こんにちは、STUDIO PRISONERのプロデューサー/エンジニアHiroです。今回は、僕が作品制作で使用してきたPRESONUS Studio One(以下S1)純正プラグインの設定、そして、それらの踏み込んだ使い方を紹介します。メタルの制作で即座に活用できる実践的かつ強力な内容だと思うので、最後まで楽しんでいただけたら幸いです。
エクストリームなひずみギターの
“下処理”に有効なPro EQ2
メタルと言えば、ギターのサウンドですよね。どうしたら格好良く聴かせられるか、僕自身も日々追求しています。が、これがなかなかの難物で、納得のいく音作りができなくて苦しめられることもありますし、同じように悩ましい思いをしているという方も少なくはないでしょう。
メタルに特化したギターのサウンドは、それこそマイキングする前の素材(楽器そのものの音色)の段階で議論すべき個所が数多くある上、マイキング後も同じくらいたくさんのポイントが存在します。中でもイコライジングは絶対的な領域。S1の純正EQ=Pro EQ2は数あるプラグインにおいてもお気に入りで、さまざまな場面に重宝してきました。とりわけ、荒れ狂ったディストーション・ギターへ立てたマイクのサウンドに相性抜群で、長きにわたり愛用しています。というわけで、ヘビーにひずんだ分厚いディストーション・ギターを制御する際に、スターティング・ポイント=音作りの下処理としてお勧めのセッティングを紹介しましょう。
まずはPro EQ2をインサート・スロットの初段に立ち上げて、楽曲にとって不要だと思われる超低域や超高域をカットする方向で調整します。
次にスピーカー・キャビネットへマイクを立てた際、特に膨らんでしまいやすい中域を整理。削る対象としてポイントになるのは“630Hz付近”です。VHTという伝説的なブランドから発売され、メタル界で人気を博したハイゲイン・アンプがあるのですが、その内蔵グラフィックEQには630Hzという周波数ポイントが用意されています。僕自身も630Hz付近を調整する機会が多いと感じていたことから、偶然の一致ではないと思っています。実のところ、630Hzは可聴帯域の中ほどに位置しているので、うまく削ることでメタルらしいドンシャリ・サウンドが得られるのです。
続いては1.5kHz付近。この辺りはギターの主張が最も際立つところなので、必要に応じてブーストする方向で調整します。そのオクターブ上に当たる3kHz付近は、特に暴れやすいのでコントロールしがいのあるポイント。耳をつんざく不要なピークを削ります。そして最後に、空気感とブライトさを強調するために12kHz付近を持ち上げる方向で調整します。
この通り、それぞれのEQポイントには固有の役割があります。ギターのサウンドを周波数の観点からバラして見ていくと、実に奥深いものがありますよね。また“この処理だけでは、まだギターが言うことを聞いてくれない”というときにはPro EQ2をもう1つ立ち上げ、2段がけで詰めていくこともあります。もちろん原音の劣化は感じられませんので、プラグインによる色付けを必要としないときなどは、これ以上のベストなEQは見当たりません。
内蔵のリアルタイム周波数アナライザーも便利です。1/3オクターブや1/12オクターブといった単位で周波数分布を表示するものから、FFTやウォーターフォールといったバリエーションまで用意され、視覚的にも頼りになります。ここで紹介したセッティングでディストーション・ギターを処理しつつ、Pro EQ2の実力をぜひ体感してもらいたいものです。
分厚いギターやシンセに埋れがちな
ドラムを救済するテクニック
ギターの処理について解説したばかりですが、メタルの音像の中では、キックやスネアがギターの“壁”やシンフォニックなシンセに覆われて、いまいち抜けてこないことがあるかと思います。そんなときに救世主となるような、ちょっとしたテクニックを紹介しましょう。
まずはキックのトラックを複製します。オリジナルのキック・トラックを主体としつつ、コピーした方を加工&レイヤーしてアタック(=抜け)を強調していくという音作りです。複製トラックには“Kick attack”と名付けておきましょう。そこにPro EQ2を挿し、高域だけを残すようなセッティングに。まるでクリック音のように余韻が無く、か細い音になるので不安に思うかもしれませんが、これで大丈夫です。ただ、音量が極端に落ちるため、適宜上げておきましょう。Gainノブ下の“Auto”を選択しておくと、自動的に補正してくれるので便利です。
Pro EQ2の後段にはCompressorをインサート。音が破たんするんじゃないかというくらいに深くかけ、ダイナミック・レンジを狭めていきます。ゲイン・リダクションの値が−10dBくらいになるよう思い切りかけてみましょう。
すると、まるでトリガー用のサンプルのように無機質で格好良いアタック音になります。そして最後にLimiter2を使用し、音圧を極限までビルドアップ。
Compressorの段階よりも、さらに音量のバラつきや人間味が排除され、サンプルを最大ベロシティで打ち込んだような押し出し感が得られます。これぞメタル!と感じられる、人間離れしたアタック・サウンドの出来上がりです。
これをオリジナルのキックにレイヤーしてみましょう。好みの抜け具合になるまで、Kick attackのフェーダーを上げていきます。オリジナル・キックの高域をEQで強調しているわけではありませんし、同じ素材から作成したアタック成分なので混ざり具合がナチュラルだと思います。キックの音色を不自然に変化させることなく、アタック感や抜け、立体感までも演出できるのが分かるでしょう。スネア・トラックに対しても、同じような要領で望ましい効果が得られます。
S1の純正プラグイン+シンプルなテクニックであってもサウンドを大幅に拡張できますし、メタル・リスナーを熱狂させる基盤作りが可能というわけですね。本誌2019年5月号の特集「【監獄式】現代METAL制作メソッド」でも純正プラグインの活躍ぶりを紹介していますので、併せてチェックしてもらえると幸いです。
さて、次回はアウトボードやサミング・ミキサーとS1を統合するような方法論について見ていく予定です。記事の感想や質問がありましたら、Twitter(@HiroMETALSAFARI)までお気軽にご連絡いただけたらと思います。それではまた来月。
Hiro
【Profile】METAL SAFARIのギタリストとして国内外で活動し、2010年からプロデューサー/エンジニアに。レコーディングからミックス、マスタリングまで広くこなす。NOCTURNAL BLOODLUSTやUnlucky Morpheusなど数多くのメタル・バンドを手掛けてきた。
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