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坂本英城氏(ノイジークローク代表)が語るPSOの存在意義と可能性 〜オンラインでのオーケストラ録音を可能にする『Private Studio Orchestra』【前編】

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音楽業界に多大な影響を与えている新型コロナ・ウィルス。制限せざるを得ないことも多い中、アーティストや企業はさまざまな手法で音楽を届けている。ゲームを中心に、多彩なコンテンツの音楽を制作しているノイジークロークが新たに取り組んでいるのは、リモートでオーケストラ楽曲をレコーディングするPrivate Studio Orchestra(PSO)というプロジェクトだ。通常、スタジオやホールなどでレコーディングされるオーケストラだが、人が密になってしまいやすいため、感染対策など気を遣う部分も多い。しかし、PSOでは録音からミックス、納品まですべてオンラインで完結することが可能。また、譜面作成やディレクションなども、ノイジークロークがしっかりとサポートしてくれる。さらに、PSOには日本を代表するオケ奏者らが参加しており、彼らの演奏を録音できることも魅力だ。時代に合わせた新しいオーケストラ・レコーディングの手法として生まれたPSOについて、ノイジークロークと奏者の方々に話を聞いた。

Photo:Takashi Yashima

 

優秀な奏者に集まってもらいやすく
スタジオ代などのコスト削減にもつながる

 オーケストラをリモートで録音するという新たな手法に挑戦しているPSO。まずはノイジークロークの代表を務める坂本英城氏に、PSOをスタートした経緯やその取り組みについて話を聞く。

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作曲家/ノイジークローク代表を務める坂本英城氏。オーケストラ・サウンドを中心に、ロックから民族音楽まで多彩な音楽を制作する。これまでに『大乱闘スマッシュブラザーズ SPECIAL』(メインテーマ「命の灯火」を担当)『三國志14』などのゲーム音楽、『文豪とアルケミスト ~審判ノ歯車~』などのアニメ劇伴などを手掛けてきた

 PSOデモ・ソング「ボレロ」

トップ奏者である今野均(vln)、最上峰行(oboe)、福川伸陽(horn)、辻本憲一(tp)、萱谷亮一(perc)をはじめとするPSOの奏者たちがラヴェルの「ボレロ」(編曲:坂本英城)を演奏。奏者の自宅で録音が進められ、エンジニア込山拓哉氏によるミックスで自然なオーケストラ・サウンドを実現している。

 

― PSOのアイディアが生まれたのは、やはり新型コロナ・ウィルスによる影響からでしょうか?

坂本 はい。オーケストラのコンサートはどんどん中止となり、レコーディングも無くなってしまい、僕の知り合いのオケ奏者の方々が頭を抱えている様子を見てきました。ノイジークロークが培ってきた経験を元にオケ奏者の方々をサポートしたい、と考えたのがPSOの始まりです。また、この状況がいつまで続くのか分からずレコーディングもできない中、このままだと生音のオケが無くなってしまうのではないかという危機感もありました。そこで、奏者が自宅に居ながらオケをレコーディングする方法を模索し始めたんです。

 

― PSOではどのような録音が行われるのですか?

坂本 PSOに賛同してくれる優れた奏者の方々にご協力いただき、彼らの自宅へ録音環境を構築しました。オーディオ・インターフェースやマイク、DAWの用意もこちらで行っています。こういう状況なので直接伺うことはできませんでしたが、エンジニアの込山拓哉がリモートでやり取りをしながら、マイクの位置や角度などを調整しました。録音は奏者の都合の良いタイミングで行ってもらい、各奏者のトラックを込山がミックスしてオーケストラとしてまとめ上げます。

 

― 奏者一人一人の完全なるパラデータからオーケストラ・サウンドを生み出すわけですね。

坂本 それがPSOです。自宅録音ができること以外にもメリットは幾つもあります。まず、優秀な奏者を集めやすいこと。スタジオなどで録音する場合、トップ奏者たちの予定を合わせるのはなかなか難しいですが、PSOであれば奏者の都合の良いタイミングで録音してもらえるので、いつも同じメンバーに演奏をお願いできるのです。また、スタジオ代や楽器運搬費がかからないという点はコスト削減につながります。スタジオの時間も気にせずに済むので、作曲家がとことん演奏内容にこだわることも可能です。

 

細かく分かれたパラデータになることで
新しいオーケストラの聴かせ方に挑戦できる

― 通常のオケの録音とは全く違うスタイルになっていますが、録音を進める上で重要なポイントはどこでしょうか?

