等のマルチプロセッサー(AMD、Apple Siliconを含むマルチコア・プロセッサーを推奨)、1,024×768のディスプレイ解像度(1,280×1,024以上を推奨)、4GB以上のRAM(8GB以上を推奨)