DAWの普及、インディペンデントな制作スタイルの隆盛、SNSでのコンテンツ公開などで、さまざまなクリエイターが取り組んでいる“自宅でのボーカル録り”。コロナ・ウィルス以降、その必要性がますます高まっていると言えます。今回は、プロ・アーティスト20組の自宅ボーカルREC術を使用機材とともに一挙公開。ホーム・レコーディング初心者からアップデートを考えている人まで、Tips集として活用していただけると幸いです。
高田漣
部屋にはお気に入りの柱というか壁があって
それに向かって歌うと質感が良くなるんです
僕は本来、デモ制作のために宅録を行っていましたが、近年は仮歌が本チャンに採用されることも多く、全く宅録だけの『Kitchen Tapes』というアルバムも生まれました。正確には自宅ではなく作業部屋を使っていて、音が出せる環境なので特に防音はしていませんが、家でやるのと同じく騒音に悩まされることはあります。
使用しているDAWはAVID Pro Toolsで、オーディオI/OはPro Tools | Eleven Rack。宅録ではピッチ補正ソフトなどを一切使わないので、歌はプレイバックを何度も何度も聴き返して、気になったところを歌い直すという古典的な手法を採っています。部屋にはお気に入りの柱というか壁がありまして、それに向かって歌うと反射音が相まって、録り音の質感が良くなるような気がするため、必ずそうしています。多分に験担ぎ(げんかつぎ)の意味合いが強いようにも思いますが、エンジニアリングの用語でコーナー・ローディングと呼ぶのだと聞いたことがあります。
テイク選びのポイントは“少し時間をおいて聴く”“そのときに自分が感動するかどうか”。録り音が命だと思うので、後処理はPro ToolsのEQやコンプくらいにしておきます。アウトボードに手を出したいけれど沼が待ち受けている気がするので(笑)、その点でも“宅録はデモ制作”という基本理念は崩さないよう心掛けたいところです!
機材紹介
Condenser Mic
RODE Classic II
最近の歌録りでメイン使用している真空管マイクです。仮歌の採用率が上がったのを見かねて、エンジニアの関口正樹君が貸してくれました。電源供給ユニットは使い勝手が良く、クリアな音像で、押し出しも強く気に入っています。電源を入れて少し温めてから使った方が良いようです。
Ribbon Mic
RCA 44BX
説明不要と言える伝説の名機。リボン・マイクは録音のたびに機嫌が変わる生き物です。出力レベルが低く、扱いづらい点は多々ありますが、これでしか出せない質感もあります。メインの歌やコーラスなどに使用すると、一気にウォームでふくよかな、往年のジャズ・コーラスのような質感になります。恐るべし! ただオケの音圧が高かったり、音数が多い場合には抜けが悪く聴こえ、向かない気がします。
Dynamic Mic
TELEFUNKEN M80
音圧が高かったり、音が込み入っていてRODEでも歌が抜けてこないときなどは本機を使います。パワー感がハッキリあるのと、普段自分のライブでも長年使用しているので、熟成されて自分の声の帯域に適してきた印象(都市伝説?)。
【デジマートで探す】
Earphone
FITEAR Custom In-Ear Monitor
自分の歌録りに欠かせないのがFITEARのイアモニです。クリック漏れなどを防ぐ意味もあって、外のスタジオではウクレレなど弱音の楽器の録音の際にも必ず使います。
高田漣
音楽家/プロデューサー/作編曲家/マルチ弦楽器奏者。フォーク・シンガー高田渡の長男で、2002年にソロ・デビュー。2017年には日本レコード大賞の優秀アルバム賞を獲得。自身の活動と並行して他アーティストのプロデュースや映画、ドラマ、舞台、CMなどのための音楽も手掛ける
【Recent Work】
プロ20組の歌録り機材&テクニック! 自宅ボーカルREC術
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