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Studio Oneバージョン5.4でのアップデートと従来からの愛用機能の使い方|解説:A-bee

Studio Oneバージョン5.4でのアップデートと従来からの愛用機能の使い方|解説:A-bee

 A-bee(アービー)です。私は2007年に自身のオリジナル作品からスタートし、今はアーティストやアイドル、CMや劇伴などの作編曲を手掛けつつDiAN(ディアン)というユニットのメンバーとしても音楽を作っています。最近ではDisney+で配信中の短編アニメ『スター・ウォーズ:ビジョンズ – T0-B1』の音楽を担当しました。制作環境の中心はAPPLE Mac ProとPRESONUS Studio One(以下S1)なので、この連載に登場するコンピューター・キーボードはMacのものとなります。

CPUパワーを節約できる新機能。複数形式の2ミックスを一度に作成可

 前回はS1の音の良さとリズム・トラックの作り方について書きましたが、本稿では個人的に重宝している便利機能を紹介したいと思います。というタイミングでソフトを立ち上げたら、バージョン5.4へのフリー・アップデートがアナウンスされていたので、早速インストールしてみました。うれしい機能が追加されていたので、まずはそちらから紹介させてください。

 

 まずは“プラグインのスリープ”。比較的動作が軽いと言われるS1ですが、使用するプラグインによっては、たくさん立ち上げると曲が完成するころには重くなりがちです。そこで、プラグインのスリープ。オーディオが通っていないプラグインを無効にし、ソング全体のCPUパフォーマンスを向上させる機能で、画面左下の“パフォーマンス”欄からパフォーマンスモニターを開き、“プラグインのスリープを有効化”にチェックを入れるだけでオンにできます。“デバイスを表示”にチェックを入れると、スリープ状態のプラグインに月のマークが付きます。また、オーディオが通ると月が消えて、CPU消費を示す数字に切り替わる仕様。現状は認識しないプラグインも幾つかありますが、これはとてもうれしい機能です。

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S1の最新版、バージョン5.4では“そのときオーディオが通っていないプラグイン”を自動的にスリープさせる機能が実装された。スリープ状態のプラグインにはパフォーマンスモニター上で三日月のマークが付され(赤枠)、オーディオが通うとCPU消費を示す数字に切り替わる仕様

 2ミックスのエクスポート時に、複数のフォーマットを一度に書き出せるようになったのもポイントです。私は、曲が完成したらWAVとMP3の2種類のフォーマットで納品することが多いため、やはりうれしい機能ですね。

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2ミックスのエクスポート画面で複数のフォーマットを選択し、一度に書き出せるようになった

 もう一つ良いと思ったのは、新しくなったオート・セーブ(自動保存機能)。これまでは、オート・セーブの際に何秒か待たされるので作業を中断しなければならなかったのですが、素早くセーブされるようになりストレスを全く感じなくなったので、保存のタイミングを5分ごとから1分ごとに短縮しました。Studio One>環境設定>ロケーションの“自動保存を有効化”で設定できます。

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ソングの自動保存機能も進化し、処理速度がアップ。自動保存の際に一瞬待たなければならない、ということが筆者の環境では無くなり、ストレスフリーになったので、1分ごとに保存されるように設定している(赤枠)

SEにも有効なオーディオ・ストレッチ。MIDIストレッチはコード・リフに便利

 次は、普段から作曲に愛用している機能を紹介します。前回、MIDIをオーディオに変換しての作業をお伝えしましたが、さらに重宝しているのがストレッチ。オーディオを自在に伸縮できる機能ですね。私はよくSEや効果音のサンプルにストレッチをかけています。

 

 例えばEDMなどに使われるような、徐々にピッチが上がっていくシンセの単音サンプル。こういった音ネタの高揚感をより助長したいとき、イベントの適当な位置にハサミ・ツールを入れ、後ろの方のイベントをストレッチで縮めるのです。まずはイベント右下にカーソルを合わせてoptionキーを押すと、時計のマークが出現。左方向にドラッグしてイベントを短くしていけば、ピッチ・アップのスピードが速くなります。その結果、ピッチが途中から勢い良く上がっていくことになるため、次の場面へ向かって高揚感が一気に増す感じに聴こえるのです。

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徐々にピッチが上がっていくシンセ音をライザー的に使う場合、イベントの途中で切り分け、後半部をストレッチで縮めることにより“ピッチの駆け上がり”を性急にでき、高揚感を高められる。サビやドロップの手前で使うと効果的だ

