DJをやっているんだけど、そろそろ自分の曲が欲しい。でも、どうやって作ればいいのか分からず二の足を踏んでいる……こんなお悩みを抱えている方は、ぜひご覧ください。4つ打ちのダンス・ミュージックを作りたい、すべてのトラック・メイカー志望者に向けた特集です! レクチャーしてくれるのは、All Day I Dreamなど海外の人気ハウス・レーベルから作品をリリースし、国内ではFriday Night Plansのアレンジなども手掛けるYuichiro Kotani氏。基礎からゆっくりと解説していただいたので、1日にワンテーマ、いや1週間にワンテーマでもコツコツ読み進めてもらえたらと思います。
解説:Yuichiro Kotani
Yuichiro Kotani
【Profile】米バークリー音楽大学で学んだ後、近年はアーティストとしてAll Day I DreamやSag & Tre、Loot Recordingsといった欧米の人気レーベルからディープ・ハウスをメインに発表。国内では広告音楽制作やメジャーへの楽曲提供も行うほか、モジュラー・シンセでのライブ・パフォーマンスを積極的に展開している。
Yuichiro Kotani's Demo Track
各ステップの解説はこちら
・STEP 1:基本の4つ打ちパターンを作る
・STEP 2:4つ打ちドラムにプラスαを
・STEP 3:曲の構成をざっくりプランする(会員限定)
・STEP 5:高まりどころ=ドロップを作る!(会員限定)
・STEP 6:前半部とアウトロを整える(会員限定)
STEP 4:ブレイクにドリーミーな要素を追加
ベーシック・パターンからキック&ベースを抜くと、確かにブレイクっぽくはなりますが、物足りない感じにも聴こえないでしょうか? 現状では、ほとんどリズムだけになってしまいます。それだとブレイクに入ったという感じも出にくいので、ドリーミーもしくはアトモスフェリックな要素を足してみましょう。ここからはブレイク②を作っていきます。
1. シンセのピッチ・ベンド・フレーズ
まずはサード・パーティ製(DAW付属ではない他社製)のソフト・シンセ、SPECTRASONICS Omnisphere 2でフレーズを作ってみましょう。ソフト・シンセはサンプルと仕組みが違い、打ち込み=音を出すタイミングや長さ、強さなどを指定する“MIDIノート”というもので鳴らします。一種の命令信号ですね。MIDIノートは“ピアノロール”などと呼ばれる画面上に入力します。シンセを鳴らしたいタイミングにマウスで打ち込むか、音を聴きながらMIDIキーボードを弾いて入力してみましょう。
今回は後者の方法で、一音だけのフレーズを加えてみました。ポイントは、MIDIキーボードの“ピッチ・ベンド・ホイール”という機能を活用したところ。これにより、一音の中にピッチの“揺らぎ”が生まれ、機械的ではないオーガニックな響きとなりました。どこかバイオリンのような音だと思います。しかも、鍵盤を1つ押さえながらホイールをいじるだけなので、キーボードが堪能でない人にも取り入れやすい技。この後、サード・パーティ製シンセARTURIA Pigmentsを使い、またも一音だけのフレーズを加えています。こちらは木管のような音で、ピッチ・ベンドは使っていません。
2. SEや環境音で“分厚さ”を出す
アトモスフェリックな要素として、サンプル・ループのSEや環境音を使うと手早く雰囲気が出せるでしょう。まずはノイズのようなSE。こういったSEは、ダンス・ミュージックでは盛り上がりを作るための定番的な要素です。そして環境音。今回は、川辺の音を生録したようなものを加えました。地味に思えるかもしれませんが、環境音のある無しで全体の分厚さが変わってくると思います。僕らが日常生活で聴いている音は、音そのものだけでなく、周囲の雑音や部屋の反射などが込みになったものです。だから、環境音を一つ入れるだけでリアルに感じられるようになりますし、それが分厚く聴こえる理由でもあると思います。これらと併せて、もう1種類SEを加えてみました。
3. アルペジオを打ち込む
ブレイクでは、ベーシック・パターンでメインとして聴かせているベースを抜いています。その結果、少し寂しくなってしまったので、ブレイク前から徐々に入ってきて、そのまま残しておける要素が欲しいと感じました。その常とう句と言えるのが和音をバラバラに弾く“アルペジオ”です。使用するシンセはサード・パーティ製のARTURIA ARP 2600 V3。このシンセには“シーケンサー”という便利な機能が入っています。ピアノロールにMIDIノートを1つだけ入力し、シンセのプリセット・メニュー“Sequence”から好きなものを選ぶだけで、アルペジオが作れるのです。また、選んだものを自分なりにエディットすることもできます。今回は、プリセットを曲に合わせてエディットしてみました。
4. アルペジオを波形編集とディレイで加工
アルペジオを作ってみると、フレーズ自体は曲に合うものの“鳴りっぱなし”という印象で、やや過剰に聴こえました。そこで、まずはアルペジオの音をサンプル・ループに変換。これは“バウンス”や“レンダリング”と呼ばれる作業であり、MIDIノートで鳴らしているシンセの音をオーディオ素材(波形)に変換することです。やり方はDAWによりけりですが、Studio Oneでは“新規トラックにバウンス”というメニューで即完了します。
バウンスによりアルペジオのループが出来上がりました。続いて、1小節ごとに後半の1/2小節を切り取り、前半だけしか鳴らないようにします。でもこれだと、アルペジオが鳴ったり消えたりして不自然ですよね? そこでディレイを使用。ディレイが無音のはずの後半部を埋めてくれるので、アルペジオが持続して聴こえるようになります。でもあくまでディレイ音なので、実音に比べて遠く聴こえます。結果、過剰な感じが無くなり、なじみ良くなるのです。このアルペジオをブレイク前からコピペして並べて、フェーダーのオートーメーションで徐々に大きくしてみましょう。
5. 胸に迫るコードを入れる
アルペジオが入ったことでブレイクが成立するようになりましたが、まだ“胸に迫るもの”がありません。だからこそ、欲しいのは叙情的なコード進行です。今回はサード・パーティ製ストリングス音源、OUTPUT Analog StringsをMIDIキーボードで演奏し、コードを追加。ベーシック・パターンがストイックな雰囲気なので、ブレイクで一気にドリーミー/エモーショナルにするというコントラストです。鍵盤が弾けない、コードの知識が無いという方は、サンプルのコード・ループを使うのも手。最近はファイル名にキー(CとかAmとか)が書かれていることが多いので、メインのサンプル(=本稿の題材曲であればベース)のキーが分かれば、それが曲自体のキーとなっている可能性が高いです。Spliceでキーの絞り込み検索をするなどして、マッチするコード・ループを探してみましょう。参考までに、ブレイクでコード・ループを使ったバージョンも用意しておいたので、チェックしてみてください。
【特集】4つ打ちトラック制作・超入門