レガート系フレーズの打ち込みをストレスフリーに乗り切るノウハウ 〜中村佳紀が使うStudio One【第3回】

レガート系フレーズの打ち込みをストレスフリーに乗り切るノウハウ 〜中村佳紀が使うStudio One【第3回】

 こんにちは、中村佳紀です。PRESONUS Studio One(以下S1)は、先日バージョン5.3へのアップデートができるようになりましたね! 筆者が注目しているのはサウンドバリエーション機能の向上ですが、現在着手している作品がひと段落してからアップデートしようと考えているので、試すのはもう少し先になりそうです。さて、今回も先月に続き『FINAL FANTASY VII REMAKE』のサントラから「七六分室陽動作戦」をピックアップ。ソング・ファイルを元に筆者お気に入りの機能や制作手法をシェアします。

トラック数が増えたときに低遅延でリアルタイム入力する方法

 今回はストリングスのレガート系フレーズを中心にフォーカスしたいと思いますが、その前に皆さんは“ドロップアウト保護”などの機能をお使いでしょうか? トラック数が増えていくと、プロセスブロックサイズ(いわゆるバッファー・サイズ)を上げないことにはCPUに大きな負荷がかかってしまいますよね。でもプロセスブロックサイズを上げたら、MIDI鍵盤を弾いて新たにパターンを打ち込んでいく際のレイテンシー(遅延)がストレスになります。その対策として、S1には“ドロップアウト保護”や“インストゥルメントの低レーテンシーモニタリングを有効化”などのユニークな機能があるのです。

 

 まずは環境設定から、オーディオ設定のプロセッシング欄にアクセス。デフォルトではドロップアウト保護が最小になっていると思いますが、これを“最大”にするとプロセスブロックサイズが自動的に2,048サンプルに変わります。併せて“インストゥルメントの低レーテンシーモニタリングを有効化”へのチェックもお忘れなく。

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S1の環境設定のオーディオ設定画面。プロセッシング欄に入ると、ドロップアウト保護のセットアップが行えたり(赤枠)、インストゥルメントの低レイテンシー・モニタリングを有効化することができる(黄枠)

 その後オーディオデバイス欄の“デバイスブロックサイズ”を最小にすると、ソング内の既存のインストゥルメント・トラックがすべて2,048サンプルで再生され、リアルタイムで新たにパターンを打ち込むトラックのみが最小サンプルで処理されるようになります。つまり、2つの異なる処理を同時に行うスーパー・モードというわけです。

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プロセッシング欄での設定を済ませた後、オーディオ設定画面のオーディオデバイス欄でデバイスブロックサイズを最小の16サンプルに設定(赤枠)。レイテンシーを抑えながらのリアルタイム打ち込みが可能になる

 ミキサーのインストゥルメント欄を見てみると、選択しているトラックのインストゥルメント名に緑色のアイコンが付いており、レイテンシーを抑えながらリアルタイムに打ち込めることが示されています。この機能は本当に画期的なので、まだ試したことが無ければぜひ使用してみてください。ただし、あくまでもインストゥルメント・トラックのみに有効で、オーディオには非対応となります。

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環境設定のオーディオ設定画面で“インストゥルメントの低レーテンシーモニタリングを有効化”をオンにすると、選択中のインストゥルメントのアイコンが通常の青色から緑色に変わる(赤枠)

FaderPort+ペイントツールでのスムーズなダイナミクス作り

 快適に作業できるようになったところで、「七六分室陽動作戦」のイントロに登場するバイオリンのレガート・フレーズを見ていきたいと思います。フレーズ自体はとてもシンプルですが、最後の音に“スフォルツァンド・ピアノからのクレッシェンド”といった抑揚が欲しかったので、ダイナミクスの付け方を重視しました。こうした音作りにはMIDIコントローラーのモジュレーション・ホイールを用いることがあると思いますが、筆者は普段からPRESONUS FaderPortのフェーダーを使用しています。

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PRESONUSのフィジカル・コントローラーFaderPortは、筆者愛用の一台。100mm長のフェーダーを装備し、各種パラメーターの微調整にも便利

