ボーカル/ギター録音を楽しめるように
DIYで防音対策を施したワークスペース
ロック/R&B/ダンス・ミュージックなど多様な音楽をクロスオーバーさせた音楽が持ち味のAwesome City Club。その中でギタリストを務めているのが、モリシーだ。DAOKOや須田景凪のサポート・ギタリスト/キーボーディストとしても活動するほか、作編曲家としての顔も持つ。そんなモリシーのプライベート・スタジオは、すべての活動の拠点になっているようだ。
Text:Mizuki Sikano Photo:Yusuke Kitamura
天井にあえて吸音材を張らないことで
デッドになり過ぎないように工夫している
自宅の一室をスタジオ化するにあたり、自らホーム・センターで材料を調達して、DIYで防音を行ったというモリシー。
「近所に住んでいる父親に手伝ってもらいながら、遮音シートを敷いて、収音材を設置したりしました。天井は何もしていないので若干の反射音は気になりますが、デッド過ぎない空間にするためにも、今の状態をキープしています。普段から低音を結構出してモニターしているのに、まだ近所から苦情が来たことはありません」
普段からこのスタジオには、バンド・メンバーなど音楽仲間が訪れて共に作業をしているという。Awesome City Clubの最新アルバム『Grow apart』のギターは、ここで録ることが多かったとモリシーは振り返る。
「楽曲制作はボーカルのatagiが主導で行っているので、僕はギターに徹しています。さらに、今回はアレンジにESME MORIなどが参加しているので、ディレクションも受けながら取り組んでいました。自分のギターは基本的に宅録で行いましたが、アレンジャーやメンバーが立ち会いに来ることもありましたね。それ以外はラフ・アレンジを聴きながら録ったギターを3テイクほど送って、良いものを使ってもらっています。特に本チャン録りなどの機会を設けることは無く、送ったものが自由に使われている感じです」
ギター録音は自身のポリシーに従って行っているそうだ。
「ギターを宅録で行う場合は、なるべく一曲通しで録るようにしているんです。そうすることで、DAWベースの制作においても人間味を出せるように努力しています。ギターはライン録りで行っていて、コンパクト・エフェクターで音作りをしてからUNIVERSAL AUDIO UAD-2プラグインのAPI 2500 Bus Compressor、SSL 4000 E Channel Strip Collectionなどを使いますね。最後にUAD-2のOxide Tape Recorderを通すと、低域がグッと前に出るんですよ。最近はテープ・シミュレーターにハマっていて、バス・ドラムには、WAVESFACTORY Cassetteをかけるのがお気に入りです」
先述の通りモリシーは作編曲家としての活動もしており、このスタジオで依頼者と共同制作を行うこともあるという。
「シンガー・ソングライターMega Shinnosukeの楽曲「Cutie girl」を手掛けた際には、ノー・アイディアの状態から作業をしました。ブレインストーミングから打ち込みまで、相談しながら一緒に作りましたね。僕は依頼者の上に立って引っ張るのではなくて、サポートしながら共に構築していきます。もともと僕はそこまで我が強いタイプではないんです。バンド内でもソロで作編曲をするときでも、基本的にはリーダーをサポートするスタンスで取り組んでいます」
用途別にモニター・スピーカーを2機種用意
さらに超低周波発生装置で快適な環境を作る
編曲の仕事では自らラフ・ミックスも行っており、「DAWはメインでPRESONUS Studio Oneを使っています」とモリシーは語る。
「APPLE iPad内でリモート・コントロール・アプリのPRESONUS Studio One Remoteを立ち上げて、ボリューム・フェーダーを操作してミックスしています。メーターを見てしまうと“普通キックはこんなに上げないよな……”などと細かいことを考えてしまって、自分の耳を信じられなくなるときがあるんです。セオリーに従うだけではなくて、自分の直感を信じてミックスを行うためには欠かせないツールです」
モニターは、新しく購入したというFOCAL Solo6 BEとYAMAHA NS-10M Studioを使い分けているようだ。
「もともとはJBL PROFESSIONAL LSR305を使っていたのですが、物足りないと思うようになってきたのでSolo6 BEを購入しました。特に高域の解像度がとても高いので、リバーブ成分まで見えるようになりましたね。また、以前よりも音の奥行き感を調整しやすくなったという実感があります。さらに超低域までしっかりと鳴るので、ワイド・レンジな音楽も一つ一つの音がとらえやすくなりました。NS-10M Studioは中音域のバランスがよく見えるので、トラディショナルなバンド・スタイルの曲と相性が良いです。僕はギターの録音時によく使いますね」
その上にセットされた超低周波発生装置のACOUSTIC REVIVE RR-777は最近の制作に欠かせないアイテムだという。
「とにかく音質が良くなります。全帯域どの音にもピントが合って、分離感が向上するんです。さらに、低域は豊かに聴こえてきますね。それに加えて、ハッピーな気持ちで制作を終えることができるんですよ。設置する前までは作業がよく煮詰まっていたので購入して良かったなと思いました」
作編曲家としての活動も増えてきたことで、サウンド面で新たに挑戦したいことも増えてきたという。
「今はDAWの中でミックスをすることが多いですが、これからはアナログ機器を通した音で曲を構築してみたいと思います。プラグインで作るのとは違う感覚で、ミックスをしてみたいんです。今後はデスクトップ型のアナログ・ミキサーなどを導入してみたいですね」
Close up
ボーカル録りに欠かせないマイクプリ/4バンドEQ
FOCUSRITEのマイクプリ/4バンドEQ=Red 6は、モリシーのボーカル録りにおいて必要不可欠なアイテム。「主に男性ボーカルを録るときに内蔵EQで8kHz辺りを少し持ち上げると良いニュアンスに仕上がります。故障した際には本国への連絡が必要なので、メインテナンスは大変です」
Equipment
[DAW System]
Computer:APPLE iMac
DAW:APPLE Logic Pro X、AVID Pro Tools、PRESONUS Studio One
Audio I/O:UNIVERSAL AUDIO Apollo Twin MKII、ROLAND Go:Mixer Pro
Controller:ARTURIA KeyLab 61
AD/DA Converter:RME ADI-8AE
[Recording & Monitoring]
Recorder:IZOTOPE Spire Studio
Monitor Speaker:FOCAL Solo6 BE、YAMAHA NS-10M Studio
Headphone:SONY MDR-CD900ST、MDR-1000ABN
Earphone:FITEAR MH334
Monitor Controller:CONISIS M04
Microphone:AUDIO-TECHNICA AT4050、SENNHEISER MD421-II
Other:ACOUSTIC REVIVE RR-777
[Outboard & Effects]
Mic Preamp:FOCUSRITE Red 6
Multi-Effects:LINE 6 HX Effects
Pedal Effects:BOSS BD-2、BD-2W、EARTHQUAKER DEVICES Tone Job、INFINITY Mugen、TC ELECTRONIC Sub'N'Up Octaver、etc.
[Instruments]
Keyboard & Synthesizer:YAMAHA Motif-Rack、KORG Monologue、MicroKorg、YAMAHA TX81Z
Guitar:FENDER Telecaster、Jazzmaster、GIBSON LG-2、YAMAHA FG-200、etc.
Bass:FENDER JMJ Road Worn Mustang Bass
Guitar Amp:FENDER Blues Deluxe、POSITIVE GRID Spark
モリシー
【BIO】男女ツイン・ボーカルの3人組、Awesome City Clubでギターを担当。ソロでは作編曲家としても活動しており、サポート・ミュージシャンとしては、DAOKO、須田景凪、Mega Shinnosuke、mihoro*などのライブやレコーディングに参加している
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