スピーディ&クリエイティブ!Studio Oneオーディオ関連機能の基礎演習|解説:A-bee

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 初めまして、A-bee(アービー)と申します。私は2007年にアーティストとして初めてのアルバムをリリースし、以降はコンポーザー/アレンジャーとしても活動してきました。アーティストへの楽曲提供、CM音楽や劇伴の制作などを行いつつ、最近は中国のアーティスト静電場朔、東京のシンガー・ソングライターimmiとのユニット=DiANとしてサウンド・プロデュースを手掛けています。そのトラック制作にも欠かせないPRESONUS Studio One(以下S1)について、今回より連載を担当することになりました。

オーディオ・ベースの制作が筆者流。音量と波形の連動で視認性も抜群

 私はS1に出会うまでAPPLE Logicのユーザーでした。現在のAPPLEでなくEMAGICが手掛けていたころから使っていて、操作にも慣れていたものの、違うDAWを触ってみたい衝動に駆られABLETON LiveとS1のバージョン2を購入したんです。当時の印象として、Liveは直感的に操作でき作曲していて面白かったのですが、音質が好みでなく次第に使わなくなりました。一方のS1は音の抜けが抜群に良くて、特に音数が多い曲では一つ一つの音が分離して聴こえてきたので、感動したのを覚えています。新興DAWだった故に操作系にはこなれない部分が見られましたが、動作が軽く、CPU負荷の高めなプラグインをたくさん使ってもストレス無く作業できたのです。国内代理店エムアイセブンジャパンによるユーザー・サポートも、E-Mailでのやり取りでしたが、よく分からない部分を親切に教えてもらえて助かっていました。

 

 当時から幾度かのバージョン・アップを経て、今ではS1にとても満足していて、ほかのDAWは考えていません。では具体的にどのように曲作りしているかなのですが、今回はリズム・トラックのプロダクションを通して、私なりのS1の使用法を紹介したいと思います。

 

 楽曲のイメージやテンポ感などが決まったら、まずはリズム・トラックを作るのですが、私はドラム音源でキックやスネア、ハイハット、シンバルなどをまとめて作るような方法は採っていません。キックならキック、スネアならスネアで、トラックを完全に分けて作るのです。また、基本的にサンプル・ベースのような音の扱い方が好きで、MIDIで打ち込んでもすぐにオーディオ化します。瞬間的に歯切れ良く、タイトでスタイリッシュに聴かせたい場合、音の余韻やリバーブ成分を完全に切りたいときがあるからです。オーディオであれば、イベントをカットするだけで残響を切れますし、ソフト音源にあれこれオートメーションを描くよりも簡単。そして、大胆にカットアップを重ねることで独特のグルーブやドライブ感が強調されるため、このような手法にたどり着きました。

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筆者が手掛けた楽曲のソングの全体像。クローズアップしている部分のように、あらゆるMIDIイベントをオーディオ化して、サンプリング・ベースのような制作スタイルを採れるようにしている

 それにオーディオの方が、曲作りが進んで全体像が見えてきたときに、音量調整も簡単に行えます。例えば、ソフト音源であればミキサーのフェーダーにオートメーションを描かなければならないような調整も、オーディオならイベントをいじるだけである程度は実現可能。S1ではイベントのゲインでもゲイン・エンベロープでも、設定した音量に合わせて波形のサイズが変わるので、視覚的にも分かりやすいです。最終的にはすべてオーディオにして、全体の波形を見ながら作業する方が曲を俯瞰できるので、スムーズに曲作りを進められます。

ドラッグ&ドロップ一発でMIDIのオーディオ化が可能

 この手法を、S1付属のドラム・サンプラーImpact XTを使いながら再現してみます。まずは好みのキックおよびスネアのサンプルを選び、それぞれを個別のImpact XTにインポート。2〜4小節くらいMIDIである程度打ち込んだら、各インストゥルメント・トラックの下に新規オーディオ・トラックを作成し、そこにMIDIイベントをドラッグ&ドロップ。これだけでオーディオ化されます。面倒なプロセスを踏む必要が無く、ちょっと違うと思ったらすぐMIDIに戻ってやり直し、また手早くオーディオ化できるのがフレキシブル。この機能が導入されたときは、本当に感動しました。キックはイベント上で余韻の部分をカットしたり、タイム・ストレッチ機能で微妙に短くしたり長くしたりするだけで、MIDI打ち込みの状態よりも表情が付いてリズム感が出ます。