 全長100mmで、上下方向の“あそび”がしっかりとあるためモジュレーション・ホイールよりも細かいニュアンスが付けやすく、S1との連携性も抜群。例えばモジュレーション・ホイールをFaderPortのフェーダーでコントロールしたい場合、インストゥルメント・トラックを選択した状態でホイールに軽く触れるとS1の画面左上に“Modulation”との表示が現れます。そして、すぐ右隣の三角形マークを押すと、もうフェーダーにアサインできるのです。

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インストゥルメントのモジュレーション・ホイールに触れるとS1の画面の左上に“Modulation”の表示が。この状態で右の三角形マークを押すと、すぐにFaderPortのフェーダーにアサインできる(赤枠)

 FaderPortでモジュレーション・ホイールを操作できるようになったら、あとは納得いくまで打ち込んでいくのみ。筆者は大体イメージに近付けられた段階で、微調整にペイントツールを使用することがあります。その際は、選択したノートの各パラメーターに滑らかな変化を与えやすい“放物線”モードが便利。ストリングスに限らず、レガート系のパートにはすべてFaderPortでのコントロール→ペイントツールによる微調整という方法でダイナミクスを付けています。こうして書いてみると、前回紹介したAtomしかり、筆者はかなりPRESONUS製品に助けられています。

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FaderPortでモジュレーション・ホイールを操作しつつ打ち込んだ後、ペイント・ツールの“放物線”モードで調整。編集個所は白く表示される(赤枠)

S1とのMIDIのやり取りが円滑な譜面作成ソフトNotion

 S1との連携と言えば、PRESONUSの譜面作成&作曲ソフトNotionも筆者にとって欠かせないもの。「七六分室陽動作戦」については、写譜の専門家にお願いしてレコーディング用の譜面を用意してもらいましたが、筆者自ら作成する際には必ずNotionを使っています。オーケストレーターの一員として参加したコンサート“FINAL FANTASY VII REMAKE Orchestra World Tour”でも大活躍してくれました。

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PRESONUSの楽譜作成&作曲ソフトNotion。S1との連携性の高さが特徴で、相互にオーディオやMIDIのやり取りが行える。なお、この画面は「七六分室陽動作戦」のものではないため、あらかじめご了承いただきたい

 モックアップができてから譜面を作成する際は、まずS1上でクオンタイズ/エンドをクオンタイズ(ノートの末端をそろえる機能)を用いて、MIDIデータを狙った音価に整えます。その後Notionを立ち上げ、S1画面上部のソング・メニューにある“Notionに送信”を選択すれば、S1からNotionへMIDIデータが送信されます。すると大方整った譜面ができるので、後は細かい調号や音符を調整していくのみ。同じような要領で、NotionからS1にもMIDIの送信が行えるため、S1で再調整したいと思った際、わざわざ立ち上げ直すことなくスムーズに受け渡しが可能です。

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S1からNotionにMIDIのノート・データを送信する画面。送り終えるとNotionに大方整った譜面が生成されるので、微調整を行えばレコーディング・セッションなどで使える状態にすることができる

 筆者の知る限りでは、Notionのユーザーはまだまだ多くはない印象ですが、こうしたS1との連携は限られた時間の中で最大限のパフォーマンスを引き出すのに大きな手助けとなります。付属音源のクオリティも高いので、S1ユーザーなら持っていて損は無いはず! 現状、老舗の譜面作成ソフトに比べてオフィシャル・チュートリアル以外のコンテンツが少ない印象ですが、この先ユーザーが増えていけばTipsの共有も活発化するでしょうから、個人的にもよりポピュラーになってくれることを願うばかりです。

 

 今回は寄り道を挟みながらの内容でしたが、いかがだったでしょうか? 来月は筆者執筆分の最終回となります。最後まで読者の方々のヒントになる情報をシェアできればと思っていますので、お付き合いください。

 

中村佳紀

【Profile】1995年生まれ。中学時代、バンド活動に没頭しDTMを始める。専門学校に入学後、ゲーム音楽のコンテストで最優秀賞を受賞するなど多くの注目を集め、在学中から作曲家としてのキャリアをスタート。現在、ゲーム・ドラマ・アニメなど幅広いジャンルの劇伴作家として活躍する気鋭のクリエイター。Spotifyのプレイリストでワークスを聴くことができる。

【Recent work】

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『FINAL FANTASY VII REMAKE INTERGRADE Original Soundtrack』
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