メタルのプロダクションに抜群の比類なきサウンド・クオリティ 〜Hiroが使うStudio One【第1回】

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 STUDIO PRISONERを拠点にメタル・バンドのレコーディングやミキシング、マスタリングなどを行っているプロデューサー/エンジニアのHiroです。このたびPRESONUS Studio One(以下S1)の連載をさせてもらうことになって大変うれしく思います。S1は自分が初めて触れたDAWソフトであり、出会って人生が救われたくらい大きな力になってくれている相棒的な存在です。

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筆者のプライベート・スタジオ=STUDIO PRISONER。APPLE Mac ProでPRESONUS Studio One(以下S1)を使用しており、メタル・ミュージックのレコーディングからミキシング、マスタリングを完結させている。S1の緻密(ちみつ)な音質がジャンルのサウンドにマッチするのだ

ソフトでの音楽制作に
ハードルを感じている人にこそお薦め

 S1を初めてインストールした日付を見ると、2010年の5月4日。バージョンがまだ1.6.5のころでした。S1以前の僕はROLANDのデジタルMTR=VSシリーズがお気に入りで、歴代の機種を駆使して作品を仕上げていました。なので感覚としては、ついこの間初めてパソコン上で波形を見始めたくらいの気持ちで、今でもS1を立ち上げるたびに“波形が見えてトラックがたくさん使えるんだ”という具合に、便利さが当たり前ではないという感覚を忘れずにやっています。

 

 そんなS1との出会いは、いつパソコン・ベースの制作に移行するか、機をうかがっていた矢先に飛び込んできたニュース・リリースがきっかけでした。当時、DAWが乱立する中で後発として世に出てくるのは、何か特別なものがあるからに違いないと思いましたし、新たな時代を作っていくような意気込みも感じられ、前評判を見ることなく迷わず導入しました。それから10年ほどたちましたが、S1を選択したことは間違っていなかったと感じています。

 

 僕はもともとギタリストで、作曲を行いデモを制作する延長でエンジニアリングを独学していたのですが、パソコン・ベースの制作というものにかなりのハードルの高さを感じていました。そんな僕でも、S1の導入は想像以上に簡単でやさしいものでした。当時の自分のようなパソコンに明るくない人にとって、導入ハードルの低さはまず特筆すべき点です。最上位グレードのS1 Professionalにはデモ版が用意されており、無償版としては機能を限定したS1 Primeがあるので、初心者の方……特にパソコン周りは苦手だけどバンドのデモを作りたいギタリストの方は、気軽に試せるのでとても推せます。

 

 そしてS1の本質的な魅力として最も大きいのは“音質”に尽きます。濁りを一切感じさせない透明度の高さで、なおかつ高級感もあるのです。そのサウンドで録音と再生、マスター・クオリティのファイル書き出しが行えます。特にメタルのサウンドは、深くひずませたドロップ・チューニングのディストーション・ギターで音の壁を作ったり、地獄の底から叫ぶようなシャウトが入ったり、はたまた人間離れたした手数の多いドラミングなどが特徴です。そういう常軌を逸した規格外のサウンドを、オーディオ的にも優れたものとして成立させなければなりません。そんな矛盾に満ちたエクストリームな音楽故に、制作の裏側ではとても繊細でシビアな音の扱いが必要になります。音質を常に担保しながら進めていくことが非常に大事なので、レコーディングからマスタリングまで、どの段階においてもS1の音質には絶対的な信頼を置いています。

 

オーディオ・エンジンの処理精度は
サウンドの傾向で選択する

 現在はバージョン5が最新ですが、特にバージョン3から5へと向かう過程で飛躍的にサウンドの進化を感じられたのは大きなインパクトでした。バージョンを経るごとに解像度が上がってより緻密(ちみつ)になり、それまでに作成したミックスをうまく聴かせてくれるような“まとまり”が得られたのです。音楽を格好良いと思わせてくれるサウンドへ進化していくさまに、毎回興奮していましたね。

 