坂本 まずは楽譜です。PSOでのオケ録音を依頼いただいた場合、その作曲家の方とは譜面の内容について細かく打ち合わせをします。例えば譜面にクレッシェンドが書かれていたとして、均一に音が大きくなっていくのか、それともクレッシェンドの途中から急に大きくなるのか、奏者によって違うとらえ方をしてしまうかもしれません。指揮者が居ない中で奏者の方には録音してもらうので、譜面だけで作曲者の考えがダイレクトに伝わるようにすることが大切です。譜面ができたら、まずはセクションのリーダーの方に演奏をしてもらいます。弦楽であればカルテットのような演奏がまず出来上がるわけです。その演奏を作曲家に確認してもらい、問題が無ければ全奏者に録音をお願いします。

 

― 各奏者のデータが集まるということは、“後からサウンドを調整する”ということも行いやすそうですね。

坂本 それもPSOの魅力だと考えています。スタジオでオケを一人ずつ録音するということは特別な目的が無い限りしませんが、PSOではそもそも個別録音がメインとなっています。それによって各トラック単位での調整を細かくできますし、パラデータとなっているからこそできる新たなアプローチもある。例えば、ゲーム音楽の制作では2ミックスではなくパラデータでの納品がよくあるのですが、PSOではさらに細かく分かれた一人ずつのデータとなるので、ゲーム内における音楽の聴かせ方も新しいことに挑戦できると思います。左右に大きくパンニングする、音が徐々に増えたり減ったりするなどのアイディアを実現できるのは面白いですよね。ゲームのプレイに合わせてリアルタイムに一奏者単位での音楽表現ができる。インタラクティブなゲーム音楽ととても相性が良いと思います。

 

スタジオ録音の代わりではない
新たなオケ録音の手法として確立できる

― PSO以外に、海外の演奏家にリモート録音をしてもらうPrivate Studio International(PSI)というプロジェクトも行っているそうですね。

坂本 PSOはリモートでやり取りをするわけですから、奏者の居場所を選びません。“海外の奏者にもお願いできるのでは”と弊社の作曲家の藤岡竜輔が提案し、彼主導の元で行っているのがPSIです。特に民族楽器においては、本場の奏者にしか出せないサウンドがあります。彼らの“本物の演奏”をオンラインで録れるのはPSIならではです。渡航費や滞在費がかからないこともメリットでしょう。

 

― PSOと同じく、演奏家の方へ機材のサポートなどが行われるのですか?

坂本 はい。やり取りは4カ国語を話すことができる藤岡が直接行っています。彼の存在はPSIにおいてとても大切です。通訳の方を挟むと伝えたいニュアンスが変わってしまうこともありますが、作曲家であり演奏家でもある彼が“音楽が分かる者同士の言葉”で伝えられるのが強みですね。

 

― PSOとPSIの今後の展望について教えてください。

坂本 始まりは新型コロナ・ウィルスの影響からでしたが、“スタジオやホールでの録音の代わり”という考え方ではなく、今後のオーケストラ・レコーディングの手法の一つとして確立できると思っています。5Gなどの通信環境が進化していけば、個別でなく奏者の同時録音も可能になるかもしれませんし、これからの発展も期待できますね。また、若い世代の作曲家たちが気軽にオーケストラ録音に臨める良いきっかけにもなってくれるとうれしいです。

 

 Private Studio International(PSI)

PSOと同じく、海外の演奏者とリモートでやり取りし、自宅録音〜ミックスを行うプロジェクト。民族楽器など、本場の演奏家にしか出せないサウンドを、日本に居ながらレコーディングできるのが魅力だ。デモ・ソング「Jigs : Those were the days set」が以下SoundCloudで試聴可能。

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ノイジークローク所属の作曲家、藤岡竜輔氏。PSIでの制作も担当している。4カ国語を話せるため、海外の演奏家と直接やり取りが可能。作曲家が意図する音楽的なニュアンスを通訳を介さずに伝えられる
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写真左から、PSIのデモ・ソングでアイリッシュ・フルートやホイッスル、イーリアン・パイプスを担当したシルヴァン・バルー(Photo:Rémi Hostekind)、同デモ・ソングでシターンを担当したロナン・ペレン(Photo:Eric Legret)

 

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