こんにちは、STUDIO PRISONERのHiroです。今月で筆者の担当連載は最終回ですが、引き続きメタルのミキシングに欠かせないPRESONUS Studio One(以下S1)純正プラグインの使いどころを紹介します。
サンプリング・リバーブながら低負荷
ライブ音場も再現できるOpen Air
S1純正のOpen Airというサンプリング・リバーブ(コンボリューション・リバーブ)はサウンドが秀逸です。ホールや部屋の残響特性を“インパルス・レスポンス”(IR)というデータとしてサンプリングし再現するため、筆者が使ってきたどのリバーブと比べてもリアリティに富み、作品へ取り入れてみたいと思わせるインパクトがあります。IRは今やギター用のキャビネット・モデリングでおなじみですが、思い返せば10年ほど前に初めてその言葉を耳にし、Open Airで体感することとなりました。IRを自作する必要はありません。Open Airはプリセットを備えるため、通常のプラグインとして簡単に使えます。そのプリセットが素晴らしく、筆者は作品で必ず使います。
シンフォニックなメタル・サウンドに欠かせない荘厳なクワイアには、“Church”を名に冠したプリセットが欠かせません。聖歌隊が教会で歌っているような最高の雰囲気を演出できます。分厚く熱さみなぎるシンガロングにもOpen Air一択。そのほかキメとして炸裂させるスネアへの残響、スネアへのリバース・リバーブなどもOpen Airを元に作ることが多いです。
響きの密度が濃くリアルなので、ここぞと主張したいときにベストなリバーブです。一般的にCPU負荷が高いと言われるサンプリング・リバーブですが、Open Airは思いのほか低負荷で、そこも長く使い続けられる理由だと思います。
さて、このOpen Airでライブ・サウンドの音場を再現してみましょう。使用プリセットとして、筆者が手掛けるバンドNOCTURNAL BLOODLUSTのライブ・ストリーミングやUnlucky Morpheusのライブ音源で実際に使ったものを公開します。前者についてはオフィシャル動画がYouTubeに上がっているので、良かったらサウンドをチェックしてみてください。
まずはマスターのリミッター直前にOpen Airをインサート。マスターにリバーブは滅多に挿さないのですが、ライブ会場の音場を擬似的に再現するには、このくらい大胆に使う方がしっくりくる印象です。またOpen Airには原音とエフェクトのバランスを調整するMIXノブがあるため、最後にホール感のさじ加減を微調整可能。想定する会場の広さに応じて追い込めます。
またマスターとは別途、FXチャンネルにもOpen Airを立ち上げ、ドラム・キット全体にセンド&リターンで使います。これもライブ感を高める演出。Open Airならステレオ感や会場の空気感が簡単に手に入るので、スタジオ作品とライブ作品の差別化にも便利です。本当に重宝しています
頭一つ抜けたサウンドの
アンプ・モデリングAmpire
続いては、劇的な進化を遂げているギター/ベース用アンプ・モデリング&マルチエフェクト=Ampireの紹介です。筆者はAMPEG SVTシリーズのベース・アンプとキャビネットを再現した“Amp SVT”が特にお気に入り。キャビネット・モデルはコンボリューション系とのことで、3系統のマイク・シミュレーターを組み合わせて使えます。これが非常によくできており、高域、中低域、部屋の空気感といった具合に各成分のブレンドが可能。欲しい音を作り込むことができます。
マイクのフェーダーを動かすと処理中らしいカクカクした音の変化が独特で、コンボリューションで処理を行っているのだと実感できます。そして、得られるサウンドが本当に素晴らしい。ペダル・エフェクトのモデリングも一通りそろっているので、ダイナミックなベース・プレイをコンプでならしてから、しっかりひずませてアンプに送り込むというチェインを組めば鳴りが安定します。こうした“Ampireの中で完結してしまうシンプルさ”も気に入っている理由の一つです。
筆者は長年アンプ・モデリングの進化を追ってきましたが、使い勝手の良さや利便性には優れていても、作品で使用するには実機に比べて今一歩という感じが否めませんでした。しかしAmpireは、これまでのアンプ・モデリングの中では頭一つ抜けたサウンドと言えます。
Console Shaperの使い方は
“通すだけ”が筆者の流儀
音作りに欠かせないものとしては、アナログ卓をモデルにしたエフェクトConsole Shaperも挙げられます。音の存在感を強めたいときに威力を発揮するのですが、積極的な音作りに使うというよりはスパイス的な役割で、最後のひとさじとして重宝しています。必ず使うのはドラムや歌、シンセといったひずんでいないパートのバス・チャンネル。Drive、Noise、Crosstalkという3つのパラメーターがありますが、すべてオフの状態で使ってもモリっと音の存在感が強まり、サウンドが安定します。さらに熱量を上げて押し出したいときはDriveをオンに。この場合もノブは絞り切りで、ただオンにするだけというシンプルな使い方が筆者流です。まさにスパイスですね。
さて、S1にはアドオンとして無償のプラグインが幾つか用意されているのですが、Professionalグレード用のもので紹介せずにはいられない逸品があります。サチュレーターのSOFTUBE Saturation Knobです。サチュレーションはメタルのミックスにも欠かせない要素。例えばボーカル・バスにSaturation Knobを挿すことで音が立ち上がってくる効果を得られ、ミックスの中で存在感ときらめきを加えることができます。ベースとも好相性で、抜けの度合いをコントロールするのにも使えれば、結構大胆にかけることでほかの楽器とのなじみが良くなり、接着剤の役割も果たします。
最近感じるのは、他者の作業を見ると多くの学びがあるということです。自分の中でお決まりゴトができてしまうと、サウンドが進化していかないと思いませんか? 打開策は、ほかの人の作業を見ることだとつくづく思います。僕の連載から新たな発見が少しでもあれば、この上なく幸いです。記事の感想や質問がありましたら、Twitter(@HiroMETALSAFARI)までご連絡ください。ご愛読、本当にありがとうございました。
Hiro
【Profile】METAL SAFARIのギタリストとして国内外で活動し、2010年からプロデューサー/エンジニアに。レコーディングからミックス、マスタリングまで広くこなす。NOCTURNAL BLOODLUSTやUnlucky Morpheusなど数多くのメタル・バンドを手掛けてきた。
【Recent work】
『Venus on the G String』
Leda
(Cygnature Records)
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