Yuichiro Kotaniが使うStudio One 〜第4回:ドラム/ピアノビューで実践するユークリッド・リズムの勧め

DAW、Studio OneのノウハウをYuichiro Kotaniが解説

 PRESONUS Studio One(以下S1)ユーザーの皆さん、こんにちは。Yuichiro Kotaniです。早いもので昨年10月発売の12月号から4回目、最後の担当回となりました。今月は、前回までに作ってきたドラムの上にフレーズを足してみようと思います。先月と同様にSoundCloudへ音例をアップしているので、聴きながら読み進めてみてください(https://bit.ly/3pq5aFN)。なお、音例は全部で15個あり、プレイリスト化しています。本稿では分かりやすいように、プレイリスト内の番号で音例を示してみました。まずは冒頭の完成形を聴いてもらえると、サウンドのイメージがつかみやすいと思います(音例1)。

 

soundcloud.com

 

“16分音符が何個分か”で
各楽器のパターンをとらえる

 普段はフレーズを作る際に、SQUARP INSTRUMENTSのハードウェア・シーケンサーPyramidやモジュラー・システムのシーケンサーを使用してポリリズム/ユークリッドの概念を取り入れることが多いのですが、今回はこれらをS1で手軽にできるやり方を紹介したいと思います。ロジカルに理解しさえすれば、誰にでもすぐ使える手法だと思うので、ぜひ取り入れてみてください。

 

 基本的なリズムの概念については、小節や拍子の概念を取り払い“16分音符が何個分か”で考えます。4つ打ちのキックは16分音符4つにつき1回鳴るわけですが、これを16分音符4つで繰り返すワンフレーズとしてとらえると“OXXX”と書き表すことができます(OはMIDIノート・オン、Xはオフを示しています)。これに16分音符3つや5つなどで繰り返すフレーズを重ねるのが基本的な考え方です。

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“16分音符が何個分か”という単位でとらえるのが今回の手法の基本。画面上段の4つ打ちキックは16分音符4個分の単位で繰り返していくパターンで、下段のリム・ショットは3個分で繰り返していくパターン

 付属のドラム・サンプラーImpact XTに適当なキックとリム・ショットを読み込み、ドラムビューで鳴らしてみましょう。4つ打ちキックの上に“16分音符3つで繰り返すパターン”としてリム・ショットを打ち込みます。まずは3つにつき1回のOXXです(音例2)。次にリム・ショットを16分音符3つにつき2回に増やし、OOXというパターンを作成(音例3)。OXOといった別のノートの置き方も考えられますが、スタート地点が違うだけでパターン自体は同じと解釈することができます(音例4)。同様に16分音符5つで繰り返すリム・ショットを打ち込みます(音例5〜8)。

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16分音符3個分の単位で繰り返すパターンのバリエーション。3個のうち2個、音が鳴っている状態だ。画面上段と下段は、一見異なるパターンに思えるが、スタート位置がズレていると考えれば同じパターンである

 MIDIノートのグループ化やコピー&ペーストについては、16分音符3つを繰り返すパターンの場合は“3拍”もしくは“3小節”という単位で管理すると分かりやすいでしょう。このコピペの際に便利なのが、option(Mac)/Alt(Windows)を押しながらドラッグすると複製される機能です。command(Mac)/Ctrl(Windows)+Dでもコピペはできますが、小節頭などに自動配置されるため、それはそれで便利なのですが、ここでは前者の方が良いと思います。

 

16分音符3個分基準のパターンで
サイド・チェイン信号を作成

 以上の基本を踏まえつつ、フレーズ作りを実践していきましょう。まずは、前回までのドラムにボンゴを足してみます(音例9)。次にベース。先月はシンプルなベースを足してみましたが、今回の手法を用いて比較的複雑なリズム・パターンにしてみます。16分音符5個分を繰り返す形で、OXXOXというパターンをピアノビューに打ち込んでみましょう(音例10)。単体で鳴らすとシンプルですが、4つ打ちドラムと一緒に再生してみると“OXXO/XOXX/OXOX/XOXO……”という分割のされ方に聴こえ、複雑かつどこか民族的なパターンに感じられると思います(音例11)。筆者は、このベースのMIDIでNOISE ENGINEERING Basimilus Iteritas Alterというシンセ・モジュールを鳴らしていますが、皆さんお気に入りの音源でぜひトライしてみてください。