 私は、この手法をよくBメロの後半で使い、サビへ入る手前でグッと盛り上げるための仕掛けとすることが多いです。シンセのツマミなどにオートメーションを描いて作り込まなくても、簡単かつ自在に速くしたり遅くしたりといった表情を付けられるのでお勧めです。私は既製品のサンプル以外に、自らシンセで作ったSEをオーディオ化し何個もストックしているため、そういった素材にストレッチをかけることもあります。なお、縮める分には音質の劣化がそこまで気にならないのですが、伸ばす方を極端にやってしまうと劣化の具合がひどくなりがちなので、そこは耳で確かめながら調整してみましょう。

 

 MIDIに対してもストレッチが行えます。これはとても便利な機能なので、私がよくやる使い方を書いておきましょう。まずは、各コードをコード・チェンジのタイミングまで目一杯、白玉で入力。これらのMIDIイベントは、コード進行を確認するためのメモとして残しておきます。次にインストゥルメント・トラックを新しく作り、各イベントをコピー&ペースト。オーディオのときと同様、イベントの右下にカーソルを合わせてoptionキーを押すと時計マークが表示されるので、そのまま左右にドラッグすればイベントの伸縮が行えます。

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各画像の上2段がコード進行を示すためのトラックで、各和音をコード・チェンジのタイミングまで白玉で打ち込んでいる。新しくインストゥルメント・トラックを用意して、各和音のイベントをコピペしてストレッチし(赤枠)、同一トラック内でコピペや並べ替えを行うことでリフを作っていく要領だ(黄枠)

 そうやって伸び縮みさせたイベントをコピペしたり、好きなところに配置するなどして、リフを組み立てる感覚で扱っていけば、コード・バッキング的なフレーズの出来上がり。この手法は無機質な感じのフレーズを作る際に有効で、私はシンセのパートによく使っています。ヒューマンなフレーズにしたいときは鍵盤を使うこともあるので、曲によって使い分けるとよいでしょう。

スペシャル・エフェクトのリバーブをオーディオ変換してかける理由

 ドラムを打ち込んだ後、スネア一発にだけロング・リバーブを施すようなギミックを仕込む場合があります。そこでもオーディオ変換が便利。まずはスネアを新規オーディオ・トラックにバウンスします。次に元のスネア(インストゥルメント・トラック)へリバーブを挿し、エフェクト音のバランスを100%に設定。それからまた新たなオーディオ・トラックを作り、インストゥルメント・トラックの中でリバーブをかけたい部分のみドラッグ&ドロップすれば、原音無しの残響成分をオーディオ化できます。

 

 元のスネアをミュートし、2つのオーディオのスネアをブレンドすると、狙った部分のみにロング・リバーブがかかった状態になりますね。インストゥルメント・トラックにセンド&リターンでかけて、送り量にオートメーションを描くような方法でもOKですが、オーディオに変換して波形で扱う方がリバーブのテイルなども細かく調整できるし、響きを途中で大胆にカットしたり、残響をリバースさせたりといった“遊び”も自在です。

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打ち込みのドラム類をオーディオ化して扱うのは筆者のスタイルで、前回の解説に詳しいですが、リバーブ成分もオーディオ・イベントで扱います。リバーブのテイル=残響の伸び方などを視覚的にコントロールしやすい上に、響きをスパッと突然カットしたり、リバースをかけたりといったギミックも凝らしやすくお勧めです

 今回もご高覧、ありがとうございました。次回もS1の魅力と制作でのTipsをいろいろと紹介していこうと思います。

 

A-bee

【Profile】2007年にアルバム『FLYING-GO-ROUND』でアーティスト・デビューし、これまでに6枚のアルバムを発表。作編曲家としては嵐やHey! Say! JUMP、A.B.C-Z、東方神起、森山直太朗、BLACKPINKらに携わり、SK-IIやコカ・コーラ、パンテーンなどのCM音楽も手掛けてきた。現在、静電場朔やimmiとユニットDiANで活動。11月17日にカワムラユキを共同プロデューサーに迎えたDiAN『銀河系夜八時』をリリース。

【Recent work】

『銀河系夜八時』
DiAN
(U/M/A/A)

 

PRESONUS Studio One

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LINE UP
Studio One 5 Professional日本語版:42,800円前後|Studio One 5 Professionalクロスグレード日本語版:32,000円前後|Studio One 5 Artist日本語版:10,600円前後|Studio One Prime:無償
※いずれもダウンロード版
※オープン・プライス(記載は市場予想価格)

REQUIREMENTS
▪Mac:macOS 10.13以降(64ビット版)、INTEL Core I3プロセッサーまたはAPPLE Silicon(M1チップ)
▪Windows:Windows 10(64ビット版)、INTEL Core I3プロセッサーまたはAMD A10プロセッサー以上
▪共通:4GB RAM(8GB以上推奨)、40GBハード・ドライブ・スペース、インターネット接続(インストールとアクティベーションに必要)、1,366×768pix以上の解像度のディスプレイ(高DPI推奨)

製品情報