神谷洵平(赤い靴)のプライベート・スタジオ 〜Private Studio 2021

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ドラム・セットと制作環境を一堂にセットアップ
自分の正解を集中して見付けるための6畳の修行部屋

 これまで多数のアーティストのサウンドを彩ってきたドラマーの神谷洵平。東川亜希子とのユニット=赤い靴での活動やCM/劇伴音楽の制作などその活動は多岐にわたり、今年9月には自身初のソロ・アルバム『Jumpei Kamiya with…』をリリースした。アルバムの制作場ともなった神谷の自宅兼プライベート・スタジオを訪問。6畳の防音室を開けると、そこではドラム・セットが圧倒的な存在感を放っていた。

Text:Kanako Iida Photo:Hiroki Obara

 

SONARWORKS Reference 3でミックスに自信
ドラムとマイクのポジションを常に研究

 今年頭に予定していた神谷のライブ・ツアーはコロナ禍の影響で惜しくも中止に。別の方法で音楽を表現すべく、ツアーを共に回る予定だったメンバーを集めてリモートで制作が進められたのが『Jumpei Kamiya with…』だ。

 

 「アルバム自体は3〜4年前から作ろうと思っていたのですが、方向性を悩み過ぎて作れていなかったんです。今回はリモートという制限があったおかげでできたようなものですね。アルバムがきっかけで、家でドラムを録ってCM音楽などに提供することも増えました。生ドラムを家で録れる人はあまり居ないので、喜んでもらえることが多いですね」

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デスク正面には、APPLE iMacを設置。オーディオI/OのUNIVERSAL AUDIO Apollo X4には、FOCUSRITE Clarett OctoPreをADAT接続し、入力を8ch増やしている

 最近は神谷がミックスまで手掛けて納品することも増えている。その鍵となったのがモニター環境の改善だ。

 

 「ミックスは、キャリブレーション・ソフトのSONARWORKS Reference 3を導入してから自信が持てるようになりました。僕は100〜200Hzが一番好きな帯域なのですが、以前は膨らみすぎて削られてしまうことがあったんです。今はその辺りをうまく出しやすくなりましたね」

 

 神谷の宅録デビューは中学生のころ。当時からドラムにマイクを立ててレコーディングを行っていたそうだ。

 

 「中学生のときに親にROLANDのZIPドライブMTRを買ってもらって、20代半ばまでずっと使っていました。20代後半からはAPPLE GarageBandで曲を作り始めて、その流れで今はLogic Pro Xを使っています。作曲するときはLogic Pro Xの付属音源やNATIVE INSTRUMENTS The Gentlemanなどでピアノを弾きながらメロを考えて構築していきますね。ビートを作るのは最後で、いろいろなビートを試した結果アレンジを全部変えることもあります」

 

 ドラマーとして活躍する神谷だが、意外にも打ち込みのドラムの方が表現しやすいこともあると話す。

 

 「打ち込みにはNATIVE INSTRUMENTS Maschine MK3を多用します。生ドラムだと頭の中で鳴っている演奏が表現できないこともあるんです。そういう意味では打ち込みの方が表現しやすいこともありますね。生のキックでは出せないような低音もいとも簡単に作れますし。ドラムの打ち込みにはROLAND TR-808系のサウンドを多用しています。ちなみに、生っぽい音源はあえて使わないようにしていて。自分が空気感や人間らしさを落とし込めるのは生ドラムしかないので、そこを裏切っちゃいけないなと思っています」

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NATIVE INSTRUMENTS Maschine MK3はシーケンサーを使わずリアルタイムにパッドをたたいて演奏。KORG Monologueは作曲時にシンセ・ベースなどで使われている

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中段にあるHARRISON Lineageは8chのマイクプリで、2chごとにHARRISONの異なる年代のマイクプリをシミュレート。神谷はこの組み合わせを変えることで音色に変化を付けている

 自宅でのドラム・レコーディングは成功と失敗の繰り返しで、時にはドラム・セットを入れ替えて録り直すことも。ドラムの設置場所を数十cm動かすだけでも音が顕著に変わるのがこの部屋の面白さだと神谷は語る。

 

 「引っ越してきて3年ですが、ドラムとマイクの最適なポジションに関しては、今でも研究を続けています。制作中はドラム・セットを極力真ん中に置くようにしました。壁の近くに置くと部屋の角に低音がたまって、生音は良く聴こえるんですけど、録るとモコモコで。演奏と録音の最適な置き場所は違いますね。床にはライブでもスタジオでも持参するのと同じ種類のじゅうたんを敷いています。この床の響きが一番落ち着くんです」

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メイン・モニターはプロデューサーのタッカー・マーティン氏にあこがれて買ったというPROAC SM100。スモール・モニターAURATONE 5C EQもその上にセットアップ

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オープン・リールMTRのTASCAM 388。ビンテージ・テイストのサウンドを求められた際には、Logic Pro Xで作った2ミックスなどを通し、EQ処理を行う。EQのかかりの良さが魅力だそう

ドラムとの相性を重視したプラグイン選び
個性的な機材で家の個性を限界まで出す

 神谷が愛用するのはUNIVERSAL AUDIO UAD-2のプラグイン。ドラムとの相性を重視して使い分けていくという。

 

 「だいたい最初はファットで少し甘い音になるUA 610 Tube Preamp & EQ Collectionを試してみて、粒立ちを良くしたいときはHelios Type 69 Preamp And EQ Collection、温かみが欲しいときはNeve 1073 Preamp & EQ Collectionを選ぶことが多いですね。ドラム・ミックスにAPI Vision Channel Stripをかけると、押出しのある音になります。ビンテージっぽくしたいときはFairchild 670かChandler Limited Curve Bender Mastering EQを使います」

