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決して派手ではないけれど強力! MIDIに効くクリエイティブ&便利な機能 〜中村佳紀が使うStudio One【第2回】

決して派手ではないけれど強力! MIDIに効くクリエイティブ&便利な機能 〜中村佳紀が使うStudio One【第2回】

 こんにちは、中村佳紀です。先月、筆者がアディショナル・コンポーザー/アレンジャーとして制作に携わったSONY PlayStation 5用ゲーム『FINAL FANTASY VII REMAKE INTERGRADE』のサウンドトラックが発売されました。どの楽曲も自信作なので、ぜひチェックしてみてください! またSpotifyで“中村佳紀”と検索していただくと、筆者が携わった楽曲のプレイリスト『中村佳紀Works』が出てきます。普段どういった音楽を作っているのか知ってもらえると思うので、こちらもぜひ聴いてみてください。

“音を選択”機能を活用し、目的のノートを一括選択してから編集

 今回は、PRESONUS Studio One(以下S1)のお気に入り機能を楽曲のソングを元にシェアします。題材は昨年に発売された『FINAL FANTASY VII REMAKE』のサントラに収録の「七六分室陽動作戦」。オリジナルである『FINAL FANTASY VII』の作曲者、植松伸夫氏の「更に闘う者達」のモチーフを用いながら、筆者独自の要素を加えた戦闘シーン向けの一曲です。ユーザーのプレイに応じてシームレスに楽曲が変化するプログラム“インタラクティブミュージック”に合わせて、エピック調のオーケストラに始まりエレクトロ〜シンフォニック・メタルと曲調が大胆に変わっていく構成を採りました。

 

 ではイントロにフォーカスして見ていきましょう。最終的には、パーカッション以外のオーケストラ楽器は生演奏に差し替わったのですが、部分的に打ち込み素材を混ぜることも想定していたのでモックアップを丁寧に作りました。

 

 楽曲の前半は5/8拍子を中心に進行していきます。まずはストリングスのオスティナート(反復)。アクセントの位置に気を配りながら、納得いくまでMIDI鍵盤を弾いて入力しました。気に入ったテイクができたら、幾つかレイヤーに残しておきます。筆者はMacユーザーで、コンピューター・キーボードの“.”(ピリオド)でレイヤーに追加が行えるようショートカットをカスタマイズしています。その後すべてのテイクを聴き直し、最も良いと思ったものをチョイス。各テイクの良い部分をつないでベスト・テイクを作ることもあり、その場合は最後にイベントを結合しておきます。一つにしたいイベントを選択し、コンピューター・キーボードの“G”を押せば完了ですね。

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S1には、オーディオやMIDIのテイクをストアしておける“レイヤー”という機能がある。画面は「七六分室陽動作戦」イントロのストリングスのMIDIレイヤー。最上段にあるのは、各テイク(赤枠)の良い部分をつなぎ合わせて作成したベスト・テイクだ

 スタッカートの打ち込みでアクセントの部分をもっと強調したい、もしくは目立ち過ぎるので抑えたいといった場合に愛用しているS1の便利ツールが2つあります。

 

 一つはノート・エディターのベロシティ欄。ここで目的のノートを一括選択し、ベロシティを上げ下げします。視覚的で分かりやすく選択できるため、大抵のフレーズはこれで事足ります。

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ノート・エディター下部にあるベロシティ欄(赤枠)。各ノートのベロシティが縦のバーで表示され、バーを動かすことでベロシティの変更が可能だ。画面はスタッカートのノートのベロシティを一括選択しているところで、まとめて調整したいときに便利な方法

 もう一つは、ノート・エディター上部の“アクション”メニューから起動できる“音を選択”という機能。指定した属性のノートを一括選択/選択解除できるもので、ポップアップ内の“選択”と“範囲”にチェックを入れ、“ピッチ”“ベロシティ”“ノート長”の3つのパラメーターを設定して使います。例えばノート長を“32分〜16分音符”のように短めの長さに範囲指定すれば、スタッカートやレガートのノートが混在したフレーズからスタッカートのみ一括選択できるため、調整に至るまでが速いです(もちろん、フレーズに応じて各パラメーターの範囲指定をうまく行う必要があります)。この機能は本当に便利で、ここに挙げた例以外にも活用場面があると思うので、ぜひいろいろと試してみてください。