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ベースは、16分音符5個分の単位で繰り返すパターンをプログラミング。画面内の赤い点線は小節の区切り、つまり4つ打ちのキックが鳴るタイミングなので、視覚的にもポリリズミックになっていることが分かる

 次にS1付属の音源Presence XTを立ち上げ、Vox>Choirからプリセットのクワイア音色Choir Hah Percをロード。G3の白玉で鳴らしっぱなしの状態にします(音例12)。続いてMai Taiを立ち上げてノイズのみが鳴るように設定して、OXXのパターンでトリガーします。MIDIノート・ナンバーは何でも構いません。

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ノイズのみがトリガーされるように設定したMai Tai。オシレーターやフィルターがオフになり、ノイズ・ジェネレーターのみアクティブになっている(赤枠)

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Mai Taiのノイズをトリガーするためのパターンは16分音符3個分の単位で繰り返すもの。文中ではMIDIノート・オンを“O”、オフを“X”と表しているので、画面にも書き込んでおいた

 Presence XTに戻り、付属のGateをインサート。Gateのサイド・チェイン入力にMai Taiのノイズをアサインすると、ノイズがトリガーされるタイミングでPresence XTのクワイアが鳴ります。ただ、このままだとMai Taiのノイズも聴こえてしまうため、センドをポストフェーダーからプリフェーダーに切り替えてフェーダーを下げ切ってください。また、GateのEnvelope設定で音の立ち上がりや減衰の仕方をコントロールできるので、好みに合わせて適宜調整してみましょう(音例13)。

 

比較的システマティックに
有機的なアルペジオを作成可能

 最後にアルペジオ・フレーズを作成します。16分音符7個分のOXOOXOXというパターンを入力。音を鳴らしながら、各ノートを動かして好きな音程にしてみましょう(音例14)。筆者はVERBOS ELECTRONICS Harmonic OscillatorとMAKE NOISE Optomixを使ってポコポコした音色を作ってみましたが、昨今のソフト・シンセにも“Pluck”などのプリセット・カテゴリーに同系統のサウンドが入っているので、好きな音色を探してみてください。

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アルペジオは16分音符7個分で繰り返すパターン。まずは画面のように単一のノートでリズム・パターンを作ってみよう

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アルペジオのリズム・パターンが決まったら、ノートを動かして好みのメロディにする。コード進行に沿って、いずれか1音だけを変えていくなどすれば変化を加えられる

 そして、これを繰り返してディレイをかけつつ、モジュレーションした結果がこちら(音例15)。このように、今回の手法を用いれば、比較的システマティックに有機的なアルペジオを作り出すことができると思います。ここでは16分音符7個分のフレーズをループさせていますが、リズム・パターンはキープしつつ、コード進行に合わせて1音だけ音高を変えていくことなどもお勧めです。

 

 さて、4回にわたりS1を使った楽曲の制作過程をお伝えしてきましたが、楽しんでいただけたでしょうか? 昨年10月号のS1特集を含め、僕にとっても普段何気なく使っている諸機能、そして何よりS1のユーザビリティの高さを再確認できた連載となりました。S1特集や連載で触れた内容に関して質問などがあれば、Instagram(@yuichirokotani)やTwitter(@YuichiroKotani)まで気軽にお声掛けください。では!

 

Yuichiro Kotani

【Profile】アメリカの名門バークリー音楽大学で学んだ後、近年はアーティストとしてAll Day I DreamやSag & Treといった欧州の気鋭レーベルからディープ・ハウスをメインにリリース。国内では広告音楽の制作やメジャー・レーベルへの楽曲提供も行っている。今年1月22日には、ルーマニアのアーティストSilence PathのリミックスをアメリカLoot Recordingsよりリリース。SashaやHector Romeroなどが既にサポートに手を挙げている。

【Recent work】

Alternative Reality - EP

Alternative Reality - EP

  • Silence Path
  • ハウス

 

製品情報

www.mi7.co.jp

 

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