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画面上段はS1のドラム・サンプラーImpact XTで打ち込んだキックのトラックで、それをオーディオ化したものが下段。MIDIイベントを空のオーディオ・トラックにドラッグ&ドロップするだけでオーディオ化できる。変換した後はオーディオ・イベントの終端をカットして余韻を切ったり、タイム・ストレッチ機能で長さを調整するなどすれば、リズムに生き生きとした表情が生み出せる。なお、MIDIイベントの方は画面のようにミュートしておこう

 次はハイハットです。MIDI打ち込みで作り始める場合はテクノっぽい無機質なサウンドを狙うときなのですが、ヒューマンなグルーブを出したい場合は生ハイハットのループ素材を活用します。ドラム・トラックのうち、ハイハットだけでも多少の揺れがあるループ素材を使用すれば結構グルーブが変わるので、使い分けるとよいでしょう。ループ素材は丸ごと使わずに、不要な部分を大胆にカットしたりします。

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画面下段は、ハイハット・ループのトラック。既製品のループをサンプリングする場合も、画面のように不要な部分をカットするなどのエディットを加えてオリジナリティを出すのがポイント

ピッチ変更やオーディオ反転。フェードの調整でリズムに変化を

 こうしたドラム・パーツに対してよく使う技は、スネアやパーカッションのフィル・インにピッチ・シフトをかけるというものです。フィルイン後半にかけて徐々にピッチを上げていくと、次の場面へ移る直前に聴き手をハッとさせることができます。ソフト音源から鳴らしているフィル・インにかける場合は、音源のチューニング系パラメーターにオートメーションを設定。

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オートメーションは、ソフト・サンプラーのチューニング・パラメーターに描かれたもの。フィル・インの後半にかけて音高を上げていくことで、次の場面へ切り替わる際の変化を演出できる(赤枠)

 オーディオの場合は、インスペクターのピッチ・トランスポーズを使って簡単にピッチを変更できます。やり方としては一打ごとに切り分け、それぞれのピッチを段階的に上げていけば徐々にピッチ・アップして聴こえます。

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フィル・インがオーディオの場合は、画面のように一打一打に切り分け、インスペクターのピッチ・トランスポーズで段階的に音高を上げていく(赤枠)

 リズムへの彩りとしてリバース音を入れるのも効果的です。例えばリバース・キックを加える場合、オーディオ・トラックを作成し、既存のキック・トラックから好みの一打をコピペ。そのイベントの右クリック・メニューで“オーディオを反転”を選択すれば、もうリバース・キックが出来上がります。イベント左上の三角形を左右に動かしたり、カーブ上の四角形を上下に動かしたりすれば、フェード・インの仕方を変えられるので、リバース音の立ち上がり方を調整可能。キック以外にも、オープン・ハイハットやスネアなどにところどころリバース音を加えれば、リズムだけで十分に格好良く聴かせることができます。

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リバース・キックの立ち上がり方を調整しているところ。三角形のアイコン(赤枠)と四角形のアイコン(黄枠)を動かすことで、フェード・インの開始点やカーブを自在にエディットできる

 S1は、現在のバージョン5では使い勝手の部分が大きく改善されていると思います。次回も引き続き、私なりの視点でS1を紹介していきますので、どうぞよろしくお願いします。

 

A-bee

【Profile】2007年にアルバム『FLYING-GO-ROUND』でアーティスト・デビューし、これまでに6枚のアルバムを発表。作編曲家としては嵐やHey! Say! JUMP、A.B.C-Z、東方神起、森山直太朗、BLACKPINKらに携わり、SK-IIやコカ・コーラ、パンテーンなどのCM音楽も手掛けてきた。現在、静電場朔やimmiとユニットDiANで活動。11月17日にカワムラユキを共同プロデューサーに迎えたDiAN『銀河系夜八時』をリリースする。

【Recent work】

『銀河系夜八時』
DiAN
(U/M/A/A)

 

PRESONUS Studio One

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LINE UP
Studio One 5 Professional日本語版:42,800円前後|Studio One 5 Professionalクロスグレード日本語版:32,000円前後|Studio One 5 Artist日本語版:10,600円前後|Studio One Prime:無償
※いずれもダウンロード版
※オープン・プライス(記載は市場予想価格)

REQUIREMENTS
▪Mac:macOS 10.13以降(64ビット版)、INTEL Core I3プロセッサーまたはAPPLE Silicon(M1チップ)
▪Windows:Windows 10(64ビット版)、INTEL Core I3プロセッサーまたはAMD A10プロセッサー以上
▪共通:4GB RAM(8GB以上推奨)、40GBハード・ドライブ・スペース、インターネット接続(インストールとアクティベーションに必要)、1,366×768pix以上の解像度のディスプレイ(高DPI推奨)

製品情報