バンドの練習が行えるスペースも整備
自身のアーティスト活動の原点となった制作場
自身のルーツ、UKロックのサウンドを体現しているシンガー・ソングライターのラブリーサマーちゃん。彼女のロックが生まれる制作拠点にお邪魔し、録音機材の変遷や楽曲作りの流れも含め、スタジオ環境を紹介いただいた。
Text:Yusuke Imai Photo:Takashi Yashima
ボイス・メモを使った特殊なデモ作り
メモを元にCubaseで再現していく
ラブリーサマーちゃんのスタジオは、彼女が住む一軒家に作られている。今は一人で住んでいるが、もともとは家族と一緒に暮らしてきた実家だそうだ。
「私は既に実家を出て一人暮らしをしていましたが、家族が引っ越してしまったことでこの場所が空き家になってしまって。5月にこの家に戻り、制作環境も整えたんです」
ラブリーサマーちゃんが曲作りを始めたのは高校生のとき。この家は、自身のアーティスト活動の起点でもある。曲作りを始めたときの制作環境について振り返ってもらった。
「マルチトラック・レコーダーのZOOM R8をプレゼントでもらって、電子ピアノでいろいろな音色を使いながら多重録音していました。R8を手に入れるまではTuxGuitarという無償のタブ譜制作ソフトを使って曲を作っていたんです。作ったタブ譜を再生してくれる機能があるんですけど、とてもチープな音で(笑)。今でも譜面を作りたいときにはTuxGuiarを使いますし、そのチープな再生音を曲に採用することもありますよ」
制作スペースに入ろうとすると、まず隣の部屋に目が止まった。そこは和室だが、電子ドラムYAMAHA DTXシリーズやORANGEのギター・アンプ、さらにはグリーンバックまで用意された異質な空間に仕上がっている。「ここは練習部屋なんです」とラブリーサマーちゃんは話す。
「本当はバンド・メンバーに来てもらって、曲のアイディアを出し合ったりしたいんですけど、現状ではなかなか人を呼べていない状況です。今は自分で演奏の練習もしますし、R8を持ってきて簡単なデモ制作もしていますね。ちなみに、グリーンバックはここでMVを撮影したときに使ったもので、片付けずにそのまま残っているだけなんです。グリーンバックを使った配信ライブとかもやってみたいんですけどね」
では制作部屋をのぞいてみよう。デスクにはSTEINBERG CubaseがインストールされたAPPLE iMacや、モニター・スピーカーのFOSTEX PM0.4N、オーディオ・インターフェースのROLAND Rubix44などが置かれている。楽曲制作の流れについて聞いてみると、「私、作り方が変なんです」という前置きをした上で解説してくれた。
「ボイス・メモでアイディアを録音しておくのですが、私の場合はボーカルのメロディや楽器のフレーズ、全体のイメージなどをすべて含めた上で曲の流れに合わせて録音していきます。ギターのフレーズを口ずさみ、ドラムも口で歌ったり机をたたいたりして入れて、続く金管楽器のリフも口で歌うわけです。途中で“この音は稲妻が光っている感じ”“1拍目はLINN Linn Drumの音”とかイメージの説明も挟みつつ‥…。そのボイス・メモをもとにCubase上で再現していくような流れです」
ギター・アンプのTHR10にマイクを立て
部屋鳴りをリバーブとして活用しつつ録音
ラブリーサマーちゃんの曲で特徴的なのは、やはりギター・サウンドだろう。どのように録音しているのだろうか?
「本チャンはスタジオで録ることがほとんどですが、たまにデモからトラックを引っ張ってきたりもしますし、バンド・メンバーにイメージをしっかり伝えるためにも、デモでの音作りはちゃんと行っています。ギターを録るときはRubix44に直接接続することもありますし、ギター・アンプのYAMAHA THR10のオーディオ・インターフェース機能を使って、THR10で作った音をそのままCubaseに録ることもします。また、THR10の前にマイクを立てて録音することもありますね。この部屋は部屋鳴りがすごいんですが、それがかわいい感じのリバーブになってくれるんです。お風呂で歌っている女の子の声みたいなイメージですね」
楽曲での登場頻度は低いそうだが、シンセも幾つか用意されていた。
「YAMAHA MX49はよく使っています。音が良いのはもちろんですが、入っているプリセット名が気に入っているんです。“SEKAI-ISAN”や“Setsunai”とかで(笑)。そんな個性的な名前から音色を選ぶのが好きですね。最近ではKORG MS-20 Miniを買いました。シンセの音作りの勉強がしたかったんですが、ソフト・シンセだと画面上のつまみをいじるのが大変で、実際にケーブルを抜き差しした方が絶対に楽しいだろうと思ったんです」
仮歌の録音には、BLUE MICROPHONES Baby Bottleを使っているようだ。初めて買ったマイクだという。
「エンジニアの方にアドバイスしてもらって選んだんです。私の声は中高域が奇麗に抜けるマイクが合うと言われ、いろいろと試した中からBaby Bottleを選びました。スタジオ録音時ではTELEFUNKEN U47かNEUMANN U87を気に入って使っています」
音楽活動をスタートした場所に回帰し、新たな気持ちで制作に勤しむラブリーサマーちゃん。この場所へ戻ってきたことは制作にも影響があったのか、最後に尋ねてみた。
「周りに住んでいる方は昔からの知り合いなので、音漏れなどに気を遣い過ぎることなく曲作りができるのはありがたいですね。それに、自分が育ってきた部屋に戻ったからなのか、コロナ禍で一人で過ごす時間が増えたからなのか、ゆったりとした気持ちで制作できている気がします」
Equipment
[DAW System]
Computer:APPLE iMac
DAW:STEINBERG Cubase
Audio I/O:ROLAND Rubix44、Quad-Capture、IK MULTIMEDIA IRig Acoustic
Controller:KORG NanoPad2
[Recording & Monitoring]
Recorder:ZOOM R8
Monitor Speaker:FOSTEX PM0.4N
Monitor Controller:MACKIE. Big Knob Passive
Headphone:SONY MDR-CD900ST
Microphone:BLUE MICROPHONES Baby Bottle
[Outboard & Effects]
Pedal Effects:BOSS DSD-3、OS-2、BD-2、RC-30、ME-20、MXR Super Comp、PROCO Rat2、TC ELECTRONIC Hall Of Flame、ELECTRO-HARMONIX Big Muff、DANELECTRO Fab Distortion D-1、etc.
[Instruments]
Keyboard & Synthesizer:YAMAHA MX49、KORG MS-20 Mini、Volca Beats、ROLAND FA-06、CASIO SA-5
Guitar:SQUIER Jazzmaster、FENDER Telecaster、Jazzmaster、SELDER ST Type、OVATION Celebrity、YAMAHA Nylon Guitar、Acoustic Guitar、MARTIN Acoustic Guitar
Bass:BACCHUS JB Type
Drums:YAMAHA DTX
DJ Tool:DENON DJ MC2000
Other:KALA Ukulele
ラブリーサマーちゃん
【BIO】1995年生まれのシンガー・ソングライター。高校時代より自宅での制作をスタートし、公開した楽曲がSNSなどで話題に。以降、2枚のアルバムをリリースし、9月には3rdアルバム『THE THIRD SUMMER OF LOVE』を発売した
Recent Work
Private Studio 2021