制作ツールも内装もミニマリスティックにまとめた
ライフ・スタイルの延長線上にある創造の場
70'sソウル・スタイルのメロウネスを湛えつつ、耳あたり涼やかな楽曲で人気を博す3人組=LUCKY TAPES。そのフロントマンでありプロデューサー/コンポーザーとしても活躍するKai Takahashiは、都心近郊の自宅マンションを創作の場にしている。11月にリリースされたメジャーでの2ndアルバム『Blend』も、そこから生まれた一枚だ。
Text:Tsuji. Taichi Photo:Chika Suzuki
遮音性能が高く“音”に対して寛容
アルバム制作の大半を敢行
自室の一角に制作環境を構えるKai Takahashi。コンクリート打ちっぱなしの内装にWURLITZERのエレクトリック・ピアノがスタイリッシュだが、注目すべきはここでマスタリングまで完結させているところだ。「プロデュース業などで培った感覚をバンドの方にも還元させています」と語る。
「マスタリングにはSTEINBERG Cubase Proのマルチバンド・コンプ、EQ、マキシマイザーを主に使っていて、あとはたまにNATIVE INSTRUMENTSの製品を挿すくらい。プラグインや楽器といった制作ツールもですが、生活用品や物も最小限に抑えたい性格なんですよ。高い機材やレコーディング・スタジオを使わなくても、パソコン1台でクオリティの高い作品が作れる時代だし、自分のように生活空間を邪魔しない程度の機材量でも音楽は作れるんだという提示ができたらいいなと。こんなにシンプルでもいろいろとできてしまうので、みんなもっと気軽に音楽を作ってみたらいいと思う。そうなったら面白いですよね」
『Blend』の制作工程をさかのぼると、レコーディングもここを拠点に行われたそう。「メンバーには各自で録った素材を幾つか送ってもらい、自分がCubaseの中で再構築していくような作り方をしました」と振り返る。
「実はホーン・セクションもうちで録音したんです。サックスは自分で吹いて、トランペットとトロンボーンはサポート・ミュージシャンを呼んでレコーディングしたのですが、音を出した瞬間、思った以上に大きくて、終始びくびくしながら録ったのを覚えています。スタジオやライブ会場で聴き慣れていたはずなのに、ワンルームの自宅で聴くといつも以上に大きく感じられて」
しかし近隣は静かなものだったという。理由はこうだ。
「この物件、偶然にも音楽をやっている海外の方が多くて。すぐ下の階はDJ、お隣はミュージシャンで、先日もホーム・パーティを開いていました……大音量でエレキギターをかき鳴らしながら(笑)。それはさすがに聴こえましたが、普段はあまり近隣の音が気にならないんですよ。生活音なんて全く聞こえないですし。なので毎晩、朝方まで結構な音量を出して作業したり、歌を録ったりしていても何か言われたことはないです。最近知り合ったちょうど上の階に住んでいる方と話していたときに、普段うるさくないか恐る恐る聞いてみたところ“一度だけブラスの音が聴こえたことはあるけど、それ以外は全く”とのことでした(笑)」
レコーディング用の機材はNEUMANN TLM103(コンデンサー・マイク)にRME Fireface UCX(オーディオI/O)とシンプル。ホーンだけでなく、ギターやボーカルもこれらで録音したという。Fireface UCXのそばにはモニター・スピーカーのYAMAHA MSP5 Studioを設置。「新しいスピーカーに買い替えようと思っているんですが、ディスプレイやテーブルとのサイズのバランスがちょうど良いんです」と話す。
「ディスプレイは今の29インチよりは小さくしたくないですし、もう少し大きくてもいいくらい。以前はMacBook Proとのデュアル・ディスプレイだったのですが、視線の移動が多く、疲れてしまいがちでした。ディスプレイ前のワーク・スペースも手狭になっていたので、横に長い現在のディスプレイを導入してから作業が随分快適になりました。Cubaseのミキサーとエディット画面、歌詞とCubaseなどのように横並びに同時表示もできるので効率も変わらず。ワーク・スペースに関しても十分な広さを確保できているので、ハードウェア・シンセを置いて作業することもあります」
希求するサウンドを数多く収めるProphet-6
制作する楽曲に欠かせないのは“演奏の要素”
Takahashiの所有するハードウェア・シンセは全3機種。SEQUENTIAL Prophet-6、TEENAGE ENGINEERING OP-1、MOOG Sub 37というモダンなセレクションだ。中でもProphet-6については「自分の求めているアナログ・シンセ系のサウンドが集約されています」と絶賛する。
「特にシンセ・ブラス系の音をよく使います。何より、直感的に操作できるのが良いですよね。プラグイン・シンセにオートメーションを描いたりするのが、あまり得意ではないので。もちろん描くことはあるのですが、結構手間のかかる作業だし、手でパラメーターを動かしながら鳴らした方が速いときはProphet-6で音を作って録ったりもします。それに、打ち込みがメインの楽曲にも演奏の要素は持たせたい。バンドの制作はもちろん、個人の制作物にもギターやベースは生で弾いたものを録音したり、ハードウェア・シンセも同様です。リアルな楽器は人間が演奏している分、プラグインよりも温かみと深みが出るので、そのエッセンスを必ず楽曲に取り入れるというこだわりは昔から変わりません」
SPECTRASONICS Keyscapeなどのソフト音源も活用しているというが、同じ楽器の音色でも「実機の音には温かみや奥行きがある」と話す。
「機材の数を最小限にとどめておきたいと話しましたが、マイクプリくらいは単体機をそろそろ導入したいと考えています。シンセやプラグインに関してはあまり不自由していないので、次にアップデートするとしたら入出力周りですね」
Equipment
[DAW System]
Computer:APPLE Mac Mini
DAW:STEINBERG Cubase Pro
Audio I/O:RME Fireface UCX
Controller:ROLAND A-500S
[Recording & Monitoring]
Monitor Speaker:YAMAHA MSP5 Studio
Headphone:AKG K712 Pro
Microphone:NEUMANN TLM103
[Instruments]
Keyboard & Synthesizer:MOOG Sub 37、SEQUENTIAL Prophet-6、TEENAGE ENGINEERING OP-1、WURLITZER 200A
Guitar:FENDER Stratocaster、MARTIN Road Series
Kai Takahashi
【BIO】11月にメジャー第2弾のアルバム『Blend』をリリースしたLUCKY TAPESのボーカリスト/キーボーディストであり、プロデューサー/コンポーザーとしても活躍。単独ではエレクトロニック・ミュージックを手掛け、CM曲なども制作している
Recent Work
Private Studio 2021
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