AUDIO-TECHNICA AT2040 レビュー:配信や宅録に向けたハイパー・カーディオイドのダイナミック・マイク

AUDIO-TECHNICA AT2040 レビュー:配信や宅録に向けたハイパー・カーディオイドのダイナミック・マイク

 AUDIO-TECHNICAは従業員3名で新宿区の民家を借り、資本金100万円で創業開始したそうですが、今やマイク・メーカーとして定番の一角を占める人気です。特にアメリカ市場で成功を収めており、どのスタジオにも1本はある存在になりました。どのマイクもコスト・パフォーマンスに優れた実直な音質で、安易にクローンに走らず新しい音を開発する姿勢には非常に好感が持てます。今回レビューするAT2040は、生配信やポッドキャストでの使用を想定したハイパー・カーディオイドのダイナミック・マイクです。

エンド・アドレス型、周波数特性は80Hz〜16kHz

 AT2040はエンド・アドレス型で、長さ145.3mm、本体最大径52mmと太めな作りになっており、ちょうどELECTRO-VOICE RE20を5cm短くしたようなサイズ感です。金属製のボディは小ぶりながらも615gとずっしりしていて、マットなブラックのカラーも高級感があります。市場予想価格は12,100円前後のようですが、それを知る前は“30,000円以上するだろう”と予測していました。海外メーカー製の同価格帯のものと比較して、明らかに雰囲気がワンランク上。こんな値段で買えてしまっていいのか……と不安になりました(笑)。感度は−53dB(2.2mV)で、出力インピーダンスは600Ω、周波数特性は80Hz~16kHzです。付属品はマウンティング・クランプAT8487と変換ネジ、ポーチ。本体がショック・マウント一体型の構造になっているので、別途ショック・マウントの購入の必要は無いかもしれません。

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付属品のマウンティング・クランプAT8487を取り付けたAT2040

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付属品のポーチ。AUDIO-TECHNICAのロゴが刻まれている

宅録環境でもクリアに収音できるソリッドなサウンド

 それでは、実際に試してみましょう。今回はSHURE SM58、SENNHEISER MD 421、BEYERDYNAMIC M160、NEUMANN U87の4本を並べてナレーションの録音をしてみました。配信用途を想定して、コンピューターと同じ部屋にマイクを設置してのテストです。

 

 ぱっと立てて使ってみたところ、カーディオイドのSM58やMD 421と差し替えても大きく音量感は変わらないで使えました。ナレーション用途でハイパー・カーディオイドのマイクを使う際に、ものによってはかなり音量が小さいケースがあります。チープなマイクプリとセットで使うとノイズが目立ってしまったりして、別途マイクプリ前にゲイン・ブースターを付けて使わざるを得なかったりするのです。その点、AT2040はそのままでも十分な音量が得られるので、一般的なオーディオ・インターフェースと一緒に使えます。

 

 周波数特性はダイナミック・マイクとしてはノーマルですが、SM58やMD 421は高域がブーストされてオープンに聴こえるのに対して、AT2040はマットで倍音は若干少なく感じました。また、リボン・マイクのM160ほど高域が丸まっておらず、中高域がザラつくような脚色もされていないためフラットな印象です。U87のように高域が伸びて良い音である反面、繊細な音までとらえ過ぎるマイクは、コンピューターのファンのノイズなどが邪魔なレベルで録音されてしまいます。U87はボーカル・ブースで録音すると良い音ですが、コンピューターの前で録音して未処理で使うのであれば、AT2040が一番クリアな音だと思いました。ボーカル・ブースなど整った環境での良い音は定番マイクに軍配が上がりますが、コンピューターやエアコンがあるような宅録環境においては、圧倒的にAT2040の方が使える音になります。

 

 また、低域は高域の印象と似ていて、ボワっと広がることなくギュッとタイトにまとまり、全体的にソリッドなサウンドでした。ただし、これは細いという意味ではなく、マイクを通してしゃべったときにボワボワと膨らんでしまうことなく、EQをしなくても普通に聴こえるといったニュアンスです。ポップ・フィルターも内蔵されているので、ほかのマイクに比べて吹かれの問題も起こらず、扱いやすい音色でした。

 

 またハイパー・カーディオイドであることもあり、ほかのマイクに比べてマイク前方以外の音のかぶりがとても少ないです。しゃべる用途に使う分にはメリットしかないと思いますが、収音範囲から外れるとトーンが多少変わったり音量がガクっと下がるので、動きながら使いたい人は注意が必要かもしれません。収音範囲内でマイクから後ろへと遠ざかってみた場合には、ほかのマイクに比べて遠くへ離れていく感じが希薄で、シンプルに音量が下がりました。ボーカル用マイクは繊細で奥行きがあるのを売りにすることが多いですが、AT2040はある意味それとは異なり、宅録環境でも声をエフェクターのように切り出して、自然に聴かせるような作りになっています。

 

 まさに生配信やポッドキャスト用に特化していて、その用途では高級マイクよりAT2040の方が結果的に良い音になるのが確認できました。ほかにも小規模ライブでかぶりを減らしたいときなどに使ってみるのがいいかもしれません。何しろ価格以上のマイクであることは間違いなく“少し安過ぎるのでは”と心配になるくらいでした(笑)。

 

中村公輔
【Profile】neinaや繭のメンバーとしてMille Plateauxなどから作品をリリース。現在はレコーディング・エンジニアとして宇宙ネコ子、折坂悠太、ツチヤニボンド、ルルルルズなどの作品に携わっている。

 

AUDIO-TECHNICA AT2040

オープン・プライス

(市場予想価格:12,100円前後)

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SPECIFICATIONS
▪形式:ダイナミック ▪指向性:ハイパー・カーディオイド ▪周波数特性:80Hz〜16kHz ▪感度:−53dB、2.2mV(0dB=1V/1Pa、1kHz) ▪出力インピーダンス:600Ω ▪外形寸法:52(φ)×145.3(H)mm ▪重量:615g ▪付属品:マウンティング・クランプAT8487、変換ネジ、ポーチ

製品情報