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ノート・エディター上部“アクション”のメニュー(赤枠)から起動できる“音を選択”。指定した範囲のピッチ/ベロシティ/ノートの長さに該当するMIDIノートを一括選択/選択解除できる機能で、設定次第ではスタッカートやレガートのノートが混在した中から、スタッカートのみを選ぶようなこともできる

 以上のような一連の作業をストリングス・パート全体に対して行います。細かい作業に思えるでしょうが、ストリングスは各パートに多少の揺れがあっても、アンサンブルとして聴くと楽曲によっては良い味になっていたりするので、あまり神経質になり過ぎないよう臨機応変な調整を心掛けています。

 

Atomדクオンタイズ50%”でヒューマンなリズムを創出

 次にパーカッションを見ていきます。先述の通り、パーカッションはS1で作った音がそのまま本チャンに残っていますので、今回の読みどころかと思います。

 

 まずはストリングスのフレーズに合わせて、土台となるリズム・メイクを行います。リズムを打ち込む際は、MIDI鍵盤ではなくPRESONUSのパッド・コントローラーAtomを使うことがほとんど。筆者の感覚だと、鍵盤では打楽器に欠かせない“同音連打”がしにくいのですが、Atomを使うことで一気に解決します。また、Atom本体でS1の再生や停止、レコーディングやアンドゥなどの基本的な操作もできるので、スムーズに打ち込んでいくことが可能。ほかにもS1とのさまざまな統合があり、さすがはPRESONUS製品だけあってソフト/ハードの連携が完ぺきです。

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PRESONUS製のMIDIコントローラーAtom(オープン・プライス/市場予想価格19,800円前後)。筆者のリズム打ち込みの相棒だ

 次に、打ち込み終えたリズムについて。タイミングの甘い部分があった際はS1のクオンタイズ機能を使うのですが、筆者は普段“クオンタイズ50%”の方を愛用しています。通常のクオンタイズではグリッドにピッタリ修正されてしまい、せっかくコントローラーで打ち込んだヒューマンな揺れが無くなってしまうので、全体に一度クオンタイズ50%をかけてから、さらに気になった個所へ部分的に再度かけるような使い方をしています。これによりリズムがカチッと立ちつつも人間味のあるフレーズにしていくことが可能です。

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S1には3種類のクオンタイズ機能が用意されている(赤枠)。グリッドに沿わせる“クオンタイズ”、その半分の度合いでタイミング補正を行う“クオンタイズ50%”、各パラメーターを自由に設定できる“ノートをクオンタイズ”だ。筆者は“クオンタイズ50%”を使用して、MIDIコントローラーの打ち込みによる人間的な揺れを残すようにしている

 さて、この楽曲ではパーカッションの厚みが肝だったため、同じフレーズを別の音色で何層も重ねています。今回は各レイヤーを個別に打ち込むのではなく、初めに作ったMIDIをコピー&ペーストしてから“ヒューマナイズ”機能で変化を加えました。これはMIDIパターンに人間的な揺れを付加するためのもので、かかり方が絶妙。なおかつ細かい設定が行えるため、とても重宝している機能の一つです。ベロシティおよびノート・スタート範囲の設定をうまく組み合わせることで、大胆な変化も絶妙な揺れも容易に作り出せます。音色レイヤーに使うパターンに対しては、ベロシティを−10〜10%以内の範囲、ノート・スタートを−0.00.10〜0.00.10の範囲内で設定することが、筆者の場合は多いです。

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ヒューマナイズ機能は、選択したMIDIノートにベロシティやタイミング(ノート・スタート位置)のランダマイズを施すもの。ベロシティとタイミングのそれぞれをどのくらいの範囲でランダマイズするか、画面のポップアップで指定することができる

 今回はMIDI打ち込みに焦点を絞りながら、さまざまなS1の機能をシェアしました。どの機能も筆者が制作の際に必ずと言ってよいほど使っているものばかりですので、ぜひご自身の制作にも役立てていただけたらと思います。それでは、また次号もよろしくお願いします!

 

中村佳紀

【Profile】1995年生まれ。中学時代、バンド活動に没頭しDTMを始める。専門学校に入学後、ゲーム音楽のコンテストで最優秀賞を受賞するなど多くの注目を集め、在学中から作曲家としてのキャリアをスタート。現在、ゲーム・ドラマ・アニメなど幅広いジャンルの劇伴作家として活躍する気鋭のクリエイター。Spotifyのプレイリストでワークスを聴くことができる。

【Recent work】

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『FINAL FANTASY VII REMAKE INTERGRADE Original Soundtrack』
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