蒼然たる空間で目をこらせば
シンセのLEDによる美しき世界が広がる
L'Arc-en-Cielのドラマーであり、自らトラック制作/ボーカルを務めるプロジェクト=ACID ANDROIDではシンセ愛あふれるエレクトロニック・サウンドを聴かせるyukihiro。2020年8月号でも少しお見せしたように、彼のプライベート・スタジオはハードウェア・シンセがところ狭しと並ぶ、クリエイター垂ぜんの空間だ。
Text:Kentaro Shinozaki Photo:Hiroki Obara
大量のハードウェア・シンセは
Apollo 16でまとめてモニターしている
「Prophet-5 Rev.4、買おうかどうか悩んでいるところです(笑)」と開口一番、最新機種の話題について語り出したyukihiro。彼はビンテージであるProphet-5 Rev.3も昨年入手済みである。
「Rev.3はあこがれのシンセだったので迷わず購入しました。“良い状態のRev.1とRev.3があります”とお店の方から連絡をいただき、実際に触ってみて音はRev.1の方が太く感じたんですけど、総合的に扱いやすかったRev.3に決めました。実際に手元にあると触っているだけでテンションが上がります」
傍らには現代MOOGの豪華アナログ・ポリシンセ、Moog Oneも鎮座。同製品は8ボイスと16ボイスの2タイプがラインナップされており、yukihiroが所有するのは16ボイス・モデルだ。新しいシンセということもあって「Moog Oneはまだ使いこなせてない気がしますね」と語る。
ほかにもWALDORF Quantum、MOOG Minimoog Model D、SEQUENTIAL Prophet-6、OB-6、KORG ARP 2600FSといった近年の注目機種、そしてROLAND Jupiter-6やMOOG Minimoog Voyagerシリーズなどyukihiroが以前から絶対的な信頼を寄せる機種まで、数え切れないほどのシンセを確認できる。それらはAVID Pro ToolsのMIDIトラックからコントロールされているが、オーディオ入力はどのようにまとめているのだろう?
「基本的にシンセはUNIVERSAL AUDIO Apollo 16に結線していて、内部ミキサーで2chにした後、AES/EBUでPro ToolsのHD I/Oに入れてモニターしています。なのでApollo 16はオーディオI/Oとしてではなく、入力をまとめるミキサー兼UADプラグインのDSPという用途ですね。ただしこれは作曲でモニターするときのルーティングで、本番用にPro Toolsへシンセを取り込む段階では個別にマイクプリで音色を整えてからレコーディングをしています」
なお、現在はシンセの増加に対応するためオーディオI/Oの増設、また「最近ドラムを録ることも多くなった」ということでマイクプリのさらなる拡充も考えてるようだ。残念ながら今回は撮影していないが、このスタジオにはドラム・ブースも完備されており、ドラマーとして日々の鍛錬ももちろん欠かしていない。
新しいシンセを導入したら
それをどこに置くかまで熟考する
このようにアナログからデジタル、そして鍵盤モデルからモジュール・タイプまで所有しているハード・シンセの中で、“最も気に入っている一台は?”という難しい質問をyukihiroに投げ掛けてみた。すると、通好みなビンテージ・シンセの名前が。
「一台だけ選ぶのは難しいですが、あえて挙げるならROLAND MKS-80でしょうか。この“Super Jupiter”は自分が初めて買ったシンセなんです。よく使うのは“ジュワー”っていう音色。先日、中古市場にプログラマーのMPG-80付きで出ていたので、思わずもう一台買いそうになったくらい好きです(笑)」
そのほか、メイン・デスクの横にあるAKAI PROFESSIONAL MPC4000も10年以上前の機材であるが、yukihiroが現在も頻繁に手を伸ばすツールの一つ。DAWやソフト・サンプラーで手軽にオーディオを扱えるようになったが、yukihiroにとってはハード・サンプラーこそがクリエイティブ・ツールだと語る。
「今までAKAI PROFESSIONALのサンプラーしか使ったことがないので“MPCの質感がほかより優れている”とか、そういう話ではないんです。単純にMPC4000で作っていると楽しくて、サンプルをエディットするときも作業の実感が伴う。それが自分にとって重要なんです。昔ながらのエレクトロニック・ミュージックの作り方ですよね」
音楽作りへのモチベーションがいかに大事かがうかがえる言葉だ。自らのクリエイティビティを刺激するという点では、異世界のようなこのスタジオの雰囲気も大いに影響している。
「空間作りは重要だと思います。例えばこのWALDORF Quantumが入っている棚は特注でデザインしたので、出来上がるまではシンセがあってもセットしていない状態だったんです。でも、ちゃんと環境を整えてからでないと制作のモチベーションが上がらないのでそれでいいんです。以前は自分以外の人も使うだろうと考えていたのですが、最近は本当にプライベートな空間になってきているので、音響も含めてさらにこだわっていますね」
昨今の状況によってライブ活動を断念さぜるを得ず、現在はスタジオにこもっての制作が中心。それだけに、ハイクオリティなプライベート・スタジオがある状況に対してあらためて感謝の念を抱いているそうだ。
「創作意欲は常にわいているので、それを形にできる場所があるのはとても恵まれていることだと思っています。せっかくできる環境にあるのだから作り続けないと申し訳ない。そう思いながら作業を続けています」
Equipment
[DAW System]
Computer:APPLE Mac Pro
DAW:AVID Pro Tools│HDX
Audio I/O:AVID HD I/O、UNIVERSAL AUDIO Apollo 16
Clock Generator:ANTELOPE AUDIO Isochrone 10M、AUDIO & DESIGN READING SyncroGenius HD Pro
[Recording & Monitoring]
Monitor Speaker:MUSIKELECTRONIC GEITHAIN RL901、RL904、RL906
Monitor Controller:GRACE DESIGN M905
[Outboard & Effects]
Mic Preamp:AMS NEVE 1073 DPX、BRENT AVERILL Classic Neve 3405、MANLEY Dual Mono Microphone Preamplifier、NEVE 1073、VINTECH AUDIO 273、473
Compressor:UREI 1176LN
Delay:ROLAND SDE-2000
Chorus:ROLAND SDD-320
Filter:SHERMAN FilterBank
[Instruments]
Keyboard & Synthesizer:DOEPFER Dark Energy、A-100、MS-404、KORG ARP 2600FS、ARP Odyssey Rev.1、Minilogue、MELLOTRON M4000 Rack、MOOG DFAM、Minimoog Model D、Minimoog Voyager Electric Red Edition、Minimoog Voyager Rack Mount Edition、Mothter-32、Moog One、Sirin、ROLAND Integra-7、Jupiter-6、Jupiter-X、MKS-80+MPG-80、SH-01A、TB-03、TB-303、NORD Nord Lead 4R、Nord Rack 3、SEQUENTIAL OB-6、Prophet-5 Rev.3、Prophet-6、WALDORF Blofeld、Quantum
Rhythm Machine:ROLAND TR-606、TR-08、TR-808、TR-09、TR-909、STUDIO ELECTRONICS "Harvey" 808
Sampler:AKAI PROFESSIONAL MPC4000
yukihiro
【BIO】L'Arc-en-Cielのドラマーとして、また自身のプロジェクト=ACID ANDROIDを中心に活動。後者ではとりわけエレクトロ/インダストリアルな電子音を多用し、THE NOVEMBERSの新作『At The Beginning』にもプログラミングで参加した。
Recent Work
Private Studio 2021