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ドラム・セットは随時入れ替えながら使用。マイキングもその時々で変えている。背後にはアンビエンス・マイクとしてCOLES 4038を2本設置

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ドラム全体の胴鳴りを鮮明に収めるために欠かせないのがトップ・マイクとして使用するNEUMANN U67。特にJポップの制作ではCOLES 4038と併用して高域の抜けを補うことが多いという。時にはU67のみでアンビエンスを収録することも

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NORD Nord Stageは主にMIDI鍵盤として使用。その上にはROLAND JU-06Aや、アレンジで使うポケット・サックス、リコーダーが並ぶ。KORG Micro Samplerはアーティストの声などをサンプリングしてライブやリハで活用しているという

 プライベート・スタジオの魅力について尋ねると、「自分だけの世界に入れること」だと答える。

 

 「自分の正解を集中して見付ける場所、スタジオへ行く前にマイクの特性を知るための研究場所だったりもします。この部屋で一番いい音で録れる音量というのが分かったんですが、ものすごく小さいんです。スティックの太さとかでも細かく調節して、音作りの段階でコンプなどを使って太くします。ここは自分の中で修行部屋です

 

 防音室以外に、リビングにアップライト・ピアノを設置したり、屋根裏にドラムを収納するなど、家全体が音楽仕様とも言える。今後この自宅兼プライベート・スタジオをどのように活用していきたいか尋ねてみた。

 

 「この家の個性を限界まで引き出したいと思っています。ここでしか録れないものをと考えた結果、アウトボードもレコーディング・スタジオにはあまり無いような個性的な機材が増えていきました。今後は人を呼んで一緒に録れる環境を整えたり、配信にも挑戦したいです。録音機材はここ1〜2年でそろえ始めたので、アウトボードも増やしたいと思っています。でもドラムを買っちゃうんですよね」

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神谷の所有するマイク。「ドラム用マイクは試しにいろいろ買ってみている」そうで、現在その数は30本以上に及ぶ。写真左上はオーストラリアから個人輸入したDRALIENSMITH Subkick-01で、バス・ドラムの外に立てることが多い

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モニターにはBEYERDYNAMIC DT 770 Pro 32(左上)、AUDIO-TECHNICA ATH-M50X(右上)、SONY MDR-CD900ST(左下)を使用。イアモニはJH AUDIO JH16V2Proを愛用する

Close up
屋根裏部屋もドラムの収納スペースとして活用

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 膨大な量のドラムを所有する神谷。屋根裏部屋をのぞかせてもらうと、そこには多数のバス・ドラムやスネア、タムなどが収納されていた。ドラム購入時のこだわりを尋ねたところ、海外の湿度の低い地域で長年使われていたものは乾燥した状態のため音が良いことも多く、海外のオークションやサイトから探して購入するという。

 

Equipment

[DAW System]
Computer:
APPLE iMac
DAW:APPLE Logic Pro X
Audio I/O:UNIVERSAL AUDIO Apollo X4、FOCUSRITE Clarett OctoPre
Controller:NATIVE INSTRUMENTS Maschine MK3

[Recording & Monitoring]
Recorder:TASCAM 388
Monitor Speaker:AURATONE 5C EQ、PROAC SM100
Headphone:AUDIO-TECHNICA ATH-M50X、SONY MDR-CD900ST、BEYERDYNAMIC DT 770 Pro 32
Earphone:JH AUDIO JH16V2Pro
Microphone:NEUMANN U67、TLM 49、COLES 4038、SHURE SM7B、SM56、SM57、SM58、SM86、588SD、KSM137、AUDIO-TECHNICA ATM25、AKG D 2000 E、D12 VR、D 120 E、D 190 E、ELECTRO-VOICE RE410、RE20、AUDIX F5、SANKEN MO-211、DRALIENSMITH DirtMic-01、Subkick-01、CAD Equitek E-100、E100²、BEYERDYNAMIC X 1N、M69N、M 201 TG、M300、RODE NT4、TELEFUNKEN MD421/5、SENNHEISER MD408

[Outboard & Effects]
Mic Preamp:STUDIO TECHNOLOGIES Mic-PreEminence Microphone Preamplifer、HARRISON Lineage、N-TOSCH HA-S149、MILLENNIA HV-3B
Multi-Effects:YAMAHA SPX 90
Other:NEUMANN NU67 V、RUPERT NEVE DESIGNS RNHP、BRYSTON 3B、YAMAHA A100A

[Instruments]
Keyboard & Synthesizer:NORD Nord Stage Revision B、ROLAND JU-06A、KORG MicroSampler、Monologue、SEQUENTIAL Prophet Rev2 Bass:KAY K5970 Jazz Special Bass
Drums:GRETSCH Bass Drum、AQUARIAN Snare、LUDWIG Tom、REMO Tom、etc.
Others:XAPHOON Pocket Sax、YAMAHA YRS-38BIII Soprano Recorder

 

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神谷洵平

【BIO】ドラマー/作編曲家/プロデューサー。東川亜希子とのユニット=赤い靴での活動や劇伴、CM音楽の制作も行う。大橋トリオ、Predawn、THE CHARM PARK、優河、矢野顕子、コトリンゴ、あいみょん、星野源、トータス松本らの作品やライブにも参加

 

Recent Work

Jumpei Kamiya with...

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  • Jumpei Kamiya
  • J-Pop
  • ¥1681

 

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