 S1 Professionalのオーディオ・エンジンの処理精度はシングル(32ビット)とダブル(64ビット)の2つから選択できますが、これについては技術的なことよりサウンドの傾向で選んでいます。32ビットの方が音数の多いメタルの楽曲ではミックスがよくまとまり、アグレッシブさが出て、音が前に出てくるので好ましい結果が出る場合もあります。時代背景もあったかもしれませんが、2010年代の前半は、メタルコア・タイプの楽曲であれば32ビットの方がマッチすると感じていました。これは、64ビットのサウンドが当時としては世界的にも先進的過ぎただったからではないかと、今だからこそ思います。

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Studio One>環境設定>オーディオ設定の“処理精度”からオーディオ・エンジンの処理精度を選択できる(赤枠/筆者の画面は英語表示)。シングル(32ビット)と倍精度のダブル(64ビット)が用意されており、それぞれに音質的な特徴がある。詳細は本文に譲るが、筆者は楽曲のキャラクターに合った方を選ぶことにしている

 このように、僕は楽曲に合わせてサウンドの仕上がりを選んでいます。そもそも音楽に正解は無いので“試した結果が好ましい方で良い”という考えです。音の方向性を決定付ける重要な部分なので、どちらが楽曲に合っているか試しに書き出してみる価値があります。仮に32ビットで作り始めても64ビットへ切り替えることができるので、ぜひ聴き比べてみてください。

 

インサート・エフェクトの前段で
音量にオートメーションを設定可能

 ここ数年のアップデートで特に重宝している機能はゲイン・エンベロープ、アレンジ・トラック、ミキサーのシーン設定です。ゲイン・エンベロープは波形自体の音量を調節できる機能で、いわばインサート・エフェクトの手前でかかるボリューム・オートメーション。僕はシャウトを強烈に聴かせるべく極端にコンプレッションするので、ブレスだけ抑える用途に活用しています。以前はブレスの波形を切り抜いた後にイベントごと音量を下げるやり方でしたが、その手間が省けました。

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バージョン5からの新機能“クリップ・ゲイン・エンベロープ”は、フェーダーではなくオーディオ・イベントの音量にオートメーションを描くための機能。インサート・エフェクトの前段にかかるため、例えばコンプへの“当て方”などを細かく調整することが可能

 アレンジ・トラックは、曲の各場面をブロック単位で扱える機能。視認性にも優れ、マーカーを立てるよりも瞬時に構成が把握できるので、効率が大幅に向上して助かっています。

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トラックのレーンの上部に表示させることができるアレンジ・トラック(赤枠)。曲のセクションを定義するためのトラックで、四角いオブジェクトを使い“ここからここまでがサビ”などと決めておけば、構成を変えたいときにもオブジェクトをドラッグし、目的の位置へドロップするだけでOK

 そして目玉はミキサーのシーン設定。僕はミキシングに入る前、トラックの構成に時間をかけて下準備をするのですが、シーンを使うと好みのトラック構成を瞬時にリコールできます。また以前のミックスのバージョンだったり、あらゆる設定の記録へ瞬時に戻れるのもポイント。S1純正以外のプラグインも含めて全パラメーターがリコール可能なので、これは待望の追加機能でした。

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ミキサー・シーンは、ミキサー内のあらゆる設定を保存/呼び出しできる機能。ワンタッチですべての設定を呼び出せるほか、一部のチャンネルの情報だけをロードすることもできる(赤枠)

 次回からは、メタルの制作で即座に活用できる純正プラグインの設定や、さらに踏み込んだ実践的で強力な使用方法などを解説していく予定でいます。記事の感想や質問がありましたらTwitter(@HiroMETALSAFARI)で気軽に連絡をもらえたら幸いです。それではまた。

 

Hiro

【Profile】METAL SAFARIのギタリストとして国内外で活動し、2010年からプロデューサー/エンジニアに。レコーディングからミックス、マスタリングまで広くこなす。NOCTURNAL BLOODLUSTやUnlucky Morpheusなど数多くのメタル・バンドを手掛けてきた。

【Recent work】

 

製品情報

www.mi7.co.jp